冥界の愛

文字の大きさ
上 下
31 / 107

決別 <デーメテールの決意>

しおりを挟む


 ヘルメスから冥界の様子を聞いたデーメテールも昔むかしの話を思い出していた。






 決別    <デーメテールの決意>




 ごめんなさい 本当にごめんなさい ハデス。


あなたが、ティタノマキア (神々の大戦)の後すぐに冥界に行ってしまったと 聞いたわ。
でも、私

『 一緒にいようね 』って幼い頃の約束を守る事はできない。

私は、 私を必要としているあの小さき人々を人間たちを見捨てる事はどうしても出来ない。


私は、 この大地の恵、豊穣の女神としての役目がある。それは誰にも代えられない。


私だけが、 あなたの元に行ってしまって、役目を放棄したらこの大地が荒涼の地に変わり果てる。それで人間達が飢えてゆく様を冥界でただ見ているだけ。そして死者としてやってくる人々に対して、どんな顔で会ったらいいのか?もちろん私のせいだと思うし、でも卑怯な私はあなたをも責めてしまうかも知れない。二人の幸せの為にした事だと胸張って言える状況じゃなくなるわ。

私きっと、なぜ冥界に行くのを一言相談してくれなかったのかと、あなたにも責任転嫁をしてしまう汚い自分が見えてしまう。


本当にごめんなさい。


どうしても見捨てられないの。

神にとっては弱き小さき人達だけど、一緒に大地の作物を育て喜び苦労した仲間なの。ただ神に祈るだけではなく、私の事を心から信じてくれた。
時にはあんな、か弱き人たちが私を慰めて励ましてくれた。

そう。 ティタノマキア神々の大戦の直後から地上は雷やら洪水やら地震などなど神々の戦いの爪痕は酷いものだった。大地などただの土の塊で地面でしかなかった。
 あんな戦いの後で神の事を信じられなくなっても仕方ないでしょう。
 実際、初め誰も再び鍬を持って耕そうとはしなかった。誰も種を蒔こうとはしなかった。草木の一本も生えていない大地を見て茫然としていたわ。大地の恵とは、神はこんな簡単に洪水や吹雪でその恵みを取り上げてしまうものなんだ。
俺たちは何のためにこの年月を畑に注ぎ込んだのか?実をつけるまで丹精込めた木はどこに流された?その怒りが大地に満ちていて私とても苦しかった。
 その怒りを涙を茫然としている無気力を少しでも大地の中から回復させる為に一生懸命に力を流し続けたわ。
 あまりにも膨大な力を大地の浄化の為に使ってしまい、ある時倒れていた。
 気がつくと私の周りに心配そうに見守る人、私の代わりに一生懸命に大地を耕してくれているか弱き小さな人間の姿だった。
 それを手伝い、耕した大地に僅かに枯れずに残った湖から、水を運んでるニンフ達の姿だったのよ。

 この大地は、これから、人たちの努力で実り豊かにキラキラ輝くわ。また取り戻すのよ。
 嫌な事も落ち込む事もあるけど、大地の恵みがあれば大丈夫って言われたの。小さき人も、「美味しいもの食べれば、悲しい事の大概は忘れますよ♪」って。綺麗に実ってる小麦畑や林檎畑は 天上界の景色にも負けませんってニンフ達が言ってくれたわ。
今、ようやく少しずつ 山々や川も緑豊かになってきて、キラキラ輝いてるでしょ? ハデスと幼い頃に二人でよく過ごした朝靄の中のあの泉も もうすぐ元に戻るわ。



でも、いま、私が居なくなったら全て無くなるわ。
今、私が去って、大地の恵みの力が無くなってしまったら。

私は、
私だけの幸せのために、ここの全てを捨てて役目を放り出して、ハデスの行った冥界に降りて行く事は、、ハデスの所に行くことは、
「どうしても、どうしてもできない。
あなたの側には行けない。」






ごめんなさい ごめんなさい 本当にごめんなさい ごめんなさい ごめ(;_;)。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...