冥界の愛

文字の大きさ
上 下
32 / 107

私の声は届きません。

しおりを挟む

 三柱とも、とりあえず解散!


 ヘルメスから報告を受けて、それぞれの心に影を落としたのだが。

 とりあえず。

ゼウスは、天界へと帰って行った。いつまでも、姿をくらませていては妻ヘラーがまた誤解するかもと、ヘルメスに言われて溜息を吐きながら帰った。

 ヘルメスも、デーメテールに気を使い  「 また冥界に様子を見に行きますよ 」と言ってくれてから、アポロンの元に向かった。

 デーメテールは、まだ気持ちの整理がつかなくて いつも落ち込んだ時に向かう森の湖に向かった。




=○


 ここは、あれからまるで何も無かったかの様に時が止まってる。

深い森の中でも急に木が少なくなり開けて、キラキラと差し込む光に湖面は輝いている。
鳥の囀りが時折り聞かれ、羽ばたく羽音が静かさを際立たせている。

 デーメテールは、いつもの岩に腰を降ろした。





 幼い私達は、ハデスとデーメテール

いつもここで二人で座ってお喋りをしたわ。いいえ、喋っていたのは私だけね。ハデスはいつも黙って聞いてくれてた。

『 私達、これからも一緒にいようね 』

私の この素敵な場所を見つけたことが嬉しくて言った言葉に、ハデスはほんのすこーしだけ微笑んで頷いてくれた。
でもその後はずっと黙ったままキラキラの湖面を見つめながら考え込んでいた。


ねぇ あの時、何を考えていたの?

やっぱり弟のゼウスだけが、母に働かされている事を気にしていたの?

ハデスは最後まで、ゼウスにだけクロノスと戦わせて自分達を救ってくれた事を気にしていたものね。

でも、その後の大戦では誰よりも危険な戦いで自ら危険な所に行ったわ。
いつも先陣切って傷だらけで、休みなく戦っていた。
何度ゼウスをかばって毒矢を受けたか。剣の前では盾になったことか。
 何よりハデスの圧倒的な力が無ければ数の差で私達が負けてしまうのは必然だったわ。
 オリュンポスの勝利は間違いなくハデスの力よ。
 あの後皆の見る目が変わったでしょう?やはり父王クロノスを倒す宿命の子はハデスだったのだと、本来は凄まじい力だと、皆、あなたを恐れ始めた。

誰にそんなに罪の意識を持っていたの?
母に言われてクロノスに毒を飲ませたゼウスに弟だけ戦わせて悪いと思っていたの?
 私は、アレは本当に私達を救う為の毒だったのかと、疑ってさえいたわ。
だって毒によって苦しんだのはクロノスだけでは無かったでしょう?私達も命懸けの脱出だったよね?


それに、生まれてすぐの赤ん坊の時の事よ。私たちに何ができたと言うの?
ハデスに罪は無いわ。悪いのはクロノスであってそれを選択したのは母レアよ。

私が怒り狂って大地を荒らしたのも、あの母レアの仕打ちを理解したからよ。
本当は母と言うのも凄く嫌だわ。
でも、レアがいなければオリュンポスの神々も成り立たないし、あの大戦の勝利もなかった。何よりクロノスから救ってくれたのがあの母レアだと、そう感謝をしろと、皆彼女の前で傅く。



 かつてと変わらず、キラキラと輝いている景色だが、今では湖面を幸せそうに笑いあって集っていたニンフ達の姿は見られない。




ますます 沈み込んだデーメテールには森に入れずに外から呼びかけるニンフの声は届かなかった。



「 デーメテール様! ダメですよ。それ以上落ち込んだら。また吹雪になってますよ~ 」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

処理中です...