冥界の愛

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謎解き その1

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 冥界の仕事人 ミノス 

 今回の依頼は、『ペルセフォネ様周囲の怪奇現象について究明せよ』
ですね。


 今ある情報を整理してみる。

①ペルセフォネ様は無事に地上にお戻りになられた。(庭師のアスカポリスより)

②ペルセフォネ様には忘却術がかけられている。(ハデス様の術なので完璧のはず)

③ペルセフォネ様は冥界とは既に縁が切れている。冥界の所属ではなく天界の神の御子神として地上界でお仕事をしてお住まいデーメテール様保護に戻っている。(①と②より)

④ペルセフォネ様の神殿から夜になると高い泣き声が聞こえる。泣き声なのか?誰の泣き声なのか?は不明(ケイロン殿より)

⑤デーメテールの丘の辺りから聞こえる夜になると唸り声の様な怪奇な音が聞こえる。こちらは何の音なのか不明。どこから聞こえるのかも不明。冥界の入り口からと噂あり。(ケイロン殿より)

⑥地上界は木々や森や畑など生い茂り、人間達の営みもほとんど元の姿を取り戻している。(ケイロン殿より)かなりの早い段階でそんな状態なので、デーメテール様及びペルセフォネ様はお元気でお過ごしの様だ。少なくともかなりお仕事を頑張ったのだろう。


 とりあえずこんな所かなぁ。



 早速、俺は裁きの間に顔を出して仕事仲間に言い訳をしに行くと、既にハデス様から聞いていた様子だった。二人ともやや心配そうな顔をしながら頷き、俺の分の審判も代わりをしてくれていた。最近は何故か仕事もスムーズなので、早く行けとばかりに右手をシッシッと振って追い払われた。 俺はハデス様じゃないから口パクで、『もしも最近の地上の様子で何かわかったら後で教えてくれ』と二人に伝えてそこを離れた。

 とりあえず、ここで調べられる一番の情報は河原だなと、カロン爺さんの所に出向いた。

 

「お!ミノか? お前 サボりか?」

「そんな所だ。爺さんも一服するかい?」

「後 一便出してからちょうど休もうと思っておった。待っておれ」

「いや、ちょうどそれに乗せて行って欲しい。」

「ふぉふぉふぉ なんだ?船旅が懐かしくなったか?」

「そうだなぁ。でも最後に乗ったのはペルセフォネちゃんと一緒の時だからな、そんなに前の事じゃないな」

「あぁ もうずっと前の様な、ついこの間の様な。あの子が居てる間は不思議な出来事だったのぉ。元気にしておるのか」

「俺よりも爺さんの方が地上から来る人間から何か聞いてないのか?」

「………    ミノ。 何かあったのか?」

 普段 無口で唐変木なのに、変に鋭いんだよな、爺さんは。俺は正直にケイロン殿の話を爺さんにして、ここで情報を集めたい事を打ち明けた。

「裁きの間では、基本その人の話だけなんだ。他の話を聞いて、そいつが何か警戒したり、その話に気を取られて自分の事を話しそびれてしまうのを避けるためにな。原則こちらからは無関係な事を聞いてはダメなんだ。すまない、爺さんの渡しの仕事の邪魔しない様に気をつけるから。ちょっとだけ 俺を死者に紛れ込ませて欲しい。」

 そう言って爺さんなら情報収集の許可を聞くと、少し考えて

「ミノ。 あれから河原の渡場には来たか?」
と聞いてくる。

「あれからって?嬢ちゃんとの船旅の事?」

「いいや。最初じゃなくて、その後にあの子が何かお手伝いしたいと言って連れて来てくれてからじゃ。」

「そういや~ そんな、お手伝いしたいわって職場体験イベントあったな。あの時は河原が亡くなった人間達で溢れていたんだっけ」

「そうだ。それで嬢ちゃんが渡場に看板を書いてくれた。それを見た死んだ者達が、あれだけ自分がどうすればいいのかと迷ってたり我先にと揉め事もあった。それが船に乗る様に一列に並び始めたんじゃ。嬢ちゃんが書いてくれた看板は誰でも読める様になっておった。」
うん、それは知ってる。
「でも、中には看板を見る余裕の無い者もおってな。
あの子は最後に地上に帰る前に挨拶に来た。挨拶だけと思ったら『気になっていた事がようやくできました』って言ってな、
その看板に名前を書いて行った。ペルセフォネとしての名前じゃな。見て行ってくれ」


 カロン爺さんの言った様に河の向こう岸に着くと、今から死者の国に渡し船に乗るために多くの死んだ者がいた。
 その様子は以前と少し違っており、何人かは列に並んでいるがあちらこちらで石に🪨腰を下ろして何やら独り言を呟いていた。
 よく見ると一人で座ってるのは間違いないが、すぐそばに彼岸花が咲いていたり草が生えたりしており、それを見つめる者や川面を見つめて泣いてる者などいた。

なんだなんだ?どこかで見た様なデジャブだと思ったら俺様の職場と少し似た感じがする。
 少しずつ近づいて行くと、近くに咲いてる小さな黄色い可愛い花が俺に話しかけて来る。

『どうされましたか?お亡くなりになった方は、この後は船旅ですよ。向こうに並んでて頂ければもう少ししたら乗船の順番になりますから。お辛いですがお待ちくださいね』

え?なに?案内係なの?
その人その人に合わせた言語で話してくれるの?いや~便利な上にこの丁寧な口調。優しい感じはまさにペルセフォネちゃんぽい。
「はーい、わかりました」
そう言って移動しながら見てると、側ではカワラヨモギの草が他の死者とお話していた。
『そうなんですか。それはお辛かったですねー』
カワラサイコの黄色い花も話している。
『大丈夫ですよ。次がありますからね。さぁ その為にも船に乗って審判のミノス様の所に行きましょう。正直に思ったとおりに、お話し下さいね。ここは、本当の意味でお優しい方ばかりですからね』
『そう、そう。うん、うん。悔しいと思います』




な、な、なんなんだ。これは?!


ちょっと前から実は違和感があった。

やったら素直な死者が多くて、まぁ仕事しやすくていいんだけどなと思っていた。
それに「ミノス様~」って何故か懐いてる様な視線を死者の中から感じる時があって。中には「お会いしたかったです❣️楽しみにしてたんですよ」とか言われて、まぁ俺も有名になったのかもと思っていた。自惚れだったな。まさかお嬢の仕業か~。

 それにしてもこれは職務妨害じゃ無いのか?いや、でも実際仕事自体はやりやすいんだよな。
第一段階を終えて来ている様子な者が多かったから。他の二人にも聞いてみたら、「地上界が落ち着いて来た証拠じゃないか?」「前の飢えて死んで来た者たちもかなり少ない様子だしな」って返事だったから油断していた。もっと注意するべきだった。あの子どんな魔法を使ったんだ?

そう思ってるとカロンの爺さんが来て種明かししてくれた。

「ペルセフォネ様はな、ここを去る前に来た時に看板にご自分の名前を書いてここの皆に告げて行ったんじゃ」

『ペルセフォネの名の下に命じます。ここに生きてる私の命を聞ける草や花や木や生き物達よ。どうかこの河原で渡場としてカロンのお爺さんのお仕事を私の代わりに手伝って下さい。悩み迷って来る死者達に案内をして無事にミノス様達の所にたどり着ける様にできる範囲でお手伝いして下さい。よろしくお願いします』

 「そう告げて行ったんじゃよ」

おい おい おい お嬢さんよ。



 下手したら河原の石ころでさえ、ペルセフォネ名のもとでとお手伝いしそうだぜ。


「一応、ハデス様には報告したんじゃ。そっちで、何かトラブルが起きてはいないかと思ってな。こっちは本当に仕事がスムーズだ。呆気ないくらいな。反対に小さな花に、ねぎらわれる。お前さん風に言えば、わしの方が花達にいわゆる『お給料』あげたくなるぐらいじゃと、そう正直に報告した。
そうしたら、あの子は凄いな。ここを去ってもなおハデス様にあんな顔をさせられるなんて。
それは優しい顔をしてな、
『ミノスが、何かおかしいと職務妨害だとここに乗り込んできたらその時に考えるとしよう。それまではそのままでいいだろう。死者達は苦しみが足りなくて、その後の転生や昇華に支障が出てないか私も気をつけておくから。カロン殿もたまには激務が減ってもいいしな』
と、言ってくださった。」



あーやられた。ハデス様 知ってた?気付けって事だったかい!爺さんも教えてくれてもいいじゃんか?爺さんと俺の仲じゃないか。

俺が少し不貞腐れていると爺さんは笑って言った。

「あの方は ここに色んな爪痕を残して行きなさったな。奇跡の様な爪痕だのぉ。」

 爪痕、爪痕、、爪痕を残す、残すねぇ

何が引っかかったのか?と、考えごとして頭をボリボリ掻いていると、爺さんは続けた。


 「ペルセフォネ様が、もしも、向こうに帰って泣いている様な嫌な事があるなら、可愛そうじゃ。わしにも何か出来る事があれば教えてくれ。ここでミノが仕事しやすい様にするし、わかったら教えてくれ。」

自分は黙ってたくせにとは、言えずに人間の死者の格好のまま頷く。

 そうして俺はその日遅くまで、舟で川を往復もして、舟の中や河原で地上から来たての死者たちの中でペルセフォネ様に関する情報収集に勤しんだ。


 でも、どうしても爺さんの言った「爪痕を残す」に、何かがヒントがある気がしてずっと頭の中にリフレインしていた。


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