姫さまを倒せ!

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15 母后さまのお館へ

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 本日は晴れ。絶好のお見舞い日和。
 私はせっせと荷車を曳いている。

 荷車と言えど、そこは姫さまのご一行。私はきちんと身なりを整えているし、荷には黒い幌をかけ、黄緑の飾り紐を付けた。

 前を行く姫さまのお車はさらに華やかだ。あちらは牛頭の魔物の一頭立てで、漆黒のお車に赤と白の飾り紐付き。

 空には蜂の護衛が飛んでいて、紫の制服が綺羅綺羅しい。

 そうして練り歩くのだから、もちろん、スピードは出せない。品が悪いからね……。

 この調子なら母后さまのお館まで、片道2時間ってところかな。

 ぶ~ん、ぶ~んと護衛の蜂が飛ぶ音が、少しだけ眠たい。

 やがて道の両側に建物がなくなり、開けた畑になって、木立が増えて来た。

 丘陵地帯に入ったら、母后さまのお館が見えるだろう。

★ ★ ★

 そんな道行きに異変が起きたのは、途中休憩のときのこと。

 使い魔その2が姫さまのお車から降りると、そのまま笑いながらこちらへ転がりこんで来たのだ。

「ぐへへっ。ぐへっ。ぐへへへへっ。」

「な、なに?どうした?」

 すんごい笑顔である。
 ちょっとそれ、ヨソさまには見せるなよ。

「へっへっへっ。まだ内緒。お館に着いてからね~。」

「???」

 お車の中で何があったのか。それはもちろん気にはなるが……。それよりも彼女はこの在り様で、姫さまの付き添いが務まるのだろうか。

「その顔どうにかできる?きつかったら代わろうか?」

「うん、大丈夫。死にそうだけど、どうにかするから。あんたの前くらい見逃して。」

 結局、彼女の不気味な笑いの理由は明かされることもなく。ひとしきり笑うと、使い魔その2は去って行った。

 宣言どおり、お車にのりこむ瞬間、さーっと顔を作りなおしていたけれど。

 はてさて、いったい何があったのやら。

★ ★ ★

 昼前には母后さまのお館に着いた。

 姫さまと使い魔その2は、そのまま母后さまのところへ。

 私は姫さまのお車から樽と軽食の容器を回収し、荷車に載せて車庫へと向かう。

 車庫の中では、母后さまのところの使い魔が1匹、ソワソワと待っていた。

 はいはーい。
 今、息子さんの梱包を解きますからね~。

 例の樽を一番に荷台から降ろし、かぱっとフタを外す。すると……。

 なぜか、男の子は樽の中で器用に頭をかかえ、ぷしゅーっと空気が抜けたように縮こまって茹で上がっていた。

 塩ふって水切りした野菜みたい。

 即座にお母さんが樽に腕を突っ込んで、男の子を引っ張り出す。

「大丈夫!?どうしたの!?」

「……。」

「車に酔った?気分悪いの?」

 あ、やっと顔が見えた。なんだ、顔色は悪くないな。

 ええと。これは……はにかんでいる?
 何だろう。どこか、上の空だけれども。

 男の子は小さく咳ばらいすると、静かな、遠い声で話し出した。

「なんでもないよ。母さん、久しぶり。」

 じーっと顔を見つめあう親子。うむ、感動の再会だ。

 邪魔しちゃいけないな~。
 ちょっとくらい挙動不審でも。

 私はさりげなく側を離れて荷降ろしを始めた。

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