15 / 22
15 母后さまのお館へ
しおりを挟む
本日は晴れ。絶好のお見舞い日和。
私はせっせと荷車を曳いている。
荷車と言えど、そこは姫さまのご一行。私はきちんと身なりを整えているし、荷には黒い幌をかけ、黄緑の飾り紐を付けた。
前を行く姫さまのお車はさらに華やかだ。あちらは牛頭の魔物の一頭立てで、漆黒のお車に赤と白の飾り紐付き。
空には蜂の護衛が飛んでいて、紫の制服が綺羅綺羅しい。
そうして練り歩くのだから、もちろん、スピードは出せない。品が悪いからね……。
この調子なら母后さまのお館まで、片道2時間ってところかな。
ぶ~ん、ぶ~んと護衛の蜂が飛ぶ音が、少しだけ眠たい。
やがて道の両側に建物がなくなり、開けた畑になって、木立が増えて来た。
丘陵地帯に入ったら、母后さまのお館が見えるだろう。
★ ★ ★
そんな道行きに異変が起きたのは、途中休憩のときのこと。
使い魔その2が姫さまのお車から降りると、そのまま笑いながらこちらへ転がりこんで来たのだ。
「ぐへへっ。ぐへっ。ぐへへへへっ。」
「な、なに?どうした?」
すんごい笑顔である。
ちょっとそれ、ヨソさまには見せるなよ。
「へっへっへっ。まだ内緒。お館に着いてからね~。」
「???」
お車の中で何があったのか。それはもちろん気にはなるが……。それよりも彼女はこの在り様で、姫さまの付き添いが務まるのだろうか。
「その顔どうにかできる?きつかったら代わろうか?」
「うん、大丈夫。死にそうだけど、どうにかするから。あんたの前くらい見逃して。」
結局、彼女の不気味な笑いの理由は明かされることもなく。ひとしきり笑うと、使い魔その2は去って行った。
宣言どおり、お車にのりこむ瞬間、さーっと顔を作りなおしていたけれど。
はてさて、いったい何があったのやら。
★ ★ ★
昼前には母后さまのお館に着いた。
姫さまと使い魔その2は、そのまま母后さまのところへ。
私は姫さまのお車から樽と軽食の容器を回収し、荷車に載せて車庫へと向かう。
車庫の中では、母后さまのところの使い魔が1匹、ソワソワと待っていた。
はいはーい。
今、息子さんの梱包を解きますからね~。
例の樽を一番に荷台から降ろし、かぱっとフタを外す。すると……。
なぜか、男の子は樽の中で器用に頭をかかえ、ぷしゅーっと空気が抜けたように縮こまって茹で上がっていた。
塩ふって水切りした野菜みたい。
即座にお母さんが樽に腕を突っ込んで、男の子を引っ張り出す。
「大丈夫!?どうしたの!?」
「……。」
「車に酔った?気分悪いの?」
あ、やっと顔が見えた。なんだ、顔色は悪くないな。
ええと。これは……はにかんでいる?
何だろう。どこか、上の空だけれども。
男の子は小さく咳ばらいすると、静かな、遠い声で話し出した。
「なんでもないよ。母さん、久しぶり。」
じーっと顔を見つめあう親子。うむ、感動の再会だ。
邪魔しちゃいけないな~。
ちょっとくらい挙動不審でも。
私はさりげなく側を離れて荷降ろしを始めた。
私はせっせと荷車を曳いている。
荷車と言えど、そこは姫さまのご一行。私はきちんと身なりを整えているし、荷には黒い幌をかけ、黄緑の飾り紐を付けた。
前を行く姫さまのお車はさらに華やかだ。あちらは牛頭の魔物の一頭立てで、漆黒のお車に赤と白の飾り紐付き。
空には蜂の護衛が飛んでいて、紫の制服が綺羅綺羅しい。
そうして練り歩くのだから、もちろん、スピードは出せない。品が悪いからね……。
この調子なら母后さまのお館まで、片道2時間ってところかな。
ぶ~ん、ぶ~んと護衛の蜂が飛ぶ音が、少しだけ眠たい。
やがて道の両側に建物がなくなり、開けた畑になって、木立が増えて来た。
丘陵地帯に入ったら、母后さまのお館が見えるだろう。
★ ★ ★
そんな道行きに異変が起きたのは、途中休憩のときのこと。
使い魔その2が姫さまのお車から降りると、そのまま笑いながらこちらへ転がりこんで来たのだ。
「ぐへへっ。ぐへっ。ぐへへへへっ。」
「な、なに?どうした?」
すんごい笑顔である。
ちょっとそれ、ヨソさまには見せるなよ。
「へっへっへっ。まだ内緒。お館に着いてからね~。」
「???」
お車の中で何があったのか。それはもちろん気にはなるが……。それよりも彼女はこの在り様で、姫さまの付き添いが務まるのだろうか。
「その顔どうにかできる?きつかったら代わろうか?」
「うん、大丈夫。死にそうだけど、どうにかするから。あんたの前くらい見逃して。」
結局、彼女の不気味な笑いの理由は明かされることもなく。ひとしきり笑うと、使い魔その2は去って行った。
宣言どおり、お車にのりこむ瞬間、さーっと顔を作りなおしていたけれど。
はてさて、いったい何があったのやら。
★ ★ ★
昼前には母后さまのお館に着いた。
姫さまと使い魔その2は、そのまま母后さまのところへ。
私は姫さまのお車から樽と軽食の容器を回収し、荷車に載せて車庫へと向かう。
車庫の中では、母后さまのところの使い魔が1匹、ソワソワと待っていた。
はいはーい。
今、息子さんの梱包を解きますからね~。
例の樽を一番に荷台から降ろし、かぱっとフタを外す。すると……。
なぜか、男の子は樽の中で器用に頭をかかえ、ぷしゅーっと空気が抜けたように縮こまって茹で上がっていた。
塩ふって水切りした野菜みたい。
即座にお母さんが樽に腕を突っ込んで、男の子を引っ張り出す。
「大丈夫!?どうしたの!?」
「……。」
「車に酔った?気分悪いの?」
あ、やっと顔が見えた。なんだ、顔色は悪くないな。
ええと。これは……はにかんでいる?
