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最後に用事があると言われて連れて行かれた店は、文具屋だった。
 落ち着いたチャコールグレイの店内に、客が富裕層であると一目でわかる。
 お菓子屋などの雰囲気とまったく違う店内に、リッカはおどおどと店員に促されて奥のソファーへとセルフィルトと並んで腰かけた。
 すると、店員がビロードの布張りをされたトレーを持ってくると、向かいのソファーへと腰かける。
 テーブルに置かれたそれを覗き込むと、艶々と高級感のある輝きを放つ万年筆が四本並べられていた。

「き、きれ、い」
「どの色が一番綺麗だ?」

 万年筆に見入っていると、セルフィルトに尋ねられた。
 質問に答えるべく、じっと四本の万年筆に視線を落とす。
 そしてリッカがそっと指差したのは、右から三番目に並んでいた藍色の光沢を放つ万年筆だった。

「それが一番?」

 聞かれてこくりと頷く。

「だ、だんな、さま、の、目みたい」

 ぽしょぽしょと小さく言うと、セルフィルトがキョトンと目を丸くしていた。
 ビー玉のような藍色の瞳が、照明の光を反射してチカリと輝く。

「俺の目に似てるから、綺麗なわけ?」

 どこか呆然としたような声に、リッカはこくこくと頷いた。
 藍色の万年筆は、リッカにとって真っ先にセルフィルトの瞳を連想させたのだ。
 けれど何か間違ってしまっただろうかと、おそるおそる隣のセルフィルトを見上げると。

「ふうん」

 その瞳を弓なりにしならせて、口元に柔らかい笑みを浮かべていた。
 どうやら機嫌を損ねたわけではないらしく、リッカはほっと息をつく。

「じゃあこれを」
「えぇ!」

 藍色の万年筆を指差して言ったセルフィルトに、思わずリッカは大声を上げた。
 まさかと思うが、それはリッカの物なのだろうかとサッと青くなる。

「これが一番なんだろ?」

 くすりと笑って悪戯が成功したような顔をしたセルフィルトだ。

「だ、だんな、さま、の?」

 おそるおそる尋ねると。

「まさか、リッカのだよ」

 ぴゃっと肩が跳ねた。

「も、もらえ、ない!だって、きょ、きょう、いっぱい」

 買ってもらったからと続けようとしたら、ふかりと帽子越しの頭に手を乗せられた。

「これはリッカが早く字を覚えられるようにっていう、まあお守りだ」
「で、でも」
「大事に使ってくれたらそれでいいからさ」

 よろしくと店員に包むように指示を出し、セルフィルトがポンポンと頭を軽く叩いた。
 すぐに白い包み紙で包まれた万年筆の入った箱がセルフィルトに渡される。

「ほら」

 それをひょいと差し出されて、リッカはセルフィルトの顔と箱を何度も見やったあと、おずおずと両手でそれを受け取った。

「あり、ありが、とう」
「どういたしまして」

 精一杯のお礼を口にするとセルフィルトはおかしそうに笑って、さて帰るかと立ち上がった。
 外は、すっかり夕日が広がっていた。
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