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コレーは薄情者。
しおりを挟む部屋に閉じこもっていたコレーだが、世話を焼いてくれている人にケイロンを呼んでくれる様に伝えていた。
訪れたケイロンが見たものは、枯れた花束を大事そうに抱え、出掛ける用意をしているコレーの姿だった。
コレーは、なぜか少し寂しげにみえる微笑を浮かべてケイロンにお願いをした。
「 随分と…この子達に慰めてもらい色々な話を聞かせてもらいました。ここではたくさんの死者達が集い穏やかに過ごせる様になった事、自分達の生きている様を見て慰めてもらえた事、その事をこの子達が喜び誇りを持っていた事など。
素晴らしい花々達でした。この子達に会わせてもらいありがとうございました。
最後にこの子達の丘に返してあげたいと思います。
ケイロン様、お手数おかけしますが連れて行ってもらえませんか?」
コレーの意図を知るとケイロンは冥府宮を出てエリュシオンの野に案内した。
屋敷を出るときにケイロンの背に乗るように促すが、かなりコレーが恥ずかしがって拒否した為二人で歩いて野に行った。
「 ホントとっても素敵な所なんですね。私達の丘って言ってたけど、エリュシオンの野原という所なんですね。
私のお気に入りの丘に似ています。気持ちの良い風がいつも吹いていて、楽しそうに揺れてる花を見るのが一番好きなんです。」
「 随分と記憶は取り戻しているのかい?
あまり聞くも反対にプレッシャーになるかな?」
「 いいえ、お気遣いありがとうございます。思い出すというより、なんだか、これはうちと一緒なんだとか、ここは違うんだと言うふうに感じています。
だけど、力はほとんど使える様になったと思います。」
「 そうだろう。本来ならとっくに枯れてる花々だ。君の力なのかい?
それに話ができるのかい? 」
「 はい、元気になる力は流していましたがそう長くは持ちませんでした。
それに、お話が出来るのは力かどうかはわからないんです。たぶん物心ついた時には花や草や木と会話してました。
特に長く永く地上で暮らしてきた大木の方からは、教えてもらう事が多くて。
時を遡っての話しだけでなく、今さっき鳥が運んできた情報は遠い土地の人と神の戯れの話しだがと教えてくれる事もありました。誰も聞いていないだろう、誰も見てはいないだろうと密談の内容や犯罪の暴き方など、ビックリする事ばかりです。
聞いているのが私だけでいいんだろうか?と悩みました。もっと有意義にこの知恵を使ってくれる人を探そうかと勧めたんですが、笑ってただ聞いていなさいと仰って。
あと、老木と言われると葉を揺すって怒られてました。
そう笑いながら話すコレーは随分と打ち解けてる様に見えた。
やはり、自分の庭に似ているエリュシオン野は安心するんだろう。
もっと早くここに連れて来れば良かったとケイロンが考えている最中に、野原の向こうからミノスが おーい!と手を振りながらやってきた。
ん? あいつ 確かコレー様のお名前呼びそうだから、面会はダメって言われたといじけてなかったか?
やって来たという事は、許可が降りたんだな? ハデス様もようやく方向転換したか。
ハハハ、見ろよ彼女の顔が嬉しそうに輝いたぜ。
「 ミノスさん!お久しぶりですね。お元気でしたか?」
そう言って笑顔を見せたがハッと何かを思い出したかの様に、屈託ない眩しい笑顔を引っ込めて、
「 お会いできてうれしかったです。ではまた。」
ミノスにそう告げると、急に屋敷に帰ろうとする様に踵を返して来た道を戻り始めた。
ミノスは一瞬傷ついた顔をした後に苦笑して、彼女の腕をそっと掴んだ。
「 お嬢さん、暇でしょ?
忙しいからちょっと手伝ってくれってカロンの爺さんから伝言頼まれて迎えに来たんだ。
もちろんハデス様も許可取ってるし、ヘカテーさんも知ってる話しだよ。」
驚く彼女の顔からは、戸惑いと心配の中からそれでも会いたいのか目が期待をよせていた。
「 私、力が戻ったからカロンのお爺さんのお手伝い、少しはできると思うんです。でも良いんでしょうか? 」
「 私、すぐに忘れて帰ってしまう薄情者なんでしょ?」
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