29 / 107
ホウレン草(報告連絡相談)は、おいしいのよ
しおりを挟むヘルメスのホウレン草
コレーの暢気な寝言を聞いて吹き出した瞬間からこっち、気がつくと地上のデーメテールの野原だった。
( あいつ!このオレを叩き出しやがったな! )
まぁ、冥界の王に向かって『あいつ』は無い。よほど腹が立ったんだろう。お互いに。
座り込んでいたヘルメスは、ヨッと掛け声と共に立ち上がり
( まずはアポロンのとこに行くかな )と考えていた。
冥界と地上では時間の流れが異なる。少し冥界過ごしたつもりが地上に戻ると浦島太郎の様だ。あれは海中海底の世界からの帰還の話だが。
辺りを見回したヘルメスはあまり変わっていない冬の様子に舌打ちする。
( あのおばさん、何サボってるだよ。こっちは働いてきてやったのに )
この様子では、まずデーメテールにコレーの無事を伝えた方が良いのかと思案しているところに
「 ご苦労様ヘルメス。コレーは大丈夫そうだった?まぁ兄さんのとこにいるのなら間違いないと思うけど。」
そう声がかかり振り返る。
気配を消してらっしゃる?誰に見つかりたくないのか?デーメテールか?
いや、きっとあの鬼嫁にだな。またデーメテールの為に!って機嫌悪くなるものな。
振り返ったヘルメスは天界の王のゼウスに傅いた。
「 こんな所で失礼いたします。」
とヘルメスが言うと、
「 こんな所で悪かったわね ここは私の庭よ」
ゼウスの背後から豊穣の女神デーメテールが姿を見せた。
これは別々であちこちにと報告に行く手間が省けたと思った。
が、あのハデスの過保護すぎる様子をそうまるでコレーを囲っている様な結界を、デーメテールにそのまま報告するのは問題じゃないのかと少し考える。
それが待てない様子で、デーメテールが詰め寄ってくる。
「 ねえ、それでコレーはいたの?無事なの?なんで連れ帰ってくれなかったの?
ちょっと! 」
ヘルメスの首根っこを掴んでグラグラと揺さぶる。
ここの姉妹は本気で手が出るから。美人姉妹じゃなく凶暴姉妹だよな。
ゼウスが焦るデーメテールを抑えてヘルメスを開放してくれる。その後ここで話してもいいですか?と、目で確認を取るとゼウスがスッと辺りに結界を張る。これで盗み耳されない。
「 ご報告致します。
コレー様は確かに冥界にいらっしゃいました。地上に咲いてる界渡りの花に、お役目柄 力を使ってしまい冥界にお渡りになってしまわれた様です。そのおり、その花の作用で一時的に記憶喪失になる様に作られているそうで、コレー様も記憶に混乱が生じてるようでした。ご自分の名前もお忘れになっている様子らしいです。」
ここまで一気に話すと、心配そうに聞いていたデーメテールがハッと声を上げる。よろめいたデーメテールを背後のゼウスがそっと肩を抱きしめている。
結界張ってて良かったよ、こんなとこあの鬼嫁に見つかったらまた、一騒動だぜって思いながら
デーメテールの愚痴や心配は後で聞くとして先を続ける様に目配せされた。
「 ですから、記憶が混乱してしたままで、地上に戻す際の忘却の術を使ってしまっては、地上に戻って来た後も記憶に障害が残ったり、悪くすると人格に問題が生じてしまう危険性があるとの事です。その為しばらく冥界で元に戻るまで様子を見るとの仰せでした。
今、強引に連れ帰るのでなく記憶が戻ってから、冥界に行った時のように界渡りの花の力でお帰りになるのが一番 お体に負担がかからない様だとおっしゃられました。今から界渡りの花に回復する術を行い、全てが元に戻ったら冥界での記憶を消去して送り届けるとお約束頂きました。
元々は界渡りの花の所為でもあり、冥界の王も地上に戻すこと自体には何も弊害は無いような仰りようでしたが、」
そこまで話して少し言い渋るヘルメスを見て、ゼウスが眉を顰める。
( 何か問題があったのか?後で聞いた方がいいか?) と声に出さずにやりとり始めると、デーメテールがキッと背後のゼウスを睨んだ。
「 コレーは私の娘よ!私が聞いて不味い事でもあるの? 教えてくれないのなら、ここでの仕事を全て辞めて冥界に迎えに行くわよ!」
そうデーメテールが脅して来る。って言うか、おばさんこの地上の様子でちゃんとお仕事してたの?生えてる草なんかも微妙なんだけど。ジトーって責める様に生えている小さな草を見ていたヘルメスに向かってデーメテールは言った。
「 これは今度、新しく作られた寒い季節でもできる草で、ホウレン草って言うの。とっても美味しいのよ♪ 」
別れ際に聞いたコレーの「おいしいね~」を思い出す。食いしん坊は母親似だなぁ
デーメテールがちゃんと仕事していたアピールを聞いて話す事を決意した。
「 コレー様には冥界の方々も、それはそれは手厚くもてなされておりまして大事にされておりました。
しかし、だからこそ私は面会も許されませんでした。
ここで私が冥界まで迎えに来た事を地上で思い出さない様にとのご配慮でした。
冥界で初めての舟で冥府宮まで移動された様で随分と向こうの方とも慕われたご様子でしたよ。
私が訪れた折はコレー様はおやすみになっており、お元気そうで眠ってらっしゃる気配だけ確認させて頂きました。
そのお部屋も随分と頑丈な結界で守られておりました。間違っても悪意を持ってコレー様が傷つけられるような事はないと思います。」
そう報告したが
やはり、二人には伝わってしまう。
お二人とも何を心配されているのかを。
黙ったままさっきよりも顔色が悪くなったデーメテール様に伝えた方が良いのか迷っていたが、
ゼウスがヘルメスに尋ねた。
「 兄さんは何て言ってたの? 」
それはここで言っても良いのと事だよね?と確認しながらヘルメスは答える。
「 冥界の王は、『ゼウスには、しばらく預かるが大事にもてなすから心配するなと 伝えてくれ。』と仰せでした。」
ゼウスがデーメテールの震える肩を抱いて安心する様に少し力を入れる。
「 大丈夫!兄さんがそう言うならきっと帰って来るよ。兄さんが約束を破った事は一度もないだろ?」
そうゼウスが言い聞かせると、反対にデーメテールは泣き出しそうな顔をする。
「 そうね、ハデスは約束を破らない。約束を守らないのはいつも私の方だわね 」
だから、そんな心配しなくちゃいけなくなる。
もしかしたら、ひょっとすると、
『 私の身代わりにコレーを取られるんじゃないかと 』
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる