冥界の愛

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コレーの職場体験

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コレーの見た裁判官のお仕事。


 コレーは、ミノスに手を引かれて河を一跨ぎで渡ってしまうと、先程の死者達が別れてあちこちの門を潜って行くのを見ていた。
 その門の中の一つにミノスが座る椅子があった。向こう側には他にも同じ様に椅子に座ってる人がいて何やらミノスに文句を言ってるのが聞こえた。




 「 ミノス、遅い!遅すぎる!何度言えばわかるんだ。いい加減サボるのは辞めてさっさと仕事しろ!」

 「わかってるよアイアコス。少し野暮用だったんだ。それに今日はスペシャルゲストがいるからその辺にしててくれ。」

 「ああ、例の名前を呼んではいけない客人か?」


何だそれ?私の事はそんな風に言われて  るのか。名前を言ってはいけないって、どこの魔王なんだか。あ?魔王って一応ここにいらっしゃる王様の事になるのかしら?

 そう思っていると、もう一つの隣の席から声がかかる。

「 なんでも良いけどお嬢さん少し光量を下げてくれないか?眩しくて仕方ない。」



「ごめんなさい、ご迷惑おかけして。ミノスさん光量下げるってどうすればいいんでしょう?」

何人かに眩しそうにされる事は有ったが、やっぱり私の事だった。
 別に松明を持ってる事も無いし意図的に力を流してるつもりも無いから、ここでは死者の中にまだ死んでない者が混じっているからそういう風に見られるんだと思っていた。

「無茶言うなよラーダ。ハデス様に隠れ兜でも借りてくるか?この前冗談で言ったら案外簡単に貸してくれそうだったんだけど。」



 「ミノ兄さん、あの方にそんな冗談いうのやめてくれ。こっちの心臓が保たないから。」


 「 お嬢さん紹介します。この二人が俺の同僚です。アイアコスとラダマンテュスです。さっきミノ兄さんと言われてたようにこっちのラーダとは兄弟なんです。もう一人サルサルって言う弟がいてるんだけど、事情があって今は別々ですね。まぁラーダは俺と違って優秀だしきちんとしてるし、道も踏み外さなかったつまんない男ですよ。な?」

「うるさい!ミノ兄さんの事が心配で道を踏み外す間もなかっただけだよ。」

「で、もっと超真面目でつまんない男がこっちのアイアコスで。まぁ俺とは深い繋がりって事かな」

「 いや、超真面目の所はいいが、お前とは別に深く繋がらないな。」

 お互いに笑い合いながらミノスさんの仕事場は楽しそうだと、何も知らずに思っていた。

「 今日はここで見学させて頂こうと思っております。お世話になります。
 私、名を忘れてしまってて名乗る事は出来なくてすみません。」


やっぱり名前って無いと不便だわって思いながら二人に「よろしくお願いします」と頭を下げる。



 すぐにそれぞれ三人の元に死者達がやって来た。
 やはり、さっきも感じた様に目の前の人の心が自分の中に流れてくる。特に意識を向けると手に取るように繊細にわかってしまう。何も言わなくてもわかる筈だわ。私も何度か思っている事を当てられて恥ずかしい思いをしたもの。


 そうして目の前の死者達が各々言いたい事を話し始めた。



 ある者は如何に生前自分が一家の父として家族の為に尽くしたかを滔々と語り始める。確かに自分の家族のために一生懸命働いたのは見えたけど、それは身内以外の他の者にとっては冷たく厳しい人だった様だ。

 それは仕方ない事だ。誰かれ構わずに尽くしていたなら誰が自分の妻や子供を養えるというのか。妻や子供が満足して飢えずにいられたのは私が家族の為にそれをしたからだと声を荒げた。まるで自分は悪く無いんだと、自分に言い聞かせている様に苦しんでいる様にしか見えなかった。
 でも、続きを見せられるようにこの死者を覗いていると、その家族や子ども達も周りへのあまりの非道な仕打ちに妻は心を痛めて、子ども達は嫌気をさして彼から離れていった様だった。
自分が必死に働いたからこそ生き残れてこれたというのに、自分を非難するなんてと彼は随分と腹がたって子ども達と言い合いになり関係が悪くなっていった。子ども達からすると、父親の行った非道な仕打ちによって非難されたり小さな頃は、憎まれたり虐められたりした事があったのだ。
 それを聞いた彼自身はもっと他者に対して苛烈に非道な仕打ちをして、身を守ろうと家族を守ろうとした。
 そしてとうとう彼は懲らしめようとして自分の子ども事を虐めた者の子どもを死に至らせてしまった。

 そして弱き者と思っていた者の報復が始まる。それは復讐は一番身に堪えるやり方で悲しみの連鎖だった。彼の子ども達や妻に凶行に及んだ。
その後はもうどちらの復讐なのかわからないただただ悲しみの連鎖だけが続いた。
 結局、守りたかった家族は、自分の非道な仕打ちな所為で死に至らせてしまった。
そして最後は妻に刺されて「私の子ども達を返して」と悲痛な言葉を浴びせられ妻ともに死んでしまった。



 そして今、ミノスの前に座っている。

確かに、彼の家族に対する愛情はあったのだろう。では何故?どこの時点でこうなってしまったのか?
私は考え始める。私は彼の人生を振り返り始める。
 見えてくる彼の全てが。

誕生から
寂しい思いをした幼少期から
仕事で頑張れば成果がついて認められた成人期、
妻を手にした喜び、
しかし喜びの裏に妻には他に思い合う者がいたが借金で諦めた事、
生まれてくる子には自分がしたひもじい思いや寂しい思いを絶対にさせまいとする決意、
ますます仕事に身が入り、苛烈を極めていた事、
そして自分が馬鹿にされた幼少期と子ども達が虐められた事が被ってしまい必要以上にやり返していた事、
もう二度とこの地位や身分や家族を取られまいとして他者に対して非道な事は全て家族の為に仕方ない事だと正当化する自覚しない恐れがある事、
子どもや妻から非難されてもまた家族が離れていこうとする事の恐怖が手段を選ばない道を辿り始めた事、
そうしてどこにもブレーキが効かなかった事、
他者を事をいや、自分の事さえ見えなくて暴走してしまった事、
彼の人生の最後で、
貧しい時代にはよくある事なんだと話しかけられてる。




あぁなんて  心が痛いんだろう。

ミノスの後ろでコレーは嗚咽を懸命に堪えて泣いていた。


私が振り返って見たことを彼ももう一度体験した様だった。さっきまでと態度が違い絶望と苦悩に満ちている。

これから先、何度も彼はこの自分が歩んだ人生を繰り返して見せられるそうだ。
それは、結局は彼が選んだ事でその上で次にどうするかはこれから決意することらしい。


とりあえず彼はミノスの前から出て行き違う部屋に行った。
時間は私と違って、彼にはたっぷりあるという事だった。
何度も繰り返し体験する辛さは想像を絶するが、それしか方法は無くそこまで行ってる彼は次の道を既に知ってる者だとミノスは言う。



コレーはミノスに聞いた。

「 ミノスさんはここで何を裁いているの?彼の罪?」



「 いいえ、何も。
苦しんだり反省したり次に行こうと踏み出したり全ては彼ら自身が納得して行う事ですよ。
あえて言うなら、私はその時期をジャッジしているぐらいでしょうか?
まだまだ自身や誰かを許せなくて苦しむ時期が必要かどうか、もう苦しむのは充分したので違う道を見せて他に行ってみたいと思いませんか?とお薦めする時期などですよ。

その為のjudgeですね。」
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