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8 初めての交流
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“中年君”が使い魔その2にたずねる。
「君たちは食人鬼なの?」
使い魔その2は、片手で姫さまを指し示した。
「彼女は食人鬼です。私とこっちは違います。」
こっちと言われて、使い魔その1はさりげなく使い魔その2の側へと移動。求婚者さまたちの視線は姫さまへ……よしよし、良い流れだ。
うちの姫さま、すごく可愛いよねー?
ほら、あのムチムチしたほっぺを見てよ。
そのとき、これまで口数の少なかった“病弱君”が会話に参加してきた。
「食人鬼かあ。お姫さまと同じなんだね。少し質問しても良いかな?」
「どうぞ。」
「食人鬼が食べない人間っているの?」
おう。自分が知りたいことをずばっとぶつける、なんともド直球な質問ぶりである。
これを聞いて、他の皆さまも態度が急変した。真剣になったというか、目がギラギラ光り出して力が入ってきた感じ。
空気がガチで重い。求婚相手の情報収集なんてことをしている割に甘さが無い。いっそ深刻ですらある重さだ。
まあ、彼らの置かれた状況を考えれば、こうなっても仕方がないのだろう。
姫さまはそれを小首を傾げて眺めていた。
急変する周囲を他所に、会話は淡々と続行される。
「……骨まで黒焦げだったり、誰かの食べかけであれば食べないと思います。」
「味付けとかは気にならない?
凄くしょっぱいとか、辛いとか。」
「体の付着物は、洗えば気にならないです。血に混ぜ物をされると困りますけれど。」
「血に混ぜ物か。」
おーい。混ぜ物はするなよ~。
姫さまに効かせようと思ったら、毒も薬も相当きつい物になってしまう。
そんなの、蚊の魔物のお姉さんたちの血液検査をすり抜けるなんてまず無理だ。
検査で引っ掛かればその場で脱落決定。しばらくの牢屋入りは免れないだろう。彼らにとってそれは、食い殺されて死ぬよりマシなのかもしれないが。
似たようなことを懸念したらしく、使い魔その2が補足を入れてくれた。
「あの。求婚者さまたちが姫さまにお会いする場合、事前に血液検査が義務付けられております。滅多な細工はできないと思いますよ。」
そうそう。下手な真似はするんじゃないよ。
“病弱君”は黙ってアイスクリームを舐めていた。
★ ★ ★
皆がアイスクリームを食べ終わった頃。
今度は、姫さまから求婚者さまへの質問が炸裂した。
「あの。皆さまは食べられたくはないのですよね?それなのに何故、ここへいらしたのですか?」
沈黙が場に落ちる。うわー、気まずい。
そりゃ私も気になるけど。また、めちゃくちゃストレートに行きましたね、姫さま。
シンプル過ぎる質問って答え難いのに。
ややあって答えてくれた“細身君”は、口許だけで笑っていた。
「私は、運試しかな。」
「運試し?」
「そう。私は家の後継ぎではないし、財産を作るあてもない。このまま燻るより、自分の運を試してみたいのさ。」
ふ~ん。一発当てたいってやつか。大人しい顔してギャンブルするねー。
賭けているのは自分の命だよ?
自分が死ぬとは思ってないのかね。
“中年君”が静かに笑った。
「皆、似たようなものだろうな。」
残りの3人を見渡す。
“筋肉君”も“ぽちゃぽちゃ君”も“病弱君”も何も言わないが、否定しないところを見ると、まあ同じような心持ちなのだろう。
マジか。世の中、妙な連中がいるもんだ。
私なら、例え一生うだつが上がらなくたってフツーに長生きしたいところだけど。
姫さまは、きょとんとしている。
うん。そんなハングリーな生き物、これまで見たことなかったんだよね。
これは良いものを見れましたね、姫さま。
この調子で行けば、きっと遠からず、世間知らずを返上できますよ~。
★ ★ ★
その後も、姫さまの初デートは荒れに荒れた。
“中年君”は使い魔その2に色目を使い始めるし、“病弱君”は途中で倒れるし。
挙げ句、お城から迷い出た牛が1頭、モーモー鳴きながら街を歩くのを見て、お腹を空かせた姫さまが路地裏へ。
危うくその場で牛を拾い食いするところを、間一髪で私が駆け寄り、お弁当をお渡ししたのだが。
さすがにデートの続行は不可能と判断され、集まりはお開きとなった。
いや~、よくもここまで荒れたもんだ。
さすがの使い魔その2も疲れ果て、階段でべしょっと潰れている。
彼女は今日の功労者なのになー。
ここはお城の裏階段。私は使い魔その2を鼓舞すべく、先程から拙い演説をぶっているところだ。
「胸に手を当てて考えてみよう。
例えば自分が何かの動物のメスであるとして。多くの動物は共食いする。なのに、自分より強いオスに近寄って子どもつくるの怖くない?
