21 / 107
使者ヘルメスが拝謁致します。
しおりを挟む「 偉大なる冥界の王の御尊顔を拝謁する栄誉に浴しましたる事、身に余る光栄に存じます。」
ヘルメスはそう挨拶した後は静かに頭を下げている。
だが、ハデスもじっと見つめたまま何も言わない。
静寂が謁見の間を包む。
包む。
包む。
包みまくっている…
ハデスの横に控えるタナトスとヒュプノスも死んでいるのか?眠っているのか?身動き一つしない。
もちろんハデスのすぐ足元で蹲る賢犬Kerberosは冥界王以上に無口だ。吠える時はシツコイが。
沈黙という とてつもない圧の中、静寂の破壊者はこのメンバーの中では誰か。
もちろん、挨拶を受けたハデスが「何用か?」と聞いてくれるのが一番だが。
もしくは、ヘルメスがご機嫌伺いを始めて、「御前に罷り越しましたる」理由を述べろ。
もしくは、黙っていても冥府の王の考えてる事は全て代行するタナトスが「何しに来たの?」って言え。
もしくは、あーここにミノスがいたなら…まあ、まずこんな沈黙の森は産まれなかっただろうが。
と その時、
「ふわぁ~~~~。 アーァーーーン。」
大あくびをして両腕を挙げ、伸びをしたのはヒュプノスだ!
「うわー ヒュー止めろ。」
とタナトスが言ったがすでに遅かった。
眠りの神ヒュプノスのあくびは、軽くてあくびが移るだけだが これが小さき人ならば100年の眠りとなってしまい、眠れる森の何とかのお伽話の世界になってしまう。
さすが高位の神々なので、この謁見の間にいる者達は皆同じ様にあくびを我慢して少し涙目になる程度で治ったが。おそらくドアの外にいてる者は眠りこけてるだろう。
「だって、兄ちゃん。退屈だったもの」
悪びれずにヒュプノスはあくびを出してスッキリした顔してる。
「退屈って、 お前寝てただろ? 目やについてるぞ!」
なんだかんだと兄弟仲の良いタナトスがヒュプノスの目を拭いてやっている。
ハデス様は その後ろでケルベロスをそっと撫でて起こしている。
賢犬ケルベロスのよだれ出てるけど、劇毒物扱いらしい。いや薬に使うらしいから良薬涎か?
一瞬の破られた沈黙からヘルメスがすかさず話し始める。
「 ハデス様は、先の地震から地上が荒れているのをご存知の事と思います。が、その原因もご承知でしょうか?」
ハデスは答えない。
ヘルメスはそのまま続ける。
「 地上が荒れた原因は、豊穣の女神デーメテール様でございます。
デーメテール様の御力がお隠れになってしまわれ、草木の一本も育たなくなり、地上の人間達は飢えて困っております。
そしてそのデーメテール様の御心を不安にさせているのは、御子神のコレー様が行方知らずになっているからなのです。」
ヘルメスは一旦そこでハデスの出方を見るが、やはり沈黙の返事しかない。
「 地上の様子を、我が主 大神ゼウス様も大変気にかけておられ、天界まで探しに来られたデーメテール様のお役に立つ様にと、私に申しつけられました。
それで、私も御子神様を探しております。
どうか 冥界の偉大な王の御力をデーメテール様のためにもお貸し願えないでしょうか?」
「 … 」
「 こちらに冥界にいらっしゃいますよね?」
痺れを切らしたのかヘルメスは疑問系だが断定した。初めから確信しているのだろう。
ハデスが僅かに頷いた。
それを見て側に控えていたタナトス達が目を見開く。
デーメテール様の娘がこの冥界にいる??
不死の神々も長い長い時を終える時もあるが、御子神がその時を迎える時はまずありえない。例え一片やチリのサイズになっても生きながらえる、また形ある物に取り戻すか、肉体の概念では無い。
だからこそ、好きな姿形に高位の神々は変えることができる。
ある時は、馬や牛にまた鳥やネズミ?ある時は草や木や花や石? もう語るのが嫌になるが、糞に変身する神もいる。何をしたいのだろう。
冥界の住人達が、デーメテール様の娘が冥界にいてる事を驚いてると 静かにドアがノックされる。
その間を縫う様に ヘルメスがハデスに問う。
「 ハデス様の命ですか?
攫ってきたんですか?
なぜですか?
デーメテール様の身代わりでしょうか?」
!!!!!!!!
「「「 殺す! 」」」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る
gacchi
恋愛
両親亡き後、薬師として店を続けていたルーラ。お忍びの貴族が店にやってきたと思ったら、突然担ぎ上げられ馬車で連れ出されてしまう。行き先は王城!?陛下のお妃さまって、なんの冗談ですか!助けてくれた王宮薬師のユキ様に弟子入りしたけど、修行が終わらないと店に帰れないなんて…噓でしょう?12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる