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夢ならばどれほど良かったでしょう
しおりを挟むハデス様の許可をもらいに行こうと部屋を出たら、ヘカテーさんが廊下をこちらに向かってやってきた。
「ヘカテーさん、さっきはごめんなさい。巻き添えにしてしまって。大丈夫とはお聞きしましたがお怪我とかないですか?」
「……」
「ヘカテーさん?」
「あんな風な事を誰かれ構わずに言うものじゃない」
「ん?」
「覚えてないのならそれでいい!ただ向こうに帰っても無闇矢鱈にあんな真似したり迂闊な事は言わない事だな。」
何かわからないけど、美人の赤くなっている横顔を見て(もしかして怒ってます?)
「はい、気をつけます?」と、とりあえず返事した。
あーぁ、ヘカテーさんには最後まで怒られるなぁと思っていたら
「ハデス様から、少しの時間ならミノスや部屋に付いてた世話人などに挨拶に行ってもいいとの伝言だ」
「え?ウソ? ヘカテーさんが聞いてくれたんですか? ありがとうございます。嬉しい!急いで行ってきます。」
「待て。ただ、終わったらすぐに忘却と界渡りの儀式を始めるから、ここに帰らずにネクロマンディオの洞窟の方へ向かってくれ。」
と言った後に
「ペルセフォネ様ならば、念じれば迷う事なく行けるだろう。」
と言われた。
随分と信用してるんだなぁ。私、結構 方向音痴なんだけど。
「わからなければ呼べ。洞窟でハデス様が貴女の花を持って待ってるから」
あー なんか、グッとくる。
花を持ってイケメンが待ってる!そんな美味しい餌に釣られて、地上に帰るのかー。
そうだった、カエラネバだわ。
でも、じゃあこれでヘカテーさんともお別れなのかしら?
地上に帰ってもこんなツンデレ美人いないよなぁ。この人の仲間意識、強い愛、好きだったなぁ。もしも、何かの間違いやら手違いでも、ヘカテーさんの仲間になれたら…。そう、手違いだったけど、出会えた幸せに感謝するわ。
「ヘカテーさん。色々とありがとうございました。」
頭を下げるとヘカテーさんも握手してくれた。
「お元気で。失礼な事を言いましたが、貴方がそれだけ優しい方だったからでしょう。貴女は綺麗に忘れた方がその方が幸せに過ごせるから。ここの皆も、貴女が向こうに帰って今後会えないとしても、元気に幸せに暮らしてくれる方がいいと思っている。だからもう忘れてなさい。」
やっぱり優しい冥界の戦女神に抱きついた。涙だけじゃなくて、鼻水まで衣につけてしまい、やっぱり最後はもう!ってちょっぴり怒られた。ふふふ、優しい優しい記憶がなくなることが前提の物語り。まるで夢の中のよう。
結局、ケイロンさんはそのままハデス様の元に呼ばれた。これでお別れになる様なので、ケイロンさんにもご挨拶しました。「お元気で。私は、たまに薬草を取りに地上に行くことがあるんですが、その時は人に変身しています。もしも、森で出会って懐かしく見つめてしまっても、変態に狙われたとデーメテール様に告げ口しないで下さいね。覚えてなくても此処での貴女の案内人であり、主治医ですよ。しっかり恩でも売っておこう。」と最後は笑ってお話くださいました。
「ケイロンドクターありがとうございました。とっておきの薬草の森に案内したいんです。記憶がなくなっても『肩たたき券』みたいな、必ず言う事聞かないといけない『薬草の森の案内券』をお渡しします。私は持って帰れなくてもケイロンさんが持ってくれる分には良いですよね?向こうでも会えたら嬉しいな~。そんなケイロンさんを変態だなんて絶対思いません。」(でも、ふふふふふっ。 変態ドクターですか?向こうで言ってしまったら どうしよう。)
冥府宮のお部屋で色々と世話をしてくれた人たちともお別れをすませた。
その後、念じるだけで冥界を移動できると信じてミノスさん達のもとにおっかなびっくり転移してみた。まぁなんとか移動できたんだけどね。
随分とシリアスな場面の裁判官としてのミノスさんのお膝の上に思いっきりボンッと登場してしまった。転移成功?いや大迷惑だったわ。最後までミノスさんには大笑いされたわ。トホホだよ。
ただミノスさんは私が名前をつけてもらえてペルセフォネだと名乗ると、目を大きく見開いてかなり驚いた顔をしてた。そう、髪もツヤツヤの黒髪になってと自慢したら何度も「そうか、そうか。そうだよな、すごいなぁ、運命ってやっぱりこんな所で見せつけるんだな。」ってやっぱりミノスさんは私の理解を超えていく。別れしなに優しい目をして「じゃあ、また」って手を振ってくれた。もう二度と会えない忘れてしまう私に「また」って言ってくれたミノスさん。ありがとう…お兄さんがいたらこんな風だったのかなぁ。
カロンのお爺さんとは、花友達だった。地上の綺麗なお花を河から流してカロンさんにも見せてあげたいと言う守れない約束をした。覚えていたい、せめてこれだけでも。またまた泣いてしまった私の頭を何度も撫でで慰めてくれたお爺さんにも、世話になったお礼だけはと嗚咽混じりの別れの挨拶を済ませた。
