冥界の愛

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存在証明

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  ~ミノスのつぶやき~


 真面目にお仕事をしているミノスさんは、「ちょっと一服に行ってくるよ」と休憩に出かけた。




 「お嬢さん、もうハデス様に名前もらえたかな?」

 ふぅーー っと、大きく煙を吐いた後、両手を大きく上げて伸びをしながら背中を地面に預けた。
そして、コレーの向かった先に目をやった。
 

 名前ねぇ~

 君は『コレー』という自分の名を思い出すのかい?
 コレーって名前の意味って知らないだろうな。ここでは誰も教えないだろう。
 あのデーメテール様が大事な大事な子どもに付けた名だものな。
 ヘカテーは随分と、気に入らないらしいが子どもの名前が、その親から目線なんて当たり前だと思うけどねぇ。

 コレーって、『 娘 』という意味なんだけどね。
 デーメテール様の「この子は私の娘なのよー」って 大きな声で自慢しているのが見えるような名前だよね。

 ヘカテーが名を聞いてえらく怒っていたのを思い出す。

 「子どもに娘と名づけるなんて、さも自分の所有物って考え方だ。美人の母がゆきさんで、そこ子どもだからゆきこ、ゆきのとか。また父や祖父から名前を取るや、親の名前にJr.を入れるとか親のエゴだろ?子どもに産まれた順番で数字をつけるなんて、どう考えても子どもの為につけた名だなんて思えない。
 いつまでもどこまでも上から何番目だという考え方が付いてくる。たまたまその親から見たら二番目か三番目だが、子ども達は全員自分が一番目なのだ。なんで生まれ落ちた瞬間に上とか下とか先とか後とかなんだ?
 自分のタイミングで転生しただけだろう?
 親の所有物では決してない。

 名前をつける時は子ども自身をよく見てよく考えてあげて欲しい。
 親がこういう風に育って欲しいと希望はあるとは思うが、決して独りよがり?二人よがり?の考えだけでなく、その子自身が重荷になる様な事がない、
本当にその子の未来の幸せの為に、
初めて送る親からのプレゼントとして
名前をつけてあげて欲しい。」

 興奮しているヘカテーに

「ヘカテーって可愛い名前だと思うけど、嫌なの?」


って聞いたら

 「そういう話をしてるんじゃない!」

 と、また怒らせてしまった。
 

 思い出すなー。





 名前と言うのは確かにそれが存在するという証明になる。
 例え、架空の形だとしても、いいや架空の形すら無いとしても何かが有ると言う概念になるだろう。

 何もないはずの 「 無 」ですら名があり、更に「虚無」「皆無」となると無に意味がついてくる。
 他にも「空」も「空虚」などまるでそこに何もないと言うより、空間としての存在を著している。

 宇宙には、まだまだ観察できていないけども、その「概念だけは有る」と言う理由で名前をついてる物もあったようで。
 重粒子、ニュートリノとか見た事もないものなのに、先人が「有る」と言うから見つけましたって。それを信じるあなた方発見者も凄いよね。ブラックホールもお写真撮れたの?そう?凄いよ。
 そのうち「暗黒物質(ダークマター)」や幽霊や人の霊魂や神様も観察出来るように見つけてくれ。いや誰でも見れるように観察できる様にして欲しい。
 俺の仕事しやすくなるから。

サクサクっと、
 シュレディンガーの猫 ミクロマクロヒックス粒子は光より早い。
マクスベルの悪魔
なんてのも発見頼むよ~未来の若者達よ。




 でも、じゃあさ。

 逆に、名前が付いていないものはどう認識するのだろう。それが「何か」ということを考えると、理解の外にある つまり理解できない物だ。それはまだ知られていないもの、発見されていない物や考え方、概念だったりするのだろう。
 物語に出てくる邪神や怪物たちは、言葉に表現できないもの、色や形を例えられないなど、いわゆる名状しがたいものとして表記される。人は名前を持つことすらできないと言われると余計に棘おどろしく感じる。
 
 
 名前が無いものは存在することができるのか?
 

 名前は名をつける事はここに確かに存在していると言う証である。存在証明なんだろうな。


 名前のない(正確には思い出さないだけだろうが)まま過ごす、ここで名乗る事が出来ないお嬢さんの不安が少しわかった気がするよ。



 遠い昔に俺は、結局考えていた名前を付けれなかった我が子の事。ハデス様救ってくれなかったら不幸にしたままだった事。
そしてデーメテール様も、自身で名前も付けれずに引き離された子どもの事。裏でその子らに居場所を作ってあげたハデス様への尊敬とともに色々と思い出す。
 我が主ハデス様につけてもらう名前ならば大丈夫だ。




 「いい名前、つけてもらえよ。」

 と、つぶやく。




 さあ、俺も、もう一仕事するか!






 立ち上がり、もう一度伸びをするミノスさんの休憩タイムでした。



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