冥界の愛

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使者ヘルメスが拝謁致します。

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「  偉大なる冥界の王の御尊顔を拝謁する栄誉に浴しましたる事、身に余る光栄に存じます。」


ヘルメスはそう挨拶した後は静かに頭を下げている。
だが、ハデスもじっと見つめたまま何も言わない。
静寂が謁見の間を包む。
包む。
包む。
包みまくっている…




ハデスの横に控えるタナトスとヒュプノスも死んでいるのか?眠っているのか?身動き一つしない。
もちろんハデスのすぐ足元で蹲る賢犬Kerberosは冥界王以上に無口だ。吠える時はシツコイが。


沈黙という とてつもない圧の中、静寂の破壊者はこのメンバーの中では誰か。


もちろん、挨拶を受けたハデスが「何用か?」と聞いてくれるのが一番だが。
もしくは、ヘルメスがご機嫌伺いを始めて、「御前に罷り越しましたる」理由を述べろ。
もしくは、黙っていても冥府の王の考えてる事は全て代行するタナトスが「何しに来たの?」って言え。
もしくは、あーここにミノスがいたなら…まあ、まずこんな沈黙の森は産まれなかっただろうが。
と その時、


「ふわぁ~~~~。 アーァーーーン。」


大あくびをして両腕を挙げ、伸びをしたのはヒュプノスだ!

「うわー ヒュー止めろ。」

とタナトスが言ったがすでに遅かった。


眠りの神ヒュプノスのあくびは、軽くてあくびが移るだけだが これが小さき人ならば100年の眠りとなってしまい、眠れる森の何とかのお伽話の世界になってしまう。
さすが高位の神々なので、この謁見の間にいる者達は皆同じ様にあくびを我慢して少し涙目になる程度で治ったが。おそらくドアの外にいてる者は眠りこけてるだろう。


「だって、兄ちゃん。退屈だったもの」
悪びれずにヒュプノスはあくびを出してスッキリした顔してる。

「退屈って、 お前寝てただろ? 目やについてるぞ!」

なんだかんだと兄弟仲の良いタナトスがヒュプノスの目を拭いてやっている。

ハデス様は その後ろでケルベロスをそっと撫でて起こしている。
 賢犬ケルベロスのよだれ出てるけど、劇毒物扱いらしい。いや薬に使うらしいから良薬涎か?



 一瞬の破られた沈黙からヘルメスがすかさず話し始める。


「 ハデス様は、先の地震から地上が荒れているのをご存知の事と思います。が、その原因もご承知でしょうか?」

ハデスは答えない。


ヘルメスはそのまま続ける。

「 地上が荒れた原因は、豊穣の女神デーメテール様でございます。
デーメテール様の御力がお隠れになってしまわれ、草木の一本も育たなくなり、地上の人間達は飢えて困っております。
そしてそのデーメテール様の御心を不安にさせているのは、御子神のコレー様が行方知らずになっているからなのです。」

ヘルメスは一旦そこでハデスの出方を見るが、やはり沈黙の返事しかない。


「 地上の様子を、我が主 大神ゼウス様も大変気にかけておられ、天界まで探しに来られたデーメテール様のお役に立つ様にと、私に申しつけられました。
それで、私も御子神様を探しております。
どうか 冥界の偉大な王の御力をデーメテール様のためにもお貸し願えないでしょうか?」


「 …   」


「 こちらに冥界にいらっしゃいますよね?」


痺れを切らしたのかヘルメスは疑問系だが断定した。初めから確信しているのだろう。



 ハデスが僅かに頷いた。

それを見て側に控えていたタナトス達が目を見開く。


デーメテール様の娘がこの冥界にいる??

不死の神々も長い長い時を終える時もあるが、御子神がその時を迎える時はまずありえない。例え一片やチリのサイズになっても生きながらえる、また形ある物に取り戻すか、肉体の概念では無い。
だからこそ、好きな姿形に高位の神々は変えることができる。
ある時は、馬や牛にまた鳥やネズミ?ある時は草や木や花や石? もう語るのが嫌になるが、糞に変身する神もいる。何をしたいのだろう。


冥界の住人達が、デーメテール様の娘が冥界にいてる事を驚いてると 静かにドアがノックされる。

その間を縫う様に ヘルメスがハデスに問う。



「 ハデス様の命ですか?
攫ってきたんですか?
なぜですか?


デーメテール様の身代わりでしょうか?」



  !!!!!!!!






  「「「     殺す! 」」」 




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