冥界の愛

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冥界にて 

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水の流れる音で目覚めた。手が濡れている。川に少し浸かり 倒れてた様だった。
ここはどこかしら?なんだか辺りはよく見えない。でも、さっきまでの真っ暗な闇ではなく白い靄(もや)に包まれている様だわ。
とりあえず怪我はしてないみたいだし、痛みもない。
立ち上がり、川から離れて危険な物を確認しようとするが余計に混乱する。濡れた手と服を乾かそうと 力を流そうとしても力が出てこない。


えっ?どうして? どうなってるの?

もう一度 何が起こっているのかと考えたが ますますわからなくなった。

思い出せない。真っ暗な中に引き込まれたのは覚えているけど、その前は何をしてたかしら?
え?待って。自分の事もわからない?私は? 私は誰だっけ?
頭の中にも白い靄がかかっているみたいに何も出てこない。

でも 段々と思い出せない事が苦痛でなくなってくる。ただ、ただ無になっていく。
胸の奥の方に 誰だかわからない心配そうな泣き顔が浮かんだのが最後だった。
そうしてまた意識を失った。







 冥界の仕事人 ミノス



(「何かが紛れ込んだようだ」)

主の命にて来訪者を探しに行く。この冥界にたまに正規ルート以外に訪れる者がある。
もちろん主に断りを入れて、尋ねてくる神々もいらっしゃる。そういうお客様はお気に入りの小さき人が死んだ後にどうなってるのかを気にかけている神だ。

主の説明では納得しがたいらしく 逢いに行かせてほしいと要望される。
一度だけと主が許して面会が叶うが、大抵は忘却の川の水を飲んだ後で神々の事は全く忘れている。
「それでもいい」とおっしゃられたが、逢瀬も何も小さき人は無表情 無反応で哀しい顔をしてお帰りなる。
だから輪廻の転生を待てばよいのにといつも申し上げているが「それでは間に合わぬのだろう?」と、そちらは事情がわかっていらっしゃる。さすが私達とは違う神であられる。でもその神でも愛おしいと、どうしようもない心情があるのだなぁと主に感想を漏らした。

「神に似せて小さき人を作られた」

無口な主の呟きに驚いた。
いや~久々に生声聞きましたよ。いつも命令は脳内から響いてくるから。喋れるじゃんとか人間の言葉覚えてたじゃんとか、ついつい言ってしまい 主の怖ろしい顔を見て自分の軽口を後悔した。
いくらもう数えきれない年月をお仕えしてようとも冥界の主は恐怖の王だ。
こんなとこに居てるから自身消滅なんてもう怖くはないと思っているが、主の目をみて心の底から恐怖が湧き上がる。



そんな事を思い出しながら探していると倒れてる生者を見つけた。
たまーに微弱の力を持った小さき人が冥界に紛れてくる事がある。忘れられない者を探して意図的に界を超えてくる事もあるし、間違えての迷子の時もある。まぁ何百年に一度あるかないかの事だけど。
 さて今度はどんな手で紛れ込んだのかと考えていると、倒れている人の横にピンクの花が落ちている。
あれって、その辺に咲いてるアスフォデルスとかの花じゃないよね?
異界との連絡 通信に使うアイリスだっけ?わからん。
花なんてどれも同じです。「赤い花か白いか黄色か青いかぐらいですよねー。」などと同じく主に仕える者達に話したら、俺は違うと言いながら「蕾か、咲いてるか、枯れてるか」なんて奴もいたし、「美味しいか、不味いか」食ったのか?とお話にならない奴ばっかりだった。(反対に食べれる花を見分けるのはすごいかも)

とにかく、生者なら身元?とか目的?確認して 忘却の水でちゃっちゃと何もかも忘れてもらって、速攻元の世界に送り返す。それで、このたび目出度く死者になったなら堂々と正規ルートに運んで手続き踏まないと。
こういうイレギュラーな仕事 困るんだよね~。(残業代も出ないし)

もう!って結構雑に仰向けにして顔確認したら

げっ! 何? 神様じゃん。
主ー  「それ先言ってよ~」
 
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