4 / 107
冥界にて
しおりを挟む水の流れる音で目覚めた。手が濡れている。川に少し浸かり 倒れてた様だった。
ここはどこかしら?なんだか辺りはよく見えない。でも、さっきまでの真っ暗な闇ではなく白い靄(もや)に包まれている様だわ。
とりあえず怪我はしてないみたいだし、痛みもない。
立ち上がり、川から離れて危険な物を確認しようとするが余計に混乱する。濡れた手と服を乾かそうと 力を流そうとしても力が出てこない。
えっ?どうして? どうなってるの?
もう一度 何が起こっているのかと考えたが ますますわからなくなった。
思い出せない。真っ暗な中に引き込まれたのは覚えているけど、その前は何をしてたかしら?
え?待って。自分の事もわからない?私は? 私は誰だっけ?
頭の中にも白い靄がかかっているみたいに何も出てこない。
でも 段々と思い出せない事が苦痛でなくなってくる。ただ、ただ無になっていく。
胸の奥の方に 誰だかわからない心配そうな泣き顔が浮かんだのが最後だった。
そうしてまた意識を失った。
冥界の仕事人 ミノス
(「何かが紛れ込んだようだ」)
主の命にて来訪者を探しに行く。この冥界にたまに正規ルート以外に訪れる者がある。
もちろん主に断りを入れて、尋ねてくる神々もいらっしゃる。そういうお客様はお気に入りの小さき人が死んだ後にどうなってるのかを気にかけている神だ。
主の説明では納得しがたいらしく 逢いに行かせてほしいと要望される。
一度だけと主が許して面会が叶うが、大抵は忘却の川の水を飲んだ後で神々の事は全く忘れている。
「それでもいい」とおっしゃられたが、逢瀬も何も小さき人は無表情 無反応で哀しい顔をしてお帰りなる。
だから輪廻の転生を待てばよいのにといつも申し上げているが「それでは間に合わぬのだろう?」と、そちらは事情がわかっていらっしゃる。さすが私達とは違う神であられる。でもその神でも愛おしいと、どうしようもない心情があるのだなぁと主に感想を漏らした。
「神に似せて小さき人を作られた」
無口な主の呟きに驚いた。
いや~久々に生声聞きましたよ。いつも命令は脳内から響いてくるから。喋れるじゃんとか人間の言葉覚えてたじゃんとか、ついつい言ってしまい 主の怖ろしい顔を見て自分の軽口を後悔した。
いくらもう数えきれない年月をお仕えしてようとも冥界の主は恐怖の王だ。
こんなとこに居てるから自身消滅なんてもう怖くはないと思っているが、主の目をみて心の底から恐怖が湧き上がる。
そんな事を思い出しながら探していると倒れてる生者を見つけた。
たまーに微弱の力を持った小さき人が冥界に紛れてくる事がある。忘れられない者を探して意図的に界を超えてくる事もあるし、間違えての迷子の時もある。まぁ何百年に一度あるかないかの事だけど。
さて今度はどんな手で紛れ込んだのかと考えていると、倒れている人の横にピンクの花が落ちている。
あれって、その辺に咲いてるアスフォデルスとかの花じゃないよね?
異界との連絡 通信に使うアイリスだっけ?わからん。
花なんてどれも同じです。「赤い花か白いか黄色か青いかぐらいですよねー。」などと同じく主に仕える者達に話したら、俺は違うと言いながら「蕾か、咲いてるか、枯れてるか」なんて奴もいたし、「美味しいか、不味いか」食ったのか?とお話にならない奴ばっかりだった。(反対に食べれる花を見分けるのはすごいかも)
とにかく、生者なら身元?とか目的?確認して 忘却の水でちゃっちゃと何もかも忘れてもらって、速攻元の世界に送り返す。それで、このたび目出度く死者になったなら堂々と正規ルートに運んで手続き踏まないと。
こういうイレギュラーな仕事 困るんだよね~。(残業代も出ないし)
もう!って結構雑に仰向けにして顔確認したら
げっ! 何? 神様じゃん。
主ー 「それ先言ってよ~」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
完結まで執筆済み、毎日更新
もう少しだけお付き合いください
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる