冥界の愛

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ハデス 唯一の宣誓

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 全ての細胞が貴方とともに。

 


 呼ばれた方を振り返る。そうできる一部の意識がまだ残っていた。それは奇跡に近いだろう。

 意識の集中体に完全に同化してしまっていれば、例え気がついてもそれだけだ。意識を向けて、振り返る事はできないし、しない。
 それは、漂う宇宙の意識集合体として、ただ存在している。
 どこかで、何者かが、何者かの名を呼び、必死で探し求めているという事は感知はする。しかし、それはあくまで起こっている現象への認証であって、感情は伴わない。ましてや振り返る行動はできない。
 集合体は、誰が泣こうが喚こうが、悲しみにくれて呪いを爆発させようが、深い深い深淵を作ってしまおうが、何も関与する事はない。何ら思うことも何もない。ただ生まれて生きて死んでゆくだけの経過をただ静かに見守るだけ。

 その中に、溶け込むほんの一瞬前に、呼ばれた。




 『ペルセフォーネ』

 (…)

 『ペルセフォーネ』

 (?)
 
 『ペルセフォーーネ』

 (⁇)

 『ペルセフォーーーネ』

 (!)

 『俺のペルセフォーネ』

 (!❣️!)

 『俺のペルセフォーネ』

 (なに?)

 『おいで、ペルセフォーネ』

 (だれ?)

 『おいで、俺のペルセフォーネ』

 (ハーデス様?)

 『そばに、俺の側に。おいで』

 ( はい! ハーデス様! )

 
 ハデス様が呼んでる。
 私を呼んでくれてる。
 
 行かなくては。


でも、漂う私の一つ一つが集まらないの………
 
 どうしよう。どうしたら、ハデス様のもとに行けるのか。 途方にくれていると、


『ペルセフォネ、俺だけに集中して』

 (え?そんな、、、。照れる。ダメ。照れてる場合じゃない。でも、全力でハデス様の事だけを考える。側においでって言ってくれてる。)



 ハデス様の意識に触れて初めてわかった事があるの……

( ハデス様の声を聞いて何故か懐かしいと思っていた。私、この声知ってるし、この人は私の事をわかってる。そう、ずっと小さな頃から、見守ってくれていた人だったのね。泣いてると慰めてくれた声の人だったのね。「好き」って感情よりもずっとずっと前から。)


 それでも、あちこちに飛び散って同化し始めてる意識は、なかなか 限局的な個人として集まる事ができない。私が私に帰れない。


 姿形など個人として限局することは、無意味だと知ってしまっては、難しい。

個人を留める器の意義を見出さなければ不可能だった。意識は、意識としての本来の帰る場所として潜在集合体に帰ろうとするだろう。


 『ペルセフォネ。あまり時間がない。時間がかかると、彼方に飛び散ってしまった魂と肉体が再び結びつかなくなってしまう。』


 私は一生懸命に自分だけの細胞、粒子に集まれーと気合いを入れるが、本当に漂うだけで力が入らない。
 集合体に取り込まれつつある私の一部の粒子は幸福感に浸っており抵抗すらしていない。
 

 
 (よかった。最後に名を呼んでもらえた。)


 
    その時、
私の諦めを感じたハデス様は、集合体に向かってハッキリと意思を放った。




 『 この者は我の定めである。我が、我として存在する限り決められた定めに従い、生きる。だから定めがここに帰ることは許さない。この者を全て残らず返せ。』



 『『この子は俺の定めだ。俺はこの人の物だ。』』





 その時、集合体の一部からカオスと思っていた一つから質問が来た。

  


 
 『 そうだ!俺の唯一だ。返してくれ』


  



 『あぁ 唯一のペルセフォーネ』



  



 『あぁ、礼を言う。

 ペルセフォネ。帰ろう!
 俺が君の全てを捕まえるから、
 冥界の俺の側に帰ると思念せよ!』



(私 ハーデス様のもとに帰りたい)




 

 
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