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「殿下、お待たせしました」
朝食時ぶりの声に、おやと顔を上げた。
「ああ、フォクライースト侯爵か。ちょうどよかった」
声の方へ振り返ったシュークリットの先には、ヘルヴィルの父親であるグレン・フォクライーストが姉のルードレットを伴って立っていた。
ルードレットは朝食のあとにわざわざ着替えたらしく朝とは違うドレスを着ているし、ヘルヴィルと同じ赤い髪も複雑に編まれている。
髪につけた宝石の飾りがシャラリと揺れる。
(あたまとかどれすが、おもそう)
生前でも女の子はオシャレが大変だしお金がかかるとバイト仲間の女子高生が愚痴っていたのを思い出す。
彼女はオタクの推し活というものとオシャレと、ついでに恋にも全力投球している非常にバイタリティー溢れる女の子だった。
正直生活のなかでバイト中によく喋る女の子の相手は、楽しい時間の上位にランクインしていたといっても過言ではない。
(びうも、たのしいせいかつおくるんだ)
うむと内心、決意表明。
お金に困っていないし、仲はまだいまいちだけれど家族がいるので正直それだけでニッコニコだ。
欲を言えば友達も欲しい。
(ゆめがひろがる)
とりあえず父と姉がここに来たということは、朝食のときに来るお客とはシュークリットのことで間違いないらしい。
部屋に帰った方がいいよなと思いつつ、どうせなら家族に挨拶をとヘルヴィルは影になっていたシュークリットの背中からぴょこりと顔を出した。
途端に、グレンとルードレットの顔がこわばった。
「これは!ヘルヴィル何故ここに!?」
あきらかに動揺している。
グレンは後ろに控えていた執事に勢いよく目線を向けたが、当の執事も困惑したように首を横に振った。
「おしゃんぽしてた」
のんびりと答えると、ますます信じられないものを見るように眉を寄せられた。
わかるよ、ヘルヴィル生粋の超引きこもりだもんね。
うんうんと内心で頷く。
部屋から出ないどころかソファーからも動かない息子が庭に出ているんだから驚くだろう。
仕方ないね!と内心慰めておく。
新しいヘルヴィルはどちらかというと好奇心旺盛な方じゃないかと思うから、すぐ慣れるよ。
大丈夫!
一方的にうんうんと訳知り顔に、困惑する今生の家族を見上げた。
その視線に気づいたルードレットが一瞬きゅっと口を引き結ぶ。
やけに赤さの目立つ唇だ。
頬も記憶にある限りいつも赤味を帯びていた気がするから、血色がとてもいい体質なのかもしれない。
健康的でいいことだと思っていると、ルードレットがグレンの横から一歩進み出るとドレス
をつまんでお辞儀をした。
「初めまして、フォクライースト侯爵家長女のルードレットと申します。お会いできて光栄ですシュークリット殿下」
品のよい挨拶に、子供なのに凄いなあとヘルヴィルは関心した。
そして、自分もあれが出来るようにならなきゃなのかなと、ちょっと不安に思う。
「やあ、初めましてルードレット嬢」
シュークリットがにこりと笑って声をかけたので、ルードレットはゆっくりと頭を上げた。
グレンがチラリと執事を見ると、執事が傍で不安そうにしているメイド二人に目くばせする。
それに頷き、メイド達がヘルヴィルの方へ一歩踏み出した。
部屋に帰れということかな?と思ったヘルヴィルは一人で帰れると口を開こうとした。
けれどシュークリットが口を開いた方が早かった。
「せっかくルードレット嬢に時間を取ってもらったのにすまないが、友人はヘルヴィルにすることに決めたよ」
「「「え!?」」」
グレンとルードレット、それにたれ目少年の驚きに満ちた声が重なった。
シュークリットは気にせず、にこにことしたままだ。
ヘルヴィルはいまいちよくわからず、ぽけっとその様子を見上げていた。
「お、お待ちください!ヘルヴィルはまだ分別もついていません!人前に出す年齢ではありません!」
「そうですわ!殿下とは年も離れていて、話も合いません!交流は無理ですわ!」
グレンとルードレットがくわっと目を見開いて言い募る。
グレンはいつもの石のような鉄壁の無表情が嘘のように、焦りを滲ませていた。
ルードレットも若干興奮気味に声を上げている。
そのせいか、もともと赤味の強かった頬がさらに体温が上がって赤くなっていた。
ヘルヴィルはその真っ赤なほっぺが林檎のようで、林檎食べたいかもとぼんやり考えていた。
たれ目少年はあきれたような眼差しをシュークリットに向けている。
そんな眼差しを向けていいのだろうか。
「おもしろいから別にかまわないよ。それともフォクライースト侯爵家の人間とは友人になるのをやめた方がいいかな?私では役不足?」
「ぐっ……」
ふふ、と笑ったシュークリットに、グレンが声を詰まらせた。
ルードレットは唇を震わせてグレンを見上げている。
グレンは逡巡するように一度目を閉じると、小さく息をついた。
「次男ヘルヴィルをご友人として、よろしくお願いします」
重々しく口を開き、深々と頭を下げる。
一体どういうことだろうと困惑していると、シュークリットがその言葉に頷いてからヘルヴィルに視線を向けた。
流し目になった眼差しがやたらと艶を含んでいる。
「では、ヘルヴィルとお茶を」
シュークリットの言葉に執事が頷くと、ベテランらしいメイドが数人現れてテキパキと準備を始めた。
あきらかに若いメイド二人より動きが早くて、思わず目で追ってしまうヘルヴィルだ。
「申し訳ないね、ルードレット嬢」
「いいえ」
ヘルヴィルがメイドを見ているあいだに、ルードレットはグレンの後ろにしずしずと下がった。
「ヘルヴィル」とグレンに名前を呼ばれてメイドから視線を外してそちらを見ると、グレンが眉間に皺を寄せていた。
あんなに皺を寄せてたら跡がつくのでは。
ヘルヴィルは指で伸ばしてあげた方がいいのではないかと思ったけれど、立っているグレンは長身なこともあって絶対に手は届かない。
仕方ないので皺よ伸びろとヘルヴィルはささやかながら、じーっと皺の寄った眉間に念を送っておいた。
「今日からお前は第二王子であるシュークリット殿下のご友人となる。粗相をしないように」
「ごゆーじん」
つまり友達という認識でいいのだろうか。
友達がいたことがないので作り方がわからなかったけれど、これが友情の始まりならとても嬉しいなあとヘルヴィルはシュークリットを見上げた。
「改めてよろしくね。今日から私達は友達だよ」
シュークリットの目が柔らかく細められる。
ヘルヴィルは元気よく頷いた。
「あい!りっと、なかよしする」
「ヘルヴィル!殿下と」
「いい、私が許した。気にしないでくれ」
グレンが勢いよく言いかけた言葉をシュークリットがさえぎった。
何を言いかけたのかとグレンを見上げたけれど、父親本人はヘルヴィルでなくシュークリットの方を見ている。
どこか不満気な眼差しだけれど、シュークリットが変わらずにこにこと笑っているのを見てひとつ息を吐いた。
「……わかりました。ゆっくりおくつろぎください」
頭を下げると、ヘルヴィルを一瞬見やってからルードレットを促して背中を向けてしまった。
「じゃあ、ゆっくりお喋りしようか」
去っていく背中を見ていると、シュークリットが用意をいつのまにか整えられたテーブルを指さす。
なんだかいつのまにか友達ができたけれど、ヘルヴィルはそれに不満は一切ない。
それどころか友達とお喋りなんて初めてだから、ちょっと浮足だっていたりする。
バイト仲間の女子高生はたくさん交流はあったけれど、あれはお喋りではなくオタクトークと推し活トークと恋バナトークの吐き出し口だっただけなのだ。
吐き出さないと死んでしまう。
相槌はいらないから、ただ黙って聞いてくれと言われていた。
ヘルヴィル自身は完全に楽しんでいたけれど、口を開いたことはないので会話は成り立っていない。
友達カテゴリでは絶対にないだろう。
朝食時ぶりの声に、おやと顔を上げた。
「ああ、フォクライースト侯爵か。ちょうどよかった」
声の方へ振り返ったシュークリットの先には、ヘルヴィルの父親であるグレン・フォクライーストが姉のルードレットを伴って立っていた。
ルードレットは朝食のあとにわざわざ着替えたらしく朝とは違うドレスを着ているし、ヘルヴィルと同じ赤い髪も複雑に編まれている。
髪につけた宝石の飾りがシャラリと揺れる。
(あたまとかどれすが、おもそう)
生前でも女の子はオシャレが大変だしお金がかかるとバイト仲間の女子高生が愚痴っていたのを思い出す。
彼女はオタクの推し活というものとオシャレと、ついでに恋にも全力投球している非常にバイタリティー溢れる女の子だった。
正直生活のなかでバイト中によく喋る女の子の相手は、楽しい時間の上位にランクインしていたといっても過言ではない。
(びうも、たのしいせいかつおくるんだ)
うむと内心、決意表明。
お金に困っていないし、仲はまだいまいちだけれど家族がいるので正直それだけでニッコニコだ。
欲を言えば友達も欲しい。
(ゆめがひろがる)
とりあえず父と姉がここに来たということは、朝食のときに来るお客とはシュークリットのことで間違いないらしい。
部屋に帰った方がいいよなと思いつつ、どうせなら家族に挨拶をとヘルヴィルは影になっていたシュークリットの背中からぴょこりと顔を出した。
途端に、グレンとルードレットの顔がこわばった。
「これは!ヘルヴィル何故ここに!?」
あきらかに動揺している。
グレンは後ろに控えていた執事に勢いよく目線を向けたが、当の執事も困惑したように首を横に振った。
「おしゃんぽしてた」
のんびりと答えると、ますます信じられないものを見るように眉を寄せられた。
わかるよ、ヘルヴィル生粋の超引きこもりだもんね。
うんうんと内心で頷く。
部屋から出ないどころかソファーからも動かない息子が庭に出ているんだから驚くだろう。
仕方ないね!と内心慰めておく。
新しいヘルヴィルはどちらかというと好奇心旺盛な方じゃないかと思うから、すぐ慣れるよ。
大丈夫!
一方的にうんうんと訳知り顔に、困惑する今生の家族を見上げた。
その視線に気づいたルードレットが一瞬きゅっと口を引き結ぶ。
やけに赤さの目立つ唇だ。
頬も記憶にある限りいつも赤味を帯びていた気がするから、血色がとてもいい体質なのかもしれない。
健康的でいいことだと思っていると、ルードレットがグレンの横から一歩進み出るとドレス
をつまんでお辞儀をした。
「初めまして、フォクライースト侯爵家長女のルードレットと申します。お会いできて光栄ですシュークリット殿下」
品のよい挨拶に、子供なのに凄いなあとヘルヴィルは関心した。
そして、自分もあれが出来るようにならなきゃなのかなと、ちょっと不安に思う。
「やあ、初めましてルードレット嬢」
シュークリットがにこりと笑って声をかけたので、ルードレットはゆっくりと頭を上げた。
グレンがチラリと執事を見ると、執事が傍で不安そうにしているメイド二人に目くばせする。
それに頷き、メイド達がヘルヴィルの方へ一歩踏み出した。
部屋に帰れということかな?と思ったヘルヴィルは一人で帰れると口を開こうとした。
けれどシュークリットが口を開いた方が早かった。
「せっかくルードレット嬢に時間を取ってもらったのにすまないが、友人はヘルヴィルにすることに決めたよ」
「「「え!?」」」
グレンとルードレット、それにたれ目少年の驚きに満ちた声が重なった。
シュークリットは気にせず、にこにことしたままだ。
ヘルヴィルはいまいちよくわからず、ぽけっとその様子を見上げていた。
「お、お待ちください!ヘルヴィルはまだ分別もついていません!人前に出す年齢ではありません!」
「そうですわ!殿下とは年も離れていて、話も合いません!交流は無理ですわ!」
グレンとルードレットがくわっと目を見開いて言い募る。
グレンはいつもの石のような鉄壁の無表情が嘘のように、焦りを滲ませていた。
ルードレットも若干興奮気味に声を上げている。
そのせいか、もともと赤味の強かった頬がさらに体温が上がって赤くなっていた。
ヘルヴィルはその真っ赤なほっぺが林檎のようで、林檎食べたいかもとぼんやり考えていた。
たれ目少年はあきれたような眼差しをシュークリットに向けている。
そんな眼差しを向けていいのだろうか。
「おもしろいから別にかまわないよ。それともフォクライースト侯爵家の人間とは友人になるのをやめた方がいいかな?私では役不足?」
「ぐっ……」
ふふ、と笑ったシュークリットに、グレンが声を詰まらせた。
ルードレットは唇を震わせてグレンを見上げている。
グレンは逡巡するように一度目を閉じると、小さく息をついた。
「次男ヘルヴィルをご友人として、よろしくお願いします」
重々しく口を開き、深々と頭を下げる。
一体どういうことだろうと困惑していると、シュークリットがその言葉に頷いてからヘルヴィルに視線を向けた。
流し目になった眼差しがやたらと艶を含んでいる。
「では、ヘルヴィルとお茶を」
シュークリットの言葉に執事が頷くと、ベテランらしいメイドが数人現れてテキパキと準備を始めた。
あきらかに若いメイド二人より動きが早くて、思わず目で追ってしまうヘルヴィルだ。
「申し訳ないね、ルードレット嬢」
「いいえ」
ヘルヴィルがメイドを見ているあいだに、ルードレットはグレンの後ろにしずしずと下がった。
「ヘルヴィル」とグレンに名前を呼ばれてメイドから視線を外してそちらを見ると、グレンが眉間に皺を寄せていた。
あんなに皺を寄せてたら跡がつくのでは。
ヘルヴィルは指で伸ばしてあげた方がいいのではないかと思ったけれど、立っているグレンは長身なこともあって絶対に手は届かない。
仕方ないので皺よ伸びろとヘルヴィルはささやかながら、じーっと皺の寄った眉間に念を送っておいた。
「今日からお前は第二王子であるシュークリット殿下のご友人となる。粗相をしないように」
「ごゆーじん」
つまり友達という認識でいいのだろうか。
友達がいたことがないので作り方がわからなかったけれど、これが友情の始まりならとても嬉しいなあとヘルヴィルはシュークリットを見上げた。
「改めてよろしくね。今日から私達は友達だよ」
シュークリットの目が柔らかく細められる。
ヘルヴィルは元気よく頷いた。
「あい!りっと、なかよしする」
「ヘルヴィル!殿下と」
「いい、私が許した。気にしないでくれ」
グレンが勢いよく言いかけた言葉をシュークリットがさえぎった。
何を言いかけたのかとグレンを見上げたけれど、父親本人はヘルヴィルでなくシュークリットの方を見ている。
どこか不満気な眼差しだけれど、シュークリットが変わらずにこにこと笑っているのを見てひとつ息を吐いた。
「……わかりました。ゆっくりおくつろぎください」
頭を下げると、ヘルヴィルを一瞬見やってからルードレットを促して背中を向けてしまった。
「じゃあ、ゆっくりお喋りしようか」
去っていく背中を見ていると、シュークリットが用意をいつのまにか整えられたテーブルを指さす。
なんだかいつのまにか友達ができたけれど、ヘルヴィルはそれに不満は一切ない。
それどころか友達とお喋りなんて初めてだから、ちょっと浮足だっていたりする。
バイト仲間の女子高生はたくさん交流はあったけれど、あれはお喋りではなくオタクトークと推し活トークと恋バナトークの吐き出し口だっただけなのだ。
吐き出さないと死んでしまう。
相槌はいらないから、ただ黙って聞いてくれと言われていた。
ヘルヴィル自身は完全に楽しんでいたけれど、口を開いたことはないので会話は成り立っていない。
友達カテゴリでは絶対にないだろう。
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