毒が効くまで長すぎる

ねね

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9 彼らの事情

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 「助けてくれてありがとう。あなたは、召喚された魔物でいいのかな?」

 「うーん、召喚に巻き込まれただけで、別に呼ばれてはいないです。呼んだ方は私が居ることにも気づいてなかったですし。」

 「は?」

 「私は見えにくいので。この体に入ってから、やっと皆さんに存在を認識されました。」

 青年が絶句した。まあね、首輪がついてないノラ魔物なんて、そりゃあ怖いよね。

 早急に私の無害さをアピールしなくちゃ。

 って、どうやって?うーん、ご機嫌な笑顔でもふりまいとくか。ニコニコ。

 どうか怖い笑顔になっていませんように。
 お姉さんは怖くないよ~。

 笑いながら、此方からも尋ねてみる。

 「あなたは、あそこで何をしていたの?」

 「俺たちは領主のお館へ向かう途中でした。召喚が行われているのに俺が気がついて、それで先生は彼らを取り押さえようと…。」

 「召喚って、悪いことなんですか?」

 「悪いこと、って言うか。」

 青年は黙ってこちらをじっと見た。私を見て、自分の手首に巻いた紐をチラリと見て、しばし黙り込む。

 何か考えてるな。じゃあ、待ってるよ。君の好きに考えてくれ。

 チラチラ光る目、何かに怒る雰囲気。黙り込んだ彼は、まるで熾火のようだ。

 これは、私に怒っている訳ではないな。さっきのおっさんの死がよほど無念だったのか?

 ろくなことは考えていなさそう。それなのに、妙に目を惹かれる。

 ふふふ、面白い。
 さあ、彼はどう出てくるのだろう。

 ややあって、会話が再開された。

 「召喚を乱発したせいで、この土地は混乱してるんだよ。」

 ふうん?説明してくれる?

 無言で見つめ返して先を促す。青年は、とても丁寧に応えてくれた。

 「この領内には、とても力が強い魔術師の家が2つある。"赤熊"と"白鳩"だ。

 2つの家は仲が悪くて、何代もいがみあってきた。ぶつかって死人が出るのも珍しくない。

 どちらの家も、何度も魔物を召喚して、お互いに力を競っている。

 おかげで、逃げた魔物や管理できなかった魔物は増える一方だ。

 今は、野に放たれた魔物たちが領民を襲って、人を殺している状態なんだ。」

 あーあ。争いの果てに、自分が住んでる土地に地雷を埋めまくったようなものか。

 「何で誰も止めなかったの?」

 「止められる者がいない。彼らは領内最強で、ご領主の仲裁は何度も失敗している。

 隣の領も弱小だし、領内の話に対して国が出来ることは、今の段階ではあまりない。」

 ええとつまり、中央集権が出来ていないと。それに公権力が機能してないと。人間社会って難しいよな。

 「1ヶ月前、ついに魔物に襲われて村が1つ全滅した。それで、ご領主が両家の主だった者をここに集めて、話し合いの場を持つことになったんだ。

 ようやく国も動いて、初めて仲裁者を1人よこしてくれた。それが先生だ。」

 「さっき、狼に食べられた人ね?」

 話し合う前に死んじゃったよ。

 「これで、また和解が遠退いたな。」

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