冥界の愛

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母の娘、娘の母。

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 コレーは、彼女の話を聞きながらとても気になった言葉があった。

 愛情ある母。自慢の立派な母。その母の娘である私は優秀で当然。母の娘。
 それを聞きながら、どこかで聞いた様な何かひっかかっている。私自身に関係ある事なんだろう。


 でも、どこなんだろう。何か覚えがあるような、記憶がそこまで出かかってる感じだった。以前に見た夢の話だろうか。





再び目の前の彼女に意識を戻す。




 彼女は自分の過去の幼少期を振り返っていた。たださっきと違うのは、私の人生は幸せの人生だと言いながらも、張り付いた笑顔の老婆の顔になる事はなかった。少しは素直になったのだろうか?




 彼女の母はそれは苦労をした人だった。子ども達を養いながら病気に掛かってしまった夫を支えて。
なのにいつも笑顔を絶やさず。
 自分が苦労をしたからと同じような境遇の女たちやその子どもの面倒見て。
 本当に徳のある人はその後ろ姿に手を合わせる人々がいるんだと。



  彼女は、思い出す。

 何度その姿を 母の背中に手を合わせる人達の姿を見せられた事だろう。







 だけど、お母ちゃん。私もまだまだ甘えたかったんよ。他の小さい妹弟や、妹分弟分がいたから お母ちゃんの側に居るにはそれを手伝うしかなかったし、小さな子の面倒を見て褒めてくれるのは嬉しかった。

 ぎゅーって抱きしめてくれる、すごく幸せだった。
 でも、
 「ここにいてはダメよ。あなたを当てにしすぎてしまう。逃れられなくなるわ。ここから出てちょうだい。これは私の苦労であってあなたのではないの。私やこの家に囚われないで。」

 抱きしめながらそう言われた。抱きしめてくれる喜びと、ここを出ろ母から離れろと言われてる絶望感が一緒に来た。


 母と娘と共依存になってしまう事を恐れた母なりの愛情だったのかもしれない。





 そうして私は、まだ幼さの残る年齢で母の言う通りに母の選んでくれた家に嫁いで行った。



 (   お母ちゃん、どうしてあの家に嫁に行けと言ったの? )

結婚した後で、聞いた話しだが。
 もともと嫁いだ家の姑は ご近所でも息子を溺愛する母で有名だったそうで。あんなだと嫁姑の関係はうまくいくはずないと、みんな敬遠していたそうだ。
 一度、嫁いで苦労するのが目に見えてる あまりにも娘さんが可哀想だと、私の母に忠告してくれた人がいたそうだ。
 しかし母は、「どこの誰と一緒になっても苦労はあるから、それがあの子の運命だったと思って、何もあの子には言わないでやってください。」と返事されたようだった。
 それはそれは感心したと言われたが、嫁姑で苦労して体を壊した新婚当初。
 誰も味方はいなくて。道端で倒れていた私を家まで背負って連れて帰ってくれた人が、あんまりに嫁いだ家の対応が酷いので、その人もまた母の元に報告に行ったそうだ。娘さんは、あれでは死んでしまうと。
 その時も母は「あの子の苦労です。越えないといけない試練ですから放っておいてください」と言われたそうだ。



  あの時出来た傷跡が今でも腹と背に大きく残っている。 母にも見捨てられて夫にも捨てられたと、思った心の傷が一番痛かった。



 それでも それが越えなければといけないと言われたので耐えた。いつも母は笑顔だけだった事を思い出して。私も笑顔をどんな時も顔に貼りつけて。
 自分に、【   】と言い聞かせながら。


 しばらくすると、私の頑張りが まず近所から認められてきた。
 あそこの嫁は、よく働きなんでもできる。いい娘さんを嫁にもらったと評判になった。だから姑も近所に私の悪口を言いにくくなったのだろう。
 次に家の手伝いをしていた仕事先での評価だった。
 言われて、夫の側で色々と教えてもらいながら仕事をする様になる。あまり仕事には乗り気でない夫は私が出来るようになると少しずつ任される仕事も多くなった。
 そのうちに夫の仕事のやり方が目につくようになった。決して誰にも言わなかったが。
夫よりも私に任せた方が確実に丁寧な仕事だと徐々に評判が上がってしまった。

 私は『しまった』と焦った。もう仕事を任されるのは断り、もう一度夫と姑の機嫌を取るのに家庭に集中してする事にしたかった。
 しかし、すでに評判になってしまっており舅の、つまり家長である夫の父から仕事を優先する様に命令された。義理父の舅は治水工事関連のかなりの地位にいており地区の大きな代表となりいくつもの仕事を持っていた。


 そして何より義理父には、あちこちに愛人がいて、あちこちに夫と半分だけ血の繋がる兄弟達がいた。


 姑は自分の息子が跡取りになる様に必死だった。その為に利用できる物は何でも利用する。もちろん舅が私を気に入ったのならば私を夫の付属物として存分に仕事で成果を出すよう、全ては息子の為にと言われた。
 

 それから私は仕事に全力を注いだ。
 私が知ってるのは唯一母のやり方だけだった。私の母がやっていた様に周りの物の言う事をバカにせず丁寧によく聞き、こちらの利益だけでなく仕事をもらう相手 もしくはこちらがお願いする仕事先の事 双方の利益になる様に働く。もちろん相手先の家庭の事も覚えて考えて仕事をお願いする。

 母のやり方は決して商売ではなかったが、人の心を掴み、動かすやり方だった。


 それが少しずつ成果を出ていたと思っていたら、ある日いきなり 大きな仕事につながっていった。かなりの儲けと信頼を得た様だった。

 これをやり遂げると、義理父は満足そうに私の名前を呼んだ。
嫁にきて初めて名前で呼ばれた時は何か不思議な感じがした。じゃあ今までは何だと思っていたのだろうと。


 けれども、姑は、嫁として家の事はしていない事や、何より子どもはまだなのかなど責め立てた。いったいどこにそんな時間があるというのか?私は出来るだけ削れる時間は削ってほとんど寝ずに家の事をする様になった。夜中は夫の機嫌を取る事もした。

 なのに、子どもができない事を姑は私に詰め寄った。その上、跡取り息子の為として私以外の女に子どもを産んでもらうようになど言い放った。

 さすがの私もそれは抗議した。仕事は私の嫁としてするべき事を超えており、そのせいで他の女に子どもを産ませるなど、私の望みではない事を訴えた。
 しかし、姑は私の抗議を生意気と取り夫はまるで他人事の様子だった。

 私はそれとなく仕事をセーブする様にしたが、有能な義理父がそれに気づかないはずが無かった。

 その理由を私以外の者から聞いた義理父は私がいる時に皆に言い聞かせた。




 「 うちの跡取りはどの息子にするかは、まだまだ決まっていない。
しかし、跡取りの嫁はこいつだ。
こいつの産んだ子ども、こいつが育てた息子がうちの次々代の跡取りにする。
これは決定だ。
だからこいつの仕事の邪魔をする者はうちから出て行ってもらう。」



 流石にその言葉はあちこちに効いた様だった。


 夫は私の目を見る事は無く黙って聞いていた。姑は悔しそうな表情を一瞬したがそれを飲み込んでうちの息子の嫁だとアピールしはじめた。




 思えば、最初から この結婚のどこに愛があったと言うのだろう。
 母が言う乗り越えるべき試練ってどこのどれなのか?この結婚自体が試練で苦労なのか?そんな苦労なぜ必要だったのか。しかし私はこの後に本当の受け入れ難い試練を身に受ける事になろうとはまだ思いもしなかった。




 こんな形ではあったが、それからしばらくは私達の夫婦生活は穏便に過ぎていった。
 私はある程度、妻としての立場を認められて身を守る事も出来た。名を呼んだ義理父のお陰だろうか。


 姑の協力体制のもと、子作りが始まり私はまず二人の子どもを授かった。男の子と女の子の双子だった。
 男の子の孫と言うことで姑は喜びも一入だった。

 そしてその息子は初めから後を継ぐ者として高い教育と厳しく育てられた。
 そのため、私の手からまるで取り上げられるかの様に距離ができてしまった。

 そして反対に私は補うかの様に娘を可愛がった。


 後でわかったが実は娘の方が優秀だった。それは育て方などではなく娘の方が何に対しても好奇心旺盛で活発な性格だっただけだ。 
 ただ商売や仕事の上でどの様な性格がその仕事に向いているのか?向いていないのか?その向き不向きはあるだろう。

 残念ながら家の仕事は息子の性格よりはどちらかと言うと娘の性格の方が向いていたと言うだけだ。


息子にはそれはそれに合った仕事があるはずだったのだ。
しかし後継ぎとなってしまった息子にはそれを逃れられる事はなかった。



 何より、息子の性格は夫にそっくりだった。
姑は孫の私の息子も可愛くて仕方ない様で夫を可愛がった様に溺愛して育てている。


 このままではダメになってしまうと何度か息子を取り戻そうとしたが、「私の子育てが失敗だと言うのか!」と姑に酷くなじられる。しかも、じとーっと見つめる夫の前で。



「 いいえ、お義理母さま。そんなことは一言も言っておりません。ただ私も息子を可愛がる事を、時間が欲しいのです。
はい、息子が あの子がかなり忙しくしているのを知った上です。
それでも会いたいのです。
鬼ですか?じゃあ母から子どもを取り上げるのは鬼や非情では無いのですか?
いいえ、娘が居ようといまいが息子もあの子も私の子どもには違いないのです。
は?もっと子どもを作れ?
いえ、そんな事を言ってるのではありません。
あの子も大事な大事な私の子なんです。
お義理母様!待って下さい!」








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これ、いつになったら終わるんだろうか?

 もう心が。私、何の話を書きたくて書き始めたのか。本当に私ってバカ。
次は少し休憩タイムにさせてください。



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