ミライの転生

馳 影輝

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第1章 転生

第6話 裁き

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街の中を散策する楽しみに耽っているラフィアはこの国の食に関しても興味を持っていた。
先程買い付けた装飾品を眺めながらセラと共に食事ができる店を探している。

「セラ。
この指輪もネックレスもとても気に入ったわ。
とても良い仕事をする職人がこの国には居るのでしょうね。」

「はい。
竜族の妖魔の中には技巧に優れたスキルを持つ者も多いと聞き及んでおります。」

「良いものが買えたわ。
お姉様に自慢して差し上げようかしら。」
その言葉にセラはドキッとさせられた。
それは何故かと言うと。
「ラフィア様。
申し訳御座いません。
今回の不手際は私の不足の至る所。
どの様な罰でも覚悟致しております。
死をもって償うつもりです。」

「それは困ったわ。
セラが居ないと誰が私の身の回りの世話をしてくれるの?」
背筋がゾワゾワする程の恐怖がセラを襲っていた。

「御意。」
セラはその場から消えて居なくなった。

「尊。」

「我が君。
このにおります。」
可愛らしい容姿の少女の尊(みこと)はラフィアのすぐ後ろで跪いて控えている。

「セラは急用が出来たから尊と食事出来るところを探す事にするわ。」

「御意。」

「尊は、何が食べたい?」

「私は肉が食べたいです。」
ラフィアと尊は何を食べようかとはしゃぎながら歩いている。

その頃セラは、装飾品の店の前に来ていた。
店のドアを開けて中に入る。

「いらっしゃいませ。
先程はありがとうございました。
如何されましたか?」

「店主よ。
私はあの時、ラフィア様に金銭を要求するのか?と聞いたであろう。
その事自体がラフィア様のお心を痛めてしまった。
分かるであろう、店主よ。」
鋭い眼差しが店主に突き刺さる。

「で、ですが、わ、私どもも商売で成り立って居ります。
金銭を要求するのは当然の権利かと。」

「お前は何も分かっていない。
金銭とは族世界の不浄の極み。
それをラフィア様に出させる事が如何なる屈辱であるか。
あのお方は命の君。
全ての妖魔の命に繋がる宿命を背負うお方。
店主よ。
お前が金銭を貰えず生き絶えるとて、それが何だと言うのだ。
ラフィア様の宿命に比べれば、塵にも満たないものであろう。
すまぬ。
あの時、お前が金銭を要求した時、即座に首を刎ねるべきであった。
さすればお前にも要らぬ恐怖を与えずに済んだ。
私の命を持って償う事をラフィア様に願い出たが許されなかった。
よって、其方の命で償え。」
次の瞬間、セラは店主の首を手動で切断した。
店主は鮮血を流して倒れた。
弁明の言葉を発する事なく。

上級妖魔以上の妖魔には拝命特権が与えられている。
特に王族の命令であれば何をしても咎められることはない。

セラは店を出るとスッと消えて居なくなった。

「尊。
ここにしよう。」
ラフィア達は地元の食材を使う料理屋に足を止めた。
店の名前は「ハックルベルの料理屋」
となっている。

「ラフィア様。
戻りました。」
すぐ後ろにセラが現れた。

「あら、セラ。
この店にするわ。」

「はい。
少しお待ちください。
店内を見て参ります。」
セラは立ち上がると店のドアを開けて中に入った。

暫くするとセラは出てきた。

「ラフィア様。
お入りください。」

ドアを開けて閉まらない様にセラは抑えているとラフィアは中に入っていった。

店の中は丸いテーブルとカウンターがあり、数人の客が居たが、ラフィアが入ってくるとその場に跪いた。

「お前たち。
今よりラフィア様がお食事をなさる。
故にここから去れ。」

店内にいた客は全て外に出ていった。

「ラ、ラフィア様。
ご、ご来店ありがとうございます。
何になさいますか?」
ウエイトレスの女は声が震えている。

「そうね。
オススメの肉料理あるかしら?」

「は、はい。
御座います。
ラテス牛のステーキが美味しゅう御座います。」

「そう。
それを2つ持ってきて。」

「畏まりました。」
テーブルにはラフィアだけが座って居たが、何故か2つ注文した。

注文を待つ間ラフィアは指輪がとても気に入った様子で何度も眺めている。

そうしていると、入り口から誰かが入ってきた。

「ラフィア。
外をうろちょろするなよと言ったはずだが?」

「あら、リュート。
どうぞ座って。
あなたの為に料理も注文しておいたから。」

「注文?
頼んでないぞ。」

「まあまあ、硬いこと言わないで。」
入り口からテーブルの方へリュートが歩いてくるとラフィアは手招きして座るように促した。

「ラフィア。
装飾店の店主を処刑したな?」
流石自国の事だけに情報が早い。

「そうね。
あの店主は2つの過ちを犯したわ。
一つはこの私に紛い物を最初に見せた。
もう一つは、この私に穢れた物を差し出せと言った。
だから、罪を償わせたのよ。」

「紛い物を買わされたのか?」

「後でちゃんとした物を持ってきたけどね。
でも、私だと分かっているのに偽物を見せるなんて。
あなたは許せるの?」

「なるほど。
そう言う事か。」
ウエイトレスの女は料理を運んできた。

「お待たせいたしました。」
料理の皿をラフィアの前とリュートの前にそれぞれ置いた。

「さあ、食べましょう。」
ホークとナイフを使ってラフィアは満足気に食べる。
2人は特に会話も無く肉を食べ終えた。

「そうだ。リュートもアクネス様のところに行かない?」

「そうか、アクネス様のところにも行く予定だったな。」

「そうよ。
私はまだ眠りから目覚めたばかりでアクネス様やドュバルバ様とも面識が無かったから、諸国漫遊旅をしようと思ったのよ。」

「俺は目覚めて150年になるが、オズ様もアクネス様にも会った事ない。」

「それならついでに私の父上オズにも会えば良いんじゃない?」

「なるほど。
父上に相談してみるか。」
2人は食事を終えるとそのまま城に戻った。

その夜、ラフィアは部屋で城に所蔵している書物を借りて読んでいた。
書物のタイトルは人間に関する考察と記されている。

「セラ。」

「はい。
ここに控えております。」

「私はこの諸国漫遊旅を終えたら、人間界に行きます。
お前はどうしますか?」

「ラフィア様が行かれるのであれば、私も参ります。」

「所で、あのお坊ちゃんのリュートについてどう思う?」
読んでいた本をパタンと閉じると青く光る眼光をセラに向けた。

「はい。
とても素直な方だと思います。」

「そうよね。
セラ、ちょっとここへ。」
手招きしてラフィアはセラを側に呼び寄せると、耳打ちで何かを話し始めた。
それを聞いたセラは表情ひとつ変える事なく、ラフィアの側から離れると消えて居なくなった。
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