とある田舎の恋物語

やらぎはら響

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「隣、いい?」

 蛍がふわふわと舞う水辺を大きな岩に座ってぼんやり見ていた知臣に、日向は後ろから声をかけた。
 あれから、小さな合唱会で笑っていたけれど、優を寝かしつけたあとに知臣は仕事をすると言って姿を見せないでいた。
 本当に仕事をしているのだろうかと仕事部屋の前まで行けば、部屋の電気は消えていて人の気配は無く。
 どこに行ったのだろうと心配に思ったときに、この川辺のことを思い出した。
 一人になりたいのだろうから邪魔をするのもどうかと思ったが、いつまでたっても戻ってこないので結局心配で様子を見に来てしまった。
 振り返った知臣が無言で隣をポンと叩いたので、そこに腰を下ろす。
 すると、右肩に少しの重さがかかり、色素の薄い髪が首筋をくすぐった。
 日向の肩に頭を乗せた知臣の髪をゆっくり梳いてやる。

「なにか歌ってくれるか?」

 そんなことを言われたのは初めてで、日向は静かに歌い始めた。
 ちらりと視線を向けると、知臣は目を閉じて静かに聞き入っている。
 五分も歌った頃。

「日向君の歌は、なによりも気がまぎれる」
「今日は大変だったね」

 頭を肩に預けている知臣が、日向の右手に手を重ねてぎゅっと握りしめた。

「うん、さすがに理恵に言われた言葉は堪えた。実際、両親が亡くなる前より余裕のある生活してるからさ」
「あんな奴の言うこと気にしなくていいよ」

 握っている手に左手を重ねて、ぎゅっと力を込めてやる。
 大丈夫というように。

「別に贅沢してるわけじゃないし、一人で三人を育ててるんだ。あんな奴の言うことを気にすることも、それこそおばあさんたちに引け目も感じなくていいよ」

 きっぱりと言い切ってやれば、くすりと知臣の方から吐息が聞こえた。

「まさか、理恵を引っぱたくなんて思わなかった」
「だってムカつくじゃないか。あんな小さい子を怖い目に会わせて、知臣さん傷つけて謝りもしないで。女だからちゃんと手加減したよ」

 ふっとまた吐息で笑うと、頭を上げた知臣が顔を近づけて。

「ありがとう」

囁いて、そっと唇を寄せた。
 何度かちゅっちゅっと唇を重ねて、お互いの柔らかさを感じあうと、知臣が上唇を優しく吸って離れた。

「さ、もう帰って寝な」
「知臣さんは?」

 はふりと頬を赤らめたまま聞くと、返ってきたのは苦笑だった。

「ちょっと今夜は眠れそうにないからさ」
「だったら俺もここにいる」

 きっぱりと言い切れば、少し困ったように知臣の眉が下がった。

「今日は駄目だ」
「どうして?こんな状態の知臣さん一人にしたくない」
「今日は傍にいたら、ひどく甘えたくなるから」
「それなら余計、一緒にいる」

 言うなり、日向はぎゅうと知臣を抱きしめた。
 少し高い体温が一瞬震えるけれど、抱きしめ返してはこない。
だから、よけい腕に力を込めればおずおずと抱きしめ返された。
 いつもしてもらったように、その色素の薄い髪を撫でる。
 しばらくそうしていたけれど、背中をぽんと小さく叩かれて日向は手を緩めた。
 知臣も手を離し日向の顔を見返す。

「やっぱり帰れ」

 拒絶の言葉に、日向は泣きそうになった。
 自分では知臣がしてくれたように力にはなれないのかと。
 けれど、苦笑した知臣は困ったように眉を下げてはいたけれど、拒絶の色は見えなかった。

「……好きな奴抱きしめて何もしないでいられるほど、お綺麗な男じゃないんだ」

 その言葉の意味に、カアッと日向は顔を赤くした。
 だけど、嫌だとか困るとかは一ミリも思わなくて、むしろ出来るのならばもっと近づきたいとすら思った。
 日向は知臣の頬を両手で挟むと、小さくその唇にキスをした。

「日向く」
「甘えるだけ甘えればいい」

 皆まで言わせず、ハッキリと言い放つ。
 知臣が目を驚いた表情をするのを、してやったりとさえ思った。
 しばらくじっと見てくる眼差しは、日向に怯えがないことを確かめているようだ。
 そんなもの、欠片もないのに。

「……いいのか?流されて後悔するぞ」
「そんな生半可な気持ちで言ってない。知臣さんこそ、俺をお綺麗な男と思わないでよ」

 もう一度、唇を啄む。
 それを合図に、知臣の舌先が唇をなぞった。
 躊躇なく口を開けると、ぬるりと舌が入り込んでくる。
 くち、と濡れた音を響かせながら、蛍の舞うなかで二人はしばらく唇を重ねた。
 ようやく知臣の唇が日向の下唇を柔く食んで離れていく。

「……帰るか」

 その言葉にこくりと頷き、二人で手を繋いで足早に帰路へとついた。
 道中は、胸がドキドキしすぎて何も会話がない沈黙で、それがこれから起こることを意識してしまい日向の顔を赤くさせる。
 ノウゼンカズラの花が風に揺れるなか、裏庭の縁側に乗り上げた頃にはキスを再開されて頭が沸騰しそうだった。
 もどかし気に仕事部屋に入ると、両肩を掴み、ゆっくりと畳の上に押し倒された。
 覆いかぶさられ、キスをする。
 両耳に指先を入れてくすぐられると、くちゅくちゅとした舌の混じりあう音が脳内に響いてひどく恥ずかしい。
 こくりと送り込まれる唾液を飲むと、知臣の手がシャツのボタンを外し始めた。

「ま、まって」
「ん?」
「俺、体の方もでかい傷跡あって、いや見られたことあるけど、だから、脱がせない方が……」

 視線をさまよわせながら早口で言いつのると、知臣は日向の前髪をかきあげて傷跡に何度もキスを降らせた。

「傷跡全部にキスしたい。全部含めて好きだ」

 涙が滲みそうだと思った。

「でも本当に嫌なら見ねーよ」

 知臣がシャツのボタンから手を離したが、日向は震える手で自らのシャツのボタンを全部外した。
 そこには日に焼けていない白い肌と、引き攣れた違う色の皮膚がある。

「ほんとに、きもちわるくない?」

 不安そうに聞く日向に、知臣はちゅっと一番大きく引き攣れている場所に唇を落とした。

「気持ち悪いなんてあるわけねえ」

 きっぱりとした物言いに、滲んだ涙を頬に流して日向はふにゃりと笑った。

「よかった」

 何度も傷跡にキスが降ってくる。
 そのたびに日向は体を震わせた。
 そして、舌で体の表面を舐められるたびに、あられもない声が出るのが恥ずかしい。

「ふっ……あ、あ」

 温かい手のひらがはだけたシャツのあいだから体の形を確かめるように撫でていく。
 卑猥なことをしてるはずなのに、それがひどく安心した。
 傷跡から舌を這わせ、左乳首を唇に食まれると、ことさらびくりと体が揺れた。
 愛撫を受けるたびに体温が上昇して、傷跡の部分がうっすらと赤味を帯びていく。
執拗に左胸を舐められ、右胸を指先でこねられる。
それがジンジンとして、日向は口元に手の甲を当て必死に声を押し殺した。

「んん、あ、も、なめちゃやあ」
「そう?好きそうだけどな」

 笑いながら、ふうっと息をそのしこりに吹きかけられれば、唾液で濡れそぼったそこは敏感に快感を拾った。
 びくりびくりと腰が跳ねるのを楽しそうに撫でながら、ハーフパンツのウエストから右手が差し入れられる。
 下着越しにペニスを撫でられて、びくりと日向は背をそらせた。

「ん、や、あ、あ」

 そのままやわやわと揉まれてしまえば、自然とそこは固くなって腰が揺れだした。

「やだ、出るっ出るから」

 ぬがせて。
 吐息交じりの声に、知臣は唇を舐めるとそのまま下着ごと日向の足からハーフパンツを引き抜いた。
 ぷるんとすでにしっかり立ち上がったペニスが飛び出したことに、日向の顔が羞恥で赤くなる。
 けれど知臣は可愛いと囁いて。

「ひあん」

 その小さな臍に舌をねじ込み、右手では下生えを撫ぜて肝心なところへの愛撫をしてくれない。
 もう少しでいけるのにと、自分で手を伸ばそうとすれば、すぐにその手を掴まれてしまった。

「知臣さんいじわるだ」

 涙目で睨みつけると。

「そんなことねーよ」

 言うなり日向のペニスをじゅるりと口に咥えた。

「はっああ、あっ」

 太ももを抱えられて足を開かされた状態は恥ずかしくて、声を出さないように両手で必死に口を押さえた。

「あっや、はなして、はなして」
「ひもひいい?」
「しゃべんない、で」

 もごもごと唇を動かされて腰を震わせる。
尿道をぐりりと舌先でえぐられ、日向は声
も出せずに吐精した。
 はあはあと荒い息を吐いていると、顔を上げた知臣の口がごくりと喉を動かす。

「知臣さん飲んじゃったの?」
「うん、飲んだ」

 いつもの明るい笑顔なのに言っている事は淫猥だ。
 くたりと力のなくなったペニスをゆるく撫でて、先走りがしたたり落ちて濡れそぼっていた後孔との間をつつっと指先で撫でられる。
びくりと太ももの内側が引きつった。
 すりすりとそこを指先ですられると、じれったい熱がまた腰に溜まっていく。
 そのまま指先が日向の更に最奥へと届いてゆっくり指が挿入された。

「んんっ」

 知臣の指が自分の中に入ってくる違和感と羞恥とがないまぜになって、生理的な涙が滲む。

「指、増やすぞ」

 ゆっくりと、くちゃくちゃと卑猥な音を立てながら指が日向のなかをかき混ぜていく。
 ふいに知臣に口づけられた瞬間、指がある一点に触れてびりびりとした快感が背筋を駆け抜けた。

「んーっ」

 悲鳴のような嬌声は、すべて知臣の唇に吸い込まれた。

「ん、んん、ふ」

 何度も角度を変えて唇を塞がれる。
 声が響かないようにしてくれるのはありがたいが、口からの快感と下からの快感にどうにかなってしまいそうだ。
 指が引き抜かれて、ほっと吐息を漏らすと知臣が体を離して自分のハーフパンツを下着ごとずらした。
 ぶるんとすでに立ち上がっているペニスからは先走りが流れている。

「日向君、いい?」

 はあ、と熱い息を吐いて自分の屹立を二、三度しごく知臣に、日向はちゅっと首を伸ばして触れるだけのキスをした。

「きて」

 頬を赤く染めながらも、小さく囁いた。
ぶちゅりと後孔にペニスがキスすると、期待するようにひくひくと動く。

「ん、あ、あ」

 腰をゆっくり推し進められると、日向の眉がせつなく寄った。
 ギッチリと奥まで挿入されると、圧迫感が苦しい。
 でもそれ以上に熱い知臣の熱に、満たされるものがあった。
 ゆっくりと腰を引かれると、ずるると微肉の引っ張られる感触。
 それに息を吐くと、ばちゅんと腰を叩きつけられて。

「ひあっ」

 思わず甲高い声が漏れた。

「あっやめ、こえ、でちゃう」

 両手で咄嗟に口元を押さえるけれど、腰を容赦なく打ち付けられて、足の指がきゅうと丸まる。

「ん、悪い、キスするから手どけて」
「んんっ」

 少し上ずった声に促されて震えている手をどければ、呼吸ごと奪われるようなキスをされる。
 必死で舌を絡ませると、いつのまにか立ち上がっていた日向のペニスが知臣の体に擦りつけられ再び精を放った。

「ふ、は」

いった瞬間にぎゅうと内部を締め付け、叩きつけられた熱い飛沫に、知臣も吐精したことがわかった。
意識が引っ張られるように飛ぶなか、左目に降ってくる唇に日向は小さく笑みを浮かべていた。
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