冥界の愛

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行方不明  母神デーメテール

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あの子が産まれるまでは 本当に色々とあった。
あの頃の私は まだまだ許せるなど出来ないし、納得もしていない。この借りは必ずきちんと返してからでないと、消滅もできない。神の名にかけてでも、神託とやらの後始末はつけさせると怒っていた。
周りのニンフ達が心配しているのもわかっていたし、何より豊穣の神には相応しくないオーラを纏っていたのだろう。

「デーメテール様のお体の心配もありますが、お腹のお子様にその怒りが移らないかと私共は案じております。」

 そうだ、怒り狂った神の子が生まれてしまえばいい!何が神託だ、予言だ。クロノスのただの思い付きや余興がどんなに残酷な物なのか、何度繰り返せばわかるのか。怒り狂い手の付けれない、今度は孫を飲み込んでみればいい。腹の中を食い破られて苦しめばいいのに。


私のあの頃の怒りが、吐いた毒が今になって 私からあの子を取り上げるならば心から懺悔します。何度でも何度でも。どうか許して。あの子を私に返して。


難産だった。
( 怒りを解け せめて鎮めようとせよ 今だけは忘れろ )
何度も気を失い 合間に聞いた声は信じられない者の声だった。

そんな幻聴におもわず苦笑いが漏れると、強烈な陣痛の波が襲ってきた。

 <  あーーー   >


「 おめでとうございます。女神様の御誕生でございます」

「デーメテール様 ありがとうございます。」


 涙が止まらない。抱いてる赤子の柔らかいお腹にポタポタと落ちてしまう。
 愛おしい かわいい 柔らかい 暖かい 小さい 軽い 
どんな言葉も全てを表せない。顔を見た途端に(私の子だ)  感情が溢れて。
ニンフや小さき人達の感謝と喜びに囲まれながら。
祈ってくれて、心配してくれて、みんなありがとうと心から謝意を伝える事ができた。
あの時から私の宝物。宝物に会わせてくれてありがとう。







ゼウスを捕まえる為に 天界入口の神殿に来たが、やはり今はここには居てないとの返事に苛立ち ニヤニヤするばかりでそれ以上は動きそうにない天界の馬鹿者どもを脅した。

娘が、この地上に大地に居てない事は私にはわかる。この世界から消えてる。
ならば界を越えた。どこに?天界か?ならばあの男だろう。なぜ黙って連れ去るのか?また嫌な予感がする。

   
  『 ゼ、ウ、スー‼︎      』


あの怒り狂った時以来の大声で呼んだ。
一緒に力が入ってしまい大地が少し割れている。地震で小さき人達が震えてしまっている。少しだけ冷静を取り戻した途端に


「呼んだ?ハニー🍯」

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