にも関わらず、世の中に子どもは多い。
だから、道は必ずあるはずなんだ。例え、食人鬼が人間のお婿さんを取ろうとしている場合でも。道は、まあ、あるはずなんだ……。」
いつもなら、私の話が迷走する頃合いで、使い魔その1が待ったをかけてくれるのだが。
残念ながら、本日は彼女も潰れていて。
風吹きすさぶ裏階段には、私の与太話が延々と響き続けたのであった。
「君たちは食人鬼なの?」
使い魔その2は、片手で姫さまを指し示した。
「彼女は食人鬼です。私とこっちは違います。」
こっちと言われて、使い魔その1はさりげなく使い魔その2の側へと移動。求婚者さまたちの視線は姫さまへ……よしよし、良い流れだ。
うちの姫さま、すごく可愛いよねー?
ほら、あのムチムチしたほっぺを見てよ。
そのとき、これまで口数の少なかった“病弱君”が会話に参加してきた。
「食人鬼かあ。お姫さまと同じなんだね。少し質問しても良いかな?」
「どうぞ。」
「食人鬼が食べない人間っているの?」
おう。自分が知りたいことをずばっとぶつける、なんともド直球な質問ぶりである。
これを聞いて、他の皆さまも態度が急変した。真剣になったというか、目がギラギラ光り出して力が入ってきた感じ。
空気がガチで重い。求婚相手の情報収集なんてことをしている割に甘さが無い。いっそ深刻ですらある重さだ。
まあ、彼らの置かれた状況を考えれば、こうなっても仕方がないのだろう。
姫さまはそれを小首を傾げて眺めていた。
急変する周囲を他所に、会話は淡々と続行される。
「……骨まで黒焦げだったり、誰かの食べかけであれば食べないと思います。」
「味付けとかは気にならない?
凄くしょっぱいとか、辛いとか。」
「体の付着物は、洗えば気にならないです。血に混ぜ物をされると困りますけれど。」
「血に混ぜ物か。」
おーい。混ぜ物はするなよ~。
姫さまに効かせようと思ったら、毒も薬も相当きつい物になってしまう。
そんなの、蚊の魔物のお姉さんたちの血液検査をすり抜けるなんてまず無理だ。
検査で引っ掛かればその場で脱落決定。しばらくの牢屋入りは免れないだろう。彼らにとってそれは、食い殺されて死ぬよりマシなのかもしれないが。
似たようなことを懸念したらしく、使い魔その2が補足を入れてくれた。
「あの。求婚者さまたちが姫さまにお会いする場合、事前に血液検査が義務付けられております。滅多な細工はできないと思いますよ。」
そうそう。下手な真似はするんじゃないよ。
“病弱君”は黙ってアイスクリームを舐めていた。
★ ★ ★
皆がアイスクリームを食べ終わった頃。
今度は、姫さまから求婚者さまへの質問が炸裂した。
「あの。皆さまは食べられたくはないのですよね?それなのに何故、ここへいらしたのですか?」
沈黙が場に落ちる。うわー、気まずい。
そりゃ私も気になるけど。また、めちゃくちゃストレートに行きましたね、姫さま。
シンプル過ぎる質問って答え難いのに。
ややあって答えてくれた“細身君”は、口許だけで笑っていた。
「私は、運試しかな。」
「運試し?」
「そう。私は家の後継ぎではないし、財産を作るあてもない。このまま燻るより、自分の運を試してみたいのさ。」
ふ~ん。一発当てたいってやつか。大人しい顔してギャンブルするねー。
賭けているのは自分の命だよ?
自分が死ぬとは思ってないのかね。
“中年君”が静かに笑った。
「皆、似たようなものだろうな。」
残りの3人を見渡す。
“筋肉君”も“ぽちゃぽちゃ君”も“病弱君”も何も言わないが、否定しないところを見ると、まあ同じような心持ちなのだろう。
マジか。世の中、妙な連中がいるもんだ。
私なら、例え一生うだつが上がらなくたってフツーに長生きしたいところだけど。
姫さまは、きょとんとしている。
うん。そんなハングリーな生き物、これまで見たことなかったんだよね。
これは良いものを見れましたね、姫さま。
この調子で行けば、きっと遠からず、世間知らずを返上できますよ~。
★ ★ ★
その後も、姫さまの初デートは荒れに荒れた。
“中年君”は使い魔その2に色目を使い始めるし、“病弱君”は途中で倒れるし。
挙げ句、お城から迷い出た牛が1頭、モーモー鳴きながら街を歩くのを見て、お腹を空かせた姫さまが路地裏へ。
危うくその場で牛を拾い食いするところを、間一髪で私が駆け寄り、お弁当をお渡ししたのだが。
さすがにデートの続行は不可能と判断され、集まりはお開きとなった。
いや~、よくもここまで荒れたもんだ。
さすがの使い魔その2も疲れ果て、階段でべしょっと潰れている。
彼女は今日の功労者なのになー。
ここはお城の裏階段。私は使い魔その2を鼓舞すべく、先程から拙い演説をぶっているところだ。
「胸に手を当てて考えてみよう。
例えば自分が何かの動物のメスであるとして。多くの動物は共食いする。なのに、自分より強いオスに近寄って子どもつくるの怖くない?
にも関わらず、世の中に子どもは多い。
だから、道は必ずあるはずなんだ。例え、食人鬼が人間のお婿さんを取ろうとしている場合でも。道は、まあ、あるはずなんだ……。」
いつもなら、私の話が迷走する頃合いで、使い魔その1が待ったをかけてくれるのだが。
残念ながら、本日は彼女も潰れていて。
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