10 / 107
渡し守 カロン
しおりを挟む冥界の秘密の一つじゃな
「またミノの悪い癖が出たな。
お嬢さん すまなかったなぁ。何の事なのか、わからないだろう?みんなそうだ。
このミノスは遠い未来を見て来た事があるらしいんだ。その話をするから自分の中ではとても納得するし、繋がってる話しなんだろうが わしらにはさっぱりわからなくてな。
まぁ お嬢さんも気にしなくていい。話し半分ぐらいに聞いておけば良いから。」
「あー良かった。」
あまりにも何言ってるかわからなくてビビったわ
「私 自分の名前も忘れてしまって。
他にも随分記憶が無いのかと心配しました。わからないのは私だけではないんですね。
やっぱり初めて聞く話なんですね」
「ああ 大丈夫じゃよ。
ミノの話しがわかる者は居ないが、おもしろい話しじゃから みんな真似して言ってるだけじゃな。」
「ところで やっぱりお嬢さんは何も覚えてないのかい?どこから来たのかも?」
「はい 倒れていたところを ミノスさんに助けて頂きました。
記憶がないのは 忘却の河の水を飲んだのかも?と話しでしたけど、どうしたら思い出すんでしょうか?」
「そうさなぁ。わしが見える感じでは。いや、
川の水を飲んだんじゃないだろう。ボーっとしとりゃせんな。しっかりとしてるし困った顔も笑顔もあるからな。
川に浸かっただけならそのうちに思い出すだろう。
それより その手に持っているのはヒガンバナ科の花じゃな?
力を失っておる。
お嬢さんはその花と一緒にこっちに来たのかい?」
驚いた。
ミノスさんには自分が持って帰ると言われたけど、ミノスさんのお家に着くまで この子の元気を取り戻してあげれないかともう一度力を流そうと貸してもらっていた。
しかも 手の中に入ってて見えなかったはずなのに。
「お爺さんはこの花が何の花なのか知ってるんですか?
どうしたら元気になるかわかりますか?」
カロンのお爺さんは、 「その花、ヒガンバナ科の事なら少しは知っておる」
そう言って、河岸に咲き乱れてる彼岸花を見つめながら話し始める。
「天界、地上界、ここ冥界とそれぞれの役割があると言われてる。そしてその役割が有るからこそ、簡単にあちこちに行き来が出来ない様に越えられない結界がある。
普通 高位の神がその界の主に断りを入れて初めて往来ができる。
それでも、特に冥界は滅多にある事でなく、よほどの事情があっての事だと聞いてる。
そんな結界が張ってる他の世界の事でも、全く世間の様子がわかってなければこちらも対処が追いつかない時があるんじゃ。
例えば 先の「神の気まぐれによる戦」とかじゃな。たくさんの地上界の人間の魂が死者となり、ここ冥界にやって来た。
その時も、もしも何の情報も無く いきなりあの数の死者をこの入口で待たせてしまうと大変な事になる。溢れ出て地上界に亡者として彷徨う事になるやも知れぬ。
だから地上界、ひいては天界まで何が起こってるのか?知らせてくれる目と耳が必要になってくる。
そこで作られたのが、どこにあっても不自然にならない花の姿をした目と耳じゃな。
最初は 色んな花を試してみたらしいが、ある時どうしてもあちらの世界からこっちに送りたい物があってな。
見たり聞いたり出来るだけでは、充分でなくなって来たんじゃ。
その時に、この河の辺りにたくさん咲いてる彼岸花が、地上界にも特に思いの強い者の側に咲いてるという話を聞いてな、ひょっとするとこいつは結界を超えてしまうんじゃないか?と。
それから色んな事を試したり花を枯らしたりと、試行錯誤ってやつじゃな。
花の中でもヒガンバナ科という話なら、またその花の仲間なら 結界を超えられるとわかったんじゃ。
もちろん、花にかなり力を流さないと作用しないがな。
見たり聞いたりするだけじゃなく、いざとなったらその花でこっちにやって来れる。そんな特別な花だと。
冥界の秘密の一つじゃな。
お嬢さんはそれに巻き込まれてしまったんだろう。力を流したんじゃろ?覚えてないのかい?それもその花の作用だろう。
その花から離れると徐々に思い出すはずじゃよ。心配せんでもええ。」
渡し守のカロンのお爺さんは 静かに舟を漕ぎながら 私に優しく笑いかけてくれた。
やっぱり私、不安そうな顔してたんだなぁ
「そして、ここから帰る時には ここでの事は全て忘れて帰るんじゃよ。」
そう言われると
何故だか涙が流れて仕方なかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる