冥界の愛

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ようやく動き出す

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 冥界の彼女の話に戻ります。




 それは、いつからだったのだろう?

 絶対権力の家長として君臨した義理の父の死からだったのか?
 それとも意外にも仲が良かったかのように、すぐにその後を追うように亡くなった義理母の死後からだったのか?


 今となってはもう時期はわからない。

 ただ、彼女の夫は、仕事において立場上トップとなり忙しさ以上に責任感が押し寄せていてた。
 
 もちろん彼女もこれまで以上に夫を支えて、頼まれる仕事も多くはなっていた。
 しかし、二人で家族について話し合った時に、やはり彼女は仕事をセーブして子どもたちとの時間を多くとりたい、特に今まで充分に関わり合えていなかった息子との時間を大事にしたいと話しをした。
 それには夫も賛成をしてくれた。

 だから少し仕事場を離れたのだ。

 いいタイミングで三人目もお腹に授かっていた。



 いいタイミングだったのか?
 仕事場を離れるべきではなかったか?
 夫の責任感からのプレッシャーをもっと感じていなければならなかったのか?


 どれも言い訳で、どれも違う気がする。



 初めは、夫は彼女にもその女性の話をよく聞かせていた。
 家庭があり、同じ年頃の子どもが居てること。夫の実家に近い所に住んでいた事。ただし知り合いではなかった様子で。
 そして何より夫の治水の仕事は、地域に住む人達の意見や非常に大事になっており、その女性が貴重な情報をくれること。

 徐々にその女性の情報が詳しくなっており、どちらかと言うと仕事以外では無口に近い夫がそんなに打ち解けて話す事を彼女も少しだけ疑いの目を向け始めていた。


 そんな時、長雨が続き川の氾濫の危険が増す事態が起こった。

 責任者である夫はもちろん仕事場に泊まり込み危機回避に奔走していた。

 
 そうして一部には氾濫が起きたが多くの地区ではうちの治水仕事が上手くいって、最小限の被害のみでおさめることができた。

 それは今までの被害に比べると大成功だった。

 夫は他の地区からも認められるようになって、他所からの大きな仕事も入る様になった。



 ただ、昔からうちの仕事をしている者からは、少しはしゃぎ過ぎだと苦笑されていた。
 何故ならその氾濫予防策は、彼女が働いていた時に義理父に認められて立てていた予防策で、それが今回綺麗に結果を残しただけだったと、うちの者達は分かっていたから。


 しかし、彼女もそれを上手に隠して夫を労った。
 
 けれど、今回の成功はあの女性がもたらせた情報によるものだと夫は思っていた。

 本来なら、彼女が立てていた予防策は有事の際の情報の系統化をも含んでいた。しかし、その前にその情報の正誤を確認する前に、夫がその女性からと情報を鵜呑みしてそのまま信頼してしまい、先に動いてしまったのだった。

 今回はたまたま彼女の情報が動くべき方向と一緒だったから良かったが、一見の映像が正しく把握できた情報とは限らない。
その映像を正しく見ることができる専門家の知識がいるのだ。
素人が一瞬の川の流れを見ただけの情報だけで動く事がいかに危険なのかを、今回の成功を喜んでる中で誰が夫に伝えるのだろう。



 彼女しかいない。



 夫の機嫌を見て、充分に労った後に、それとなく、言葉を選んで伝えたつもりだった。



 しかし、やはり失敗に終わった。




 夫は、まだまだ彼女の仕事におけるうち者の評価に嫉妬していた。

 「まぁ今回は治水の仕事は成功したから。夫も励みになっただろう。私が怒られてそれで済むのなら」と、彼女も仕事の相談を未だにしてくる以前に一緒に働いていた者たちを宥めていた。


 きっと、その事が耳に入ったのだろう。


 夫は仕事の愚痴もその女性に話す様になり、家では仕事の話しも女性の話もとんとしなくなっていた。




 そんな中で、夫が仕事で有益な情報を自分の為に危険を顧みずに駆けつけてくれた女性に御礼のつもりでプレゼントを贈った。
 
 女性にプレゼントなんて生まれて初めの事だった。

 それをまた正直に告げていた。

 まぁあの母親がいるので奥手だったのは仕方ない。


 ただ御礼としてプレゼントを贈るのに何故妻が最初でないのか?何故人妻が最初なのか?

 曲がりなりにもあの義理父はあちこちに女性と子供がいる割に?からこそ?妻や愛人にプレゼントはよく渡していたものだ。

 ただ夫の母はそのプレゼントで、あまり息子の前で喜びの顔を見せることはなかった。

 どうせ、今度誰がを口説くのに買ったプレゼントのついでに自分の分も買ったのだろうと理解していたから。
 確かに夫の母にプレゼントが渡ってから、しばらくすると愛人が増えるという仕組みになっていたなら、夫の母もプレゼントで喜ぶ顔はするまい。

 だから夫も妻にプレゼントを贈ろうと思いもしなかった様子だった。



 しかし、こちらも耳に入る情報網はあるもので。

 そのプレゼントを贈った事は、彼女は


 どれだけショックだったか。




 そんな中、その女性も、女性の夫からはプレゼントらしい物はもらった事が無く、

『初めて男性からもらったプレゼントと
初めて女性に渡したプレゼントで。』



 まぁ、そりゃあ、

あの日あの時あの場所で♪♪♯ ♪♪♭♪ ♪.♪♪♪♭

 流れるわな。







 どこが悪かったのか?
 何が悪かったのか?




 たぶんコレが悪かったんじゃない?いっそ、謝礼としてお金、経費でよかったんじゃない?
だって、もしも情報くれる同じ立場で男だったら、一回飲みに行くかもしれないけど、きっと現金だったと思うよ。




 こっそりミノスは心の中で昔懐かしい様な未来の曲を口ずさんでいました。
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