冥界の愛

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ずっと前から決まっていた事

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 結局 彼女は息子を姑に取られたと思い、姑は跡取り孫を育ててるのに嫁が邪魔すると思っていた。

その間で彼女と夫との結婚の関係がうまくいくはずがない。もちろん息子と母である彼女の親子の関係も誤解が生まれていた。
 息子は母は妹ばかりを可愛がっていると思っており、彼女は姑せいで息子に嫌われてると思い、夫はそれでいいと思っていると彼女は感じてる。本当は夫はどう感じていたのだろう。


 彼女の夫は、夫は、自分の役割が嫌だった。ただ与えられる仕事をしているだけで良いと思っていた。家庭でも自分は不満を言わない様に母にも妻にも。そうすれば、自分の役割は何も決断せずに済まされると思っていた。



 歪な関係とすれ違う思いの中、最初に変調をきたしたのは彼女の息子だった。

 優秀な頭に詰め込められる知識、しかし偏った足りない愛情で息子の心が病んだ。そして目に見える形として、体の成長が止まった。


 それを見て、彼女も体を壊した。



 心を病んだ息子に倒れた妻を見て夫はようやく動いた。





 『 この家を出る。妻と子どもだけで暮らす 』




 その日の夫の言葉は彼女にとって結婚して初めて聞いた愛の決意だった。


 不安も大きかったが、こみ上げる安堵の気持ちで名一杯、息子を抱きしめた。





 引っ越しした家で、ずっと息子と娘を両手で頭を撫でながら微笑んでいる彼女は幸せで美しかった。

 結婚して初めての幸せの中で、夫と離れずに息子を失わずに済んだことや、ずっとそばにいてくれた優しい娘のことに感謝していた。


 そして彼女や夫はあまり知らされていなかったが、事態を重く見た義理父が姑、義理母を叱ってくれた。
彼女たちのもとに息子達を取り戻そうとしていたのを止めさせて、そのまま義理父のそばに義理母は連れて行かれた。

 だからこそ穏やかに過ごせていたのだろう。束の間の幸せと知らずに。


 少しずつ息子の心も溶けていき少しずつ体も成長していった。
だんだんと娘と息子は双子らしくなっていく。
双子だったが一応 兄と妹として呼びあっていたのだが、息子の成長が止まってからは なぜ小さい息子を兄と呼んでいるのか?と、奇異の目で見られていた。

しかしそれも薄れていき、仲の良い双子たちは笑顔を見せるようになっていた。彼女もすっかり元の元気な体に戻った頃。
ようやくこの地で幸せになった頃。


それはやってきた。



 彼女にとって受け入れ難い試練だった。



 


 あの家を出たことは正解ではなかったのか?
 あそこにいてる時は試練は姑だと思っていた。


 しかし、引っ越してこの地に来た時から この長きに渡って彼女を苦しめた試練は始まっていたのだろう。

 いいえ、本当は もっともっと前からずっと前から決まっていた試練なんだけど。



 
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