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第三章 ブレイブプリンセス。
第14話 東の地へ。
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東の元帝国領土へはバラン-カランを超えて山道を歩いて行くしかない。
その先には広大な平野が広がっている。
平野には行路として大きな道が整備されていた。
これ以降は馬車が使える。
商業用の行路としては大陸一の長さを誇る。
元帝国の帝都アストロイカは馬車を走らせて3日ほどで到着する。
珠洲音達が街道を進んで穏やかな平原を見渡すと、この国が本当に滅ぼされてしまったのか疑問に思うほど穏やかな場所だと感じていた。
同伴したのはブラト、ロト、シセリの3名と騎士団30人に王都警備隊20人。
今回の遠征にロトとシセリを同伴させたのは珠洲音が若い2人にさらなる成長を期待したからだ。
その想いに応えるべく2人は気合いも入っていた。
「スズネ様。もう直ぐバンシラッドの街に到着いたします。」
隠密スキルを有するシセリは先行して調査に出ていた。
バンシラッドは帝都アストロイカに最も近い街で人が暮らしている事も確認済みだ。
「シセリ。ご苦労様でした。」
「は!勿体ないお言葉。スズネ様の為であれば、この程度の事どうと言うことはありません。」
「頼もしいわね。これからもよろしくね。」
シセリはスズネの事を盲目に信仰している。
命を差し出すことすらも躊躇わないだろう。
「は!」
街に入るためにロトが街の人間と接触を試みている。
「スズネ様。街の領主がお会いになるそうです。」
流石に仕事が早い。
イケメンで若くて仕事が出来るなんて素敵な男だ。
「行きましょう。」
街は一つの自治を獲得していた。
この周辺では新たな自治を自ら立ち上げ自給自足をしている都市が生まれていると調査隊の報告があった。
領主は元々この街の長であった。
街並みは都会とは行かないが、木造の建築物が並んでいる。
商店や酒場、民宿らしい施設。
旅の往来や商業で栄えている事が伺える。
領主の館は街の中心に大きな建物がある。
「これは陛下よくぞお越しくださいました。」
「私はヴァルーレ王国女王スズネ・ヴァルーレです。
遠征を兼ねて、帝都アストロイカに向かう途中なのです。」
「私は領主のタスタと申します。
帝都アストロイカへ行かれるのですね。
ここから馬車で数日かかります。
今日はごゆっくり休んでください。
宿もこちらで準備致します。」
とても丁寧な対応だ。
特に敵対の意思も感じない。
「心遣いありがとうございます。
こちらからは少し提案があります。」
「さて、どの様な提案で有りましょうか?」
「この街をヴァルーレ王国の領土として迎え入れたい。
こちらからは警備のための駐留軍の派遣と我が国との交易を許可します。」
「悪くはない提案ですが、我々の自治は保証されるのでしょうか?」
「自治に関しては、こちらが干渉する気は有りません。
しかし、王国のルールには従ってもらいます。」
毅然とした態度で珠洲音はタスタに発言した。
今回の遠征に関して、貴族連合と官僚達から一つの提案があった。
遠征数日前、王宮の会議室に一同が会した。
マグベルの提案によると。
「遠征に当たり元帝国領の占領も含めては如何でしょうか?」
「占領なの?」
「そうです。あくまでも占領という事でお願いしたいのです。」
「解放とか平定とかもう少し柔らかい表現でも問題無いかと思うけど。」
「解放であるとか、平定とかでは世界に与えるインパクトが弱すぎます。
あくまで占領していく事で、ヴァルーレ王国の国威を世界に示すのです。」
提案はマグベルとバスク、オリバートに貴族連合ロウエンシャール公爵の意向だ。
貴族連合が絡んでくると利権や私欲が背後に見え隠れしそうだが。
「わかりました。
領土拡大という事で遠征すれば良いという事ですね。
現地でのやり方については私に一任して貰いますが、宜しいですか?」
貴族連合ロウエンシャール公爵は腹の底まで読み切れない人物だ。
油断できない所も感じさせる。
「陛下に一任しましょう。
ですが、国益に関する所ですので全てという訳には行きませんよ。」
若い女王という事がロウエンシャール公爵の頭の中にあるのかも知れない。
全て好きにさせる訳にはいかないと言う事が強く出ている。
「……わかりました。
では、公爵のお考えをお聞かせください。」
この国での力関係を赤ら様にロウエンシャール公爵に珠洲音はぶつけられた気分だった。
例え女王であっても我々を無視しては前に進めない事を強要された様に感じている。
「占領した都市に関しては、貴族連合から領主を派遣したいと考えています。」
「そうですか。
私は自治に関しては此方が干渉するつもりは無かったのですが、何故貴族連合から領主が必要ですか?
駐留軍の派遣と交易の自由を与えれば、統治に関しては現在の領主に任せる形で問題ないと思いますが。」
明らかに貴族連合は利益を得る考えであると珠洲音は推測した。
「陛下は甘いですな。
占領なのですから、新たに領主を派遣するのが筋という物ですぞ。」
「甘いですか?
貴族連合から領主をどうしても派遣したいと言うのであれば、女王である私が派遣する者を任命する条件であれば、公爵のお考えに賛同します。
如何ですか?」
「………貴族連合の事は陛下であろうと口出しはご遠慮願いたいですな。
我々にも我々の事情という物があるのてす。」
「なるほど。
新参者の私には任せられないという事ですか?」
2人の睨み合いにより会議室の空気は緊迫したものになっていた。
ロウエンシャール公爵と珠洲音とどちらも譲らない姿勢を崩さない。
「陛下も公爵も論点がズレております。
ここは全員で取り纏めて結論を出すのが宜しいかと。」
状況を見かねてマグベルが割って入り込んできた。
「私はマグベルの言う通り全員の意見で決定する事で問題ありません。
公爵も異論は有りませんね?」
「マグベル殿。
貴族連合は貴族連合で会合を開かせて頂きます。
今日の所は陛下の意向を尊重して頂いて、私はこれにて退室させて頂きます。」
公爵は立ち上がると颯爽と部屋を出て行ってしまった。
何とも後味の悪い結果となった。
この国の貴族連合を絡めた不安要素が明らかになった様にも感じられる。
珠洲音も含めて全員が退室していくロウエンシャール公爵の態度に事の根深さを感じぜざるを得ない。
「陛下。少しやり過ぎたのでは無いですか?」
「そうかしら。
貴族連合は一旦は私の意向を尊重した訳だから。
好きにやらせて貰うわ。」
「陛下!
貴族連合はこの国の運営に尽力している事を忘れてはならないですぞ。」
オリバートが立ち上がり声を荒げた。
「わかっています。
貴族連合を蔑ろにするつもりは毛頭有りません。
ですが、何もかも貴族連合の思い通りに事が運ぶと思われるのは慢心と言う事を伝える必要は有ると思うけど。」
「ロウエンシャール公爵は貴族連合内でも屈指の実力者です。
彼を敵に回しては今後何かと弊害が出ます。
何処かで陛下自身が歩み寄る様にお願いします。」
宮廷執務官長バスクも静かな物言いだが、珠洲音に対して強い口調で進言した。
「わかっています。
公爵との会食を近々設定して下さい。」
「わかりました。」
女王の珠洲音とバスクは最も仕事上近い存在だ。
宮廷執務官長は女王や王族の行事ことや予定を管理する仕事だ。
女王の発言も含めて責任が付いて回る。
そう言う流れがあり、遠征は開始された。
領主が用意してくれた宿屋は街の中でも立派な宿屋の様だ。
部屋も広めで、珠洲音は護衛のシセリと同室で休むことにした。
「シセリ。
楽にしてね。」
「は!
ありがたきお言葉です。
ですが、私は護衛の任もありますので。」
「そうなのね。
まあ、そこはシセリに任せるわ。」
堅苦しい服は脱いでラフな服に珠洲音は着替えた。
女王と言ってもまだ10代の女の子だ。
幼さも隠せない。
「陛下。
私も着替えさせて頂きます。」
「うん。
着替えたらちょっと出掛けたいんだけど。」
「わかりました。
お供します。」
ブラト、ロトも誘って酒場で食事に行く事にした。
2人も装備は外してラフな格好になった。
酒場は宿屋から出て直ぐの場所にある。
奥の席が空いている。
「陛下此方に。」
「ありがとう。」
ロトがいろいろ注文している。
お酒もブラト達は注文していた。
「お待たせしました。
お飲み物お持ちしました。」
店員が人数分の飲み物を運んできた。
「先ずは遠征お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
珠洲音達はグラスを掲げて労を労った。
「陛下。
ロウエンシャール公爵とやり合ったそうじゃ無いですか。」
ブラトはお酒を勢いよく飲み干すした。
「ブラト。
そうなの。」
「俺も貴族連合の奴らは好かん。」
代わりのお酒が届けられ、ブラトはペース早く呑んでいる。
「私は別に嫌いとか無いけど、公爵が私の意向を良しとしないから。」
「陛下がまだお若いので軽んじて居られるのでしょう。」
若いと言うだけで軽んじられるのは気分良くは無いが、ロトが言う事は恐らく正しいと珠洲音も分かっている。
「ロト!陛下に対して無礼だぞ。」
「良いのよ。シセリ。
ロトの言う事は間違えてない。」
それでも珠洲音に尊敬の念を抱いているシセリはロトの事を睨んでいる。
「陛下。申し訳御座いません。
出過ぎた事を申しました。」
深々とロトは頭を下げているが、シセリの視線は相変わらず冷たいままだった。
「シセリもロトも今日はご苦労様でした。
この時間くらいは寛いでよね。」
「勿体ないお言葉。
陛下の心遣いに感激しております。」
「ああ、シセリはもっと肩の力を抜いて良いのよ。」
と言ってもシセリは珠洲音の事を崇拝している。
硬くならない様にと言うのは無理なのかもしれない。
「そうだぞ、シセリ。
陛下が寛げとおしゃっているのだからもっと肩の力を抜いたほうがいいぞ。」
「ん?ロト、あなたに私の事をどうのこうの言われる筋合いはないわ。」
2人は年齢も経験も同じくらいで何かと張り合う傾向にある。
珠洲音としてはこの遠征で2人に心も成長してほしいと連れてきたが、元来難しい事なのかもしれないと感じた。
「陛下。
話を戻しますが、貴族連合は王国の軍隊の6割を有するだけに、軽んじては動きにくくなる。
陛下が有する精鋭部隊は4割。
お互いが対戦する事は無いと思いますが、女王である以上上手くやらなきゃいけない事もあると思いますが。」
かなりお酒が進んでいるブラトだが、話の内容は似非らごとでは無く核心をついている。
「わかってるわよ。
そんな事……。
ロウエンシャール公爵とは帰ったら会席を設ける手筈は打ってあります。」
「なるほど。
それなら良いのです。」
王国騎士団長だけあって国の何たるかは常に考えているのだろう。
「食べましょ。」
美味しそうな料理が運ばれてきた。
疲れもあるし、お腹も空いた。
戦いの中でもこう言う時間が安らぐ時間だ。
「陛下。どうぞお召し上がりください。」
シセリはいち早く珠洲音の為に料理を皿に取り分けて渡した。
「あ、シセリありがとう。」
年齢は珠洲音よりもシセリの方が年上だが、シセリは珠洲音に対して献身的に尽くしている。
「シセリは陛下の事が一番だからな。
あまりやり過ぎて陛下に迷惑をかけるなよ。」
自分の食べたい物を皿に取り分けていたロトがシセリに嫌味のような口調で言い放った。
「何よりも最初に陛下がお召し上がりになるのが当然でしょ。
ロトももう少し陛下に尽くされた方がいいと思うわよ。」
始まった。
珠洲音の事になるとシセリはムキになる。
そんなシセリの様子がロトは少し気に入らないのだろう。
直ぐに喧嘩になる。
「シセリ。ロトもやめなさい。」
2人の様子を見て珠洲音は静かに制した。
「は!申し訳御座いません。」
「………失礼いたしました。」
お互いの態度が気に入らないのかシセリはロトを睨んでいる。
ロトは顔を合わせない様に料理を食べ始めた。
「もう。2人とも仲良くしなさい。
これは命令です。」
「は!陛下の命令とあらば。」
深妙な表情のシセリと納得がいかない表情のロトは対照的な反応だ。
「ハハハ、陛下。この2人は水と油ですぞ。
喧嘩をする程仲も良いと言いますし、それくらいで許してやってください。
2人とも陛下に気を回させるとはなんたる事。
反省しろ。」
「…………。」
「…………。」
2人ともブラトの言葉に反省の表情を見せていた。
翌日領主は珠洲音の提案を受け入れてこの街は王国の管理下に置かれることとなった。
その事を数名の騎士に戻って伝える様に伝言して、珠洲音達遠征部隊は帝都アストロイカに向けて出発した。
その先には広大な平野が広がっている。
平野には行路として大きな道が整備されていた。
これ以降は馬車が使える。
商業用の行路としては大陸一の長さを誇る。
元帝国の帝都アストロイカは馬車を走らせて3日ほどで到着する。
珠洲音達が街道を進んで穏やかな平原を見渡すと、この国が本当に滅ぼされてしまったのか疑問に思うほど穏やかな場所だと感じていた。
同伴したのはブラト、ロト、シセリの3名と騎士団30人に王都警備隊20人。
今回の遠征にロトとシセリを同伴させたのは珠洲音が若い2人にさらなる成長を期待したからだ。
その想いに応えるべく2人は気合いも入っていた。
「スズネ様。もう直ぐバンシラッドの街に到着いたします。」
隠密スキルを有するシセリは先行して調査に出ていた。
バンシラッドは帝都アストロイカに最も近い街で人が暮らしている事も確認済みだ。
「シセリ。ご苦労様でした。」
「は!勿体ないお言葉。スズネ様の為であれば、この程度の事どうと言うことはありません。」
「頼もしいわね。これからもよろしくね。」
シセリはスズネの事を盲目に信仰している。
命を差し出すことすらも躊躇わないだろう。
「は!」
街に入るためにロトが街の人間と接触を試みている。
「スズネ様。街の領主がお会いになるそうです。」
流石に仕事が早い。
イケメンで若くて仕事が出来るなんて素敵な男だ。
「行きましょう。」
街は一つの自治を獲得していた。
この周辺では新たな自治を自ら立ち上げ自給自足をしている都市が生まれていると調査隊の報告があった。
領主は元々この街の長であった。
街並みは都会とは行かないが、木造の建築物が並んでいる。
商店や酒場、民宿らしい施設。
旅の往来や商業で栄えている事が伺える。
領主の館は街の中心に大きな建物がある。
「これは陛下よくぞお越しくださいました。」
「私はヴァルーレ王国女王スズネ・ヴァルーレです。
遠征を兼ねて、帝都アストロイカに向かう途中なのです。」
「私は領主のタスタと申します。
帝都アストロイカへ行かれるのですね。
ここから馬車で数日かかります。
今日はごゆっくり休んでください。
宿もこちらで準備致します。」
とても丁寧な対応だ。
特に敵対の意思も感じない。
「心遣いありがとうございます。
こちらからは少し提案があります。」
「さて、どの様な提案で有りましょうか?」
「この街をヴァルーレ王国の領土として迎え入れたい。
こちらからは警備のための駐留軍の派遣と我が国との交易を許可します。」
「悪くはない提案ですが、我々の自治は保証されるのでしょうか?」
「自治に関しては、こちらが干渉する気は有りません。
しかし、王国のルールには従ってもらいます。」
毅然とした態度で珠洲音はタスタに発言した。
今回の遠征に関して、貴族連合と官僚達から一つの提案があった。
遠征数日前、王宮の会議室に一同が会した。
マグベルの提案によると。
「遠征に当たり元帝国領の占領も含めては如何でしょうか?」
「占領なの?」
「そうです。あくまでも占領という事でお願いしたいのです。」
「解放とか平定とかもう少し柔らかい表現でも問題無いかと思うけど。」
「解放であるとか、平定とかでは世界に与えるインパクトが弱すぎます。
あくまで占領していく事で、ヴァルーレ王国の国威を世界に示すのです。」
提案はマグベルとバスク、オリバートに貴族連合ロウエンシャール公爵の意向だ。
貴族連合が絡んでくると利権や私欲が背後に見え隠れしそうだが。
「わかりました。
領土拡大という事で遠征すれば良いという事ですね。
現地でのやり方については私に一任して貰いますが、宜しいですか?」
貴族連合ロウエンシャール公爵は腹の底まで読み切れない人物だ。
油断できない所も感じさせる。
「陛下に一任しましょう。
ですが、国益に関する所ですので全てという訳には行きませんよ。」
若い女王という事がロウエンシャール公爵の頭の中にあるのかも知れない。
全て好きにさせる訳にはいかないと言う事が強く出ている。
「……わかりました。
では、公爵のお考えをお聞かせください。」
この国での力関係を赤ら様にロウエンシャール公爵に珠洲音はぶつけられた気分だった。
例え女王であっても我々を無視しては前に進めない事を強要された様に感じている。
「占領した都市に関しては、貴族連合から領主を派遣したいと考えています。」
「そうですか。
私は自治に関しては此方が干渉するつもりは無かったのですが、何故貴族連合から領主が必要ですか?
駐留軍の派遣と交易の自由を与えれば、統治に関しては現在の領主に任せる形で問題ないと思いますが。」
明らかに貴族連合は利益を得る考えであると珠洲音は推測した。
「陛下は甘いですな。
占領なのですから、新たに領主を派遣するのが筋という物ですぞ。」
「甘いですか?
貴族連合から領主をどうしても派遣したいと言うのであれば、女王である私が派遣する者を任命する条件であれば、公爵のお考えに賛同します。
如何ですか?」
「………貴族連合の事は陛下であろうと口出しはご遠慮願いたいですな。
我々にも我々の事情という物があるのてす。」
「なるほど。
新参者の私には任せられないという事ですか?」
2人の睨み合いにより会議室の空気は緊迫したものになっていた。
ロウエンシャール公爵と珠洲音とどちらも譲らない姿勢を崩さない。
「陛下も公爵も論点がズレております。
ここは全員で取り纏めて結論を出すのが宜しいかと。」
状況を見かねてマグベルが割って入り込んできた。
「私はマグベルの言う通り全員の意見で決定する事で問題ありません。
公爵も異論は有りませんね?」
「マグベル殿。
貴族連合は貴族連合で会合を開かせて頂きます。
今日の所は陛下の意向を尊重して頂いて、私はこれにて退室させて頂きます。」
公爵は立ち上がると颯爽と部屋を出て行ってしまった。
何とも後味の悪い結果となった。
この国の貴族連合を絡めた不安要素が明らかになった様にも感じられる。
珠洲音も含めて全員が退室していくロウエンシャール公爵の態度に事の根深さを感じぜざるを得ない。
「陛下。少しやり過ぎたのでは無いですか?」
「そうかしら。
貴族連合は一旦は私の意向を尊重した訳だから。
好きにやらせて貰うわ。」
「陛下!
貴族連合はこの国の運営に尽力している事を忘れてはならないですぞ。」
オリバートが立ち上がり声を荒げた。
「わかっています。
貴族連合を蔑ろにするつもりは毛頭有りません。
ですが、何もかも貴族連合の思い通りに事が運ぶと思われるのは慢心と言う事を伝える必要は有ると思うけど。」
「ロウエンシャール公爵は貴族連合内でも屈指の実力者です。
彼を敵に回しては今後何かと弊害が出ます。
何処かで陛下自身が歩み寄る様にお願いします。」
宮廷執務官長バスクも静かな物言いだが、珠洲音に対して強い口調で進言した。
「わかっています。
公爵との会食を近々設定して下さい。」
「わかりました。」
女王の珠洲音とバスクは最も仕事上近い存在だ。
宮廷執務官長は女王や王族の行事ことや予定を管理する仕事だ。
女王の発言も含めて責任が付いて回る。
そう言う流れがあり、遠征は開始された。
領主が用意してくれた宿屋は街の中でも立派な宿屋の様だ。
部屋も広めで、珠洲音は護衛のシセリと同室で休むことにした。
「シセリ。
楽にしてね。」
「は!
ありがたきお言葉です。
ですが、私は護衛の任もありますので。」
「そうなのね。
まあ、そこはシセリに任せるわ。」
堅苦しい服は脱いでラフな服に珠洲音は着替えた。
女王と言ってもまだ10代の女の子だ。
幼さも隠せない。
「陛下。
私も着替えさせて頂きます。」
「うん。
着替えたらちょっと出掛けたいんだけど。」
「わかりました。
お供します。」
ブラト、ロトも誘って酒場で食事に行く事にした。
2人も装備は外してラフな格好になった。
酒場は宿屋から出て直ぐの場所にある。
奥の席が空いている。
「陛下此方に。」
「ありがとう。」
ロトがいろいろ注文している。
お酒もブラト達は注文していた。
「お待たせしました。
お飲み物お持ちしました。」
店員が人数分の飲み物を運んできた。
「先ずは遠征お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
珠洲音達はグラスを掲げて労を労った。
「陛下。
ロウエンシャール公爵とやり合ったそうじゃ無いですか。」
ブラトはお酒を勢いよく飲み干すした。
「ブラト。
そうなの。」
「俺も貴族連合の奴らは好かん。」
代わりのお酒が届けられ、ブラトはペース早く呑んでいる。
「私は別に嫌いとか無いけど、公爵が私の意向を良しとしないから。」
「陛下がまだお若いので軽んじて居られるのでしょう。」
若いと言うだけで軽んじられるのは気分良くは無いが、ロトが言う事は恐らく正しいと珠洲音も分かっている。
「ロト!陛下に対して無礼だぞ。」
「良いのよ。シセリ。
ロトの言う事は間違えてない。」
それでも珠洲音に尊敬の念を抱いているシセリはロトの事を睨んでいる。
「陛下。申し訳御座いません。
出過ぎた事を申しました。」
深々とロトは頭を下げているが、シセリの視線は相変わらず冷たいままだった。
「シセリもロトも今日はご苦労様でした。
この時間くらいは寛いでよね。」
「勿体ないお言葉。
陛下の心遣いに感激しております。」
「ああ、シセリはもっと肩の力を抜いて良いのよ。」
と言ってもシセリは珠洲音の事を崇拝している。
硬くならない様にと言うのは無理なのかもしれない。
「そうだぞ、シセリ。
陛下が寛げとおしゃっているのだからもっと肩の力を抜いたほうがいいぞ。」
「ん?ロト、あなたに私の事をどうのこうの言われる筋合いはないわ。」
2人は年齢も経験も同じくらいで何かと張り合う傾向にある。
珠洲音としてはこの遠征で2人に心も成長してほしいと連れてきたが、元来難しい事なのかもしれないと感じた。
「陛下。
話を戻しますが、貴族連合は王国の軍隊の6割を有するだけに、軽んじては動きにくくなる。
陛下が有する精鋭部隊は4割。
お互いが対戦する事は無いと思いますが、女王である以上上手くやらなきゃいけない事もあると思いますが。」
かなりお酒が進んでいるブラトだが、話の内容は似非らごとでは無く核心をついている。
「わかってるわよ。
そんな事……。
ロウエンシャール公爵とは帰ったら会席を設ける手筈は打ってあります。」
「なるほど。
それなら良いのです。」
王国騎士団長だけあって国の何たるかは常に考えているのだろう。
「食べましょ。」
美味しそうな料理が運ばれてきた。
疲れもあるし、お腹も空いた。
戦いの中でもこう言う時間が安らぐ時間だ。
「陛下。どうぞお召し上がりください。」
シセリはいち早く珠洲音の為に料理を皿に取り分けて渡した。
「あ、シセリありがとう。」
年齢は珠洲音よりもシセリの方が年上だが、シセリは珠洲音に対して献身的に尽くしている。
「シセリは陛下の事が一番だからな。
あまりやり過ぎて陛下に迷惑をかけるなよ。」
自分の食べたい物を皿に取り分けていたロトがシセリに嫌味のような口調で言い放った。
「何よりも最初に陛下がお召し上がりになるのが当然でしょ。
ロトももう少し陛下に尽くされた方がいいと思うわよ。」
始まった。
珠洲音の事になるとシセリはムキになる。
そんなシセリの様子がロトは少し気に入らないのだろう。
直ぐに喧嘩になる。
「シセリ。ロトもやめなさい。」
2人の様子を見て珠洲音は静かに制した。
「は!申し訳御座いません。」
「………失礼いたしました。」
お互いの態度が気に入らないのかシセリはロトを睨んでいる。
ロトは顔を合わせない様に料理を食べ始めた。
「もう。2人とも仲良くしなさい。
これは命令です。」
「は!陛下の命令とあらば。」
深妙な表情のシセリと納得がいかない表情のロトは対照的な反応だ。
「ハハハ、陛下。この2人は水と油ですぞ。
喧嘩をする程仲も良いと言いますし、それくらいで許してやってください。
2人とも陛下に気を回させるとはなんたる事。
反省しろ。」
「…………。」
「…………。」
2人ともブラトの言葉に反省の表情を見せていた。
翌日領主は珠洲音の提案を受け入れてこの街は王国の管理下に置かれることとなった。
その事を数名の騎士に戻って伝える様に伝言して、珠洲音達遠征部隊は帝都アストロイカに向けて出発した。
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転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
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国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
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