何だろう。どこか、上の空だけれども。
男の子は小さく咳ばらいすると、静かな、遠い声で話し出した。
「なんでもないよ。母さん、久しぶり。」
じーっと顔を見つめあう親子。うむ、感動の再会だ。
邪魔しちゃいけないな~。
ちょっとくらい挙動不審でも。
私はさりげなく側を離れて荷降ろしを始めた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
白花の咲く頃に
夕立
ファンタジー
命を狙われ、七歳で国を出奔した《シレジア》の王子ゼフィール。通りすがりの商隊に拾われ、平民の子として育てられた彼だが、成長するにしたがって一つの願いに駆られるようになった。
《シレジア》に帰りたい、と。
一七になった彼は帰郷を決意し商隊に別れを告げた。そして、《シレジア》へ入国しようと関所を訪れたのだが、入国を断られてしまう。
これは、そんな彼の旅と成長の物語。
※小説になろうでも公開しています(完結済)。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。
悪役令嬢に転生出来なかったので、フォローに回ります。
haru
ファンタジー
夢にまで見た異世界転生!
スマホもコンビニも、テレビも冷暖房もないけど、
この転生を求めてたのよ!
ストーリー通りに逆ハーレムで素敵な日常を過ごしちゃう?
悪役令嬢になって、ストーリーを変えちゃう?
それとも何か特殊な能力を持っちゃう?
……って夢を見てたんだけどね。
現実は転生したとて、モブはモブでした。
モブは何をしても世界は変わらない。
はずだった、はずだと思ってた。
だって、ここは、物語のなかでしょ?
なのに何で……何が起こってるの。
※ふんわりサスペンス要素が含まれる為、R15指定に変更いたしました。
至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜
nagamiyuuichi
ファンタジー
人智を超えた力を持つ転生者が暴虐の限りを尽くす世界。
増大する転生者への脅威はとうとう国を一つ滅ぼすほどになり、対抗する手段を探るべく、エステリーゼ王国騎士団の召喚師であるサクヤはある日、突如異世界より現れた遺跡の調査を命じられる。
安全地帯での遺跡調査。転生者の強さの謎に後一歩で迫るかと思われたそんな時。
突如起動した遺跡により転生者が召喚され、サクヤたちは襲撃をされてしまう。
圧倒的な力の前に絶体絶命のサクヤ。 しかし、意識を手放すその瞬間、彼女を一人の騎士が救い出す。
「モブキャラだと思った? 残念‼︎ 主人公でした‼︎」
自らを至高の騎士と名乗るその騎士は、転生者を一撃で粉砕。
その後なぜかサクヤに忠誠を誓い、半ば強引に従者となる。
その後は死人を生き返らせたり、伝説の邪竜を素手で殴り飛ばしたり、台所で料理感覚でエリクサー作ったりと何をするのも規格外で空気が読めない至高の騎士。
そんな彼を従えるサクヤは、当然転生者と人間との戦いの中心に(主に至高の騎士が原因で)巻き込まれていく。
この騎士こそ、転生者達の世界で最強と語り継がれた〜理想の騎士〜であることなど知る由もなく。
※しばらくは毎日更新予定です
拝啓、無人島でスローライフはじめました
うみ
ファンタジー
病弱な青年ビャクヤは点滴を受けに病院にいたはず……だった。
突然、砂浜に転移した彼は混乱するものの、自分が健康体になっていることが分かる。
ここは絶海の孤島で、小屋と井戸があったが他には三冊の本と竹竿、寝そべるカピバラしかいなかった。
喰うに困らぬ採集と釣りの特性、ささやかな道具が手に入るデイリーガチャ、ちょっとしたものが自作できるクラフトの力を使い島で生活をしていくビャクヤ。
強烈なチートもなく、たった一人であるが、ビャクヤは無人島生活を満喫していた。
そんな折、釣りをしていると貝殻に紐を通した人工物を発見する。
自分だけじゃなく、他にも人間がいるかもしれない!
と喜んだ彼だったが、貝殻は人魚のブラジャーだった。
地味ながらも着々と島での生活を整えていくのんびりとした物語。実は島に秘密があり――。
※ざまあ展開、ストレス展開はありません。
※全部で31話と短めで完結いたします。完結まで書けておりますので完結保障です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる