冥界の愛

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種明かし

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 全てを思い出した彼女は、こんなにも穏やかな笑顔の人だったのかと驚くぐらいだった。


 「長い間、ご心配をおかけして申し訳なかったわ。ありがとうございました。」
と、ミノスに礼を述べた。


 そしてコレーの方を振り返り、

「貴方のお陰で今回の旅を終わりにする事が出来たわ。本当にありがとう」

と笑顔を向けた。


 コレーは首を振って、

「結局、私はただただ力を闇雲に流して側で聞いていただけだった。ミノスさんが教えてくれたから決断できたんでしょう?」と否定した。


「堅い堅い頑固な殻だったの。お嬢さんが破ってくれなかったら、どうしようもなかったわ。特に母との確執もどうしようも無いって思い込んでいたけど、お嬢さんの流れる力が元気と勇気をくれたのよ」


「 今回、夫となった人との関係もなかなか縁が深かったからこだわりが強かったけど、それも何度もミノス様の前で振り返って愚痴っての。そんな中でもどうすれば良かったのかを一緒に考えてくれてたの。ミノス様のお陰ね。
 そうして最後にお嬢さんの優しさが殻を破らせてくれたわ。
 本当にありがとう。」


 彼女は涙を拭ってコレーの手を取ると、


 「 私、この旅を少し反省したらまた新しい旅に行ってみようと思うの。」



 「「「 え?もう? 」」」

って、あちこちから呆れる声やらビックリするが聞こえて
彼女とコレーは思わず笑い出した。



実に女は強い生き物ね。

苦しんだら悲しんだらその分強く強くなる。

これ以上? ハハハハハ

 強くなって優しさを守れる様にならないと、ね?


次は、好きなように思うまま生きてみる。前のやりなおしなんかじゃなくてもいい。描いた幸せじゃなくてもいいでしょ。

 愛深き者は余計に人の気持ちも察してしまい苦しみも多く、憎めば自分も余計に傷つく。

 それを知ってるからこその次を目指そう。



彼女の気持ちが皆んなに伝わる。



やっぱり愛溢れる魂は此処でも慕われるんだ。彼女はあちこちでファンが多い。



「と、その前に、私の子ども達の事を確認して行きたいの」
と、彼女はミノスに言った。


しかし、

「此処での他の死者との接触は一切禁止されている事は分かっているだろう?
しかも他者とは、次元が違うから認識さえできないのも知ってるだろう?」
とミノスは答える。

「それでも様子を確かめずにはいられない。私の所為で苦しんでいないかと思うわ。」

「例え君の所為で苦しんでいたとしても君には何も手出しはできないとわかっていても良いんだな?そして次元が違うと見ることすらできないとなってもいる、いいんだな?」

「わかってる。その覚悟の上で確かめたいの。」




 そうか。と言ってミノスはようやく微笑んだ。


「 残念ながら、かつての娘さんにはもう会えないな。娘さんはタッチの差でもう次に行ったよ。実はさっきまでここで見守っていたんだ。お嬢さんには小さな子どもが見えたかい?そうあの子だよ。
 お母さんのことが心配で貼り付いていたんだけど、お母さんが救われて旅を終えたのを見ると安心して娘さんも次の旅に行ったよ。最後の伝言を預かっている。
『貴方の娘で良かった。ありがとう』
だったよ。」


あーあー、まだまだ涙が残ってるんだなぁ。

「無理だよ、もう会えないよ。知ってるだろう?

 お嬢さんも泣きつかれてもこればかりはどうしようも無いよ。


 だから、今生の出会いって言うんだ。
あそこでしか会えない。次の約束をした者しか会えない。
 どんなに憎いと思ってる相手でも忘れているだけで、自分にとってかけがえのない人だって事だ。

 ただ、それがどんな立場として会うかはここで決めた通りで。何度も失敗をまた向こうで繰り返すことなんてよくあるよ。
 でも、いつかはその失敗を超えていけるんだろうとまた立ち上がる。
そう貴方みたいに。

 その強さこそ、この魂の成長システムを作り出したんじゃないか?
 どっちかと言うと、うちの冥界の主は甘い方だから。散々ここで長い間甘やかして慰めて慰めて。
 次に、ここから転生しに送り出すときにあの方がどんなに 俺たちがどんなに君を心配して送り出したかわかってほしいね。忘れるだろうけど、忘れないでハハハ。


 君の娘さんであった人は、君に似て強い人だったよ。
 『良かった。またいつか会えるわ』って言って去って行ったよ。


 あぁ息子さんはもっと早くに転生して行ったよ。あの子は父親との縁を今度こそ父が再生したらもう一度って言ってたけど。そうそう上の息子さんの方ね。


 下の息子さんとは不思議な縁だったでしょう?気づいてなかった?

 まぁそれもいつの日か種明かしがあるから楽しみに待っておいでよ。」


  


 ミノス裁判官が、判決をくだす。

  (彼女の卒業証書授与式)




 「 長きに渡って苦しんだ貴方はもう自分を赦すことができました。
 愛深き者は苦しみも多く、憎めば自分も傷つくことを誰よりも学びました。
 そして多くの愛を人に与えてくれました。


 貴方の言う通り、
次は、好きなように思うまま生きてください。やりなおしなんかじゃなくて、描いた幸せじゃなくてもいい。

 主文
 貴方を無罪として次の旅に送り出します。


 以上、これで閉廷とします。」


 

 ミノスは心から彼女に「良かったな」と別れを告げた。
  
 
 



 泣きじゃくるコレーの前に彼女が来て、最後のお願いをする。


「ありがとうお嬢さん。忘れないわあなたの事。お名前を教えていただける?」





 待って、名前をもらってきます!

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