これが、夢だったら、起きたら、こんなに泣きすぎてまぶたが腫れてるだろうな。楽しい優しい夢。
あぁ、地上の、人々の、、飢えて苦しむのを寒さで凍え死ぬのを止めないと。
あぁ、帰らねば。そう、カエラネバ。
「さあ、ネクロマンディオの洞窟へ!」
涙を止めてそう叫ぶ。
時間は少し遡り、ペルセフォーネが皆に別れの挨拶をしてる間のハデス様の部屋に呼ばれたケイロンはハデスと帰還方法について話し合っていた。
「覚醒前ならともかく、もうレテの忘却水では例え泳いでも無駄でしょうね。
やはりハデス様の記憶消去の術が必要でしょう。
まぁ、その前の記憶も混乱なく戻った様なので問題は無さそうですね。少し試したい所ですが、いきなり始められますか?」
「もう、既に一度かけた。」
「え?いつ?あれはかかっている状態なのですか?相変わらずお見事です。しかし、どこを記憶消去しているのですか?それを確認してみなければ。」
「覚醒中にカオスと会ってる。そこでの会話を消した。だから確認の必要はない。カオスに触れると私の術だけでなく忘れる様にできている。例え神であってもハッキリとは覚えてはおれないだろう。その上で、術もかけたから。例え寝ている間に誰かに記憶を覗き込まれたとしてもそんな事実は見つからない筈だ。」
「いったい、どんな秘密を隠したんですか? いや、いいです。聞くと安眠できなくなりそうだ。ただ、ハデス様は大丈夫ですか?お辛そうには見えないし、見せないですが、私はこれでも医者です。他の者よりも少しはお体の変調を日々みているつもりです。あまり眠れない時はいい薬草がありますよ。ヒュプノスに眠りの力を試してみるのはどうですか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとう。酒でものんでみよう。」
そうだろうなぁ。ヒュプノスの眠りの力などこの方の前では全く効かないだろう。だが、ずっと酷い顔色をしているし辛そうな表情は見せない分、お使えしている者の中でもわかっている者は皆私に相談にくる。
なんともならないよ。原因はわかっているけど、それは私の医術では治らない。
いつでも、この方はそうやって自分の事など何も要求もせずに何も手を出したり欲しがったりと手に入れようとしない。ただただ世界のために動いて守って生きているだけなのだから。
今回のペルセフォネ様の過保護なまでも守ってらっしゃるのに、貴方様の心がある事は、ここに住まう者は皆んなわかっている。
名付けて、覚醒で飛び散りここに本体を置いたままカオスまで追いかけて、守り通したペルセフォネ様をハデス様が大切にされている。初めてそんな風に例外を出して動かれている。その方をこのまま地上にお返しになるのですか?たった一人、ペルセフォーネ様を手に入れてここに置いても誰にも文句を言わせません。例えペルセフォネ様の父神が、全能神ゼウス神だとしても。ここの者はその為ならば、主の為ならば全力全身で天界とも戦います。
この冥界で、なんの見返りもなくここの抑えている方は、ようやく見出した自分の慰めるものさえも一言も告げないなくうちに帰してしまわれるつもりだ。
そう、それも地上界の小さき者達人間の為か?はたまた かつての想い人なのかデーメテール様の為か?あの、地上の荒れてる様子もなにも見放せば良いのに。かつての大戦の時などに比べたらこんなのただのデーメテール様の我儘だろうに。全く全能神のゼウス様も何故かデーメテール様には甘い。
ゼウス様もデーメテール様関係の事となると全くいつもの強引なやり方と違う。やはり大地の女神が真の後継者を決める立場というあの噂は真実なのか。それとも我々の知らない信託があるのだろうか。
答えがわかっていても、最後の最後まで聞いてしまう。きっとヘカテー嬢も皆が問うた質問だろうに。
「ハデス様、本当にこのまま あの方を地上にお返しになるのですか?それでよろしいのですか?」
ハデスは 黙ったまま 頷いた。
そして 鉢植えに植え替えた花を愛おしそうに手にして、消えた。
「ネクロマンディオの洞窟へ!」
ペルセフォーネは、そう叫んで移動する。
そこは、薄暗い長い洞窟の入り口だった。かなりの長さで向こうの光も全く見えなかった。
しかし、そこには、何よりも変えがたいの方が立っていた。
貴方にだけは別れの挨拶が出来ないだろう。だから、別れる前に忘れさせて欲しい、そう思っていた。
忘れる予定の出会い、思い。そう、夢の中と同じよね。起きたらなかった事になる。二度と見ない夢。もう二度と会えない貴方。いい夢ならば覚えていたいと思うのに、こんなに胸が苦しくて。想いが苦しくて。こんなに想ってしまったのはいつの間に?思うけど。きっと初めて会った時から?いいえ、声だけは慰めてくれた声はきっともっと前から。
夢ならば目覚めたらこの痛みも徐々に薄れるから。それでもたまには夢を思い出す事もあるでしょう。
でも、全く思い出しもしない、本当になかった事になるのね。それが貴方が私に最後にくれる『忘却の術』なんですね、ハデス様。
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