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第三章 ブレイブプリンセス。
第12話 正直、良い人か悪い人かは会ってみないとわからない。
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一枚の報告書には、かつて東方で一大勢力を極めたミストラン帝国の将軍に関する報告書だった。
珠洲音が兼ねてから王都警備も含めて、戦力になる人材を探していた。
諜報部の報告によると、帝国には帝霊三大将軍と言う3人の将軍が存在した。
3人の将軍は帝国の守護者として活躍していたが、魔王の侵攻により帝国と皇帝を守り切る事が出来なかった。
一旦は魔王との戦いで深傷を負って生死を彷徨ったらしいが、現在は回復して廃墟と化した元ミストラン帝国帝都アストロイカで、今も皇帝の血縁者を守る為に暮らしている事がわかった。
3人に関する情報は。
雷帝ルトリア
帝国唯一の女性将軍。
宝剣 雷鳳剣ウタカタノライメイの所有者で神速と強烈ら雷撃を得意としている。
炎帝バギ
宝剣 炎聖剣ホムラノヒジリの所有者。
アマテラス灼怒の宴と言われる剣技は炎属性と聖属性による2属性攻撃を兼ね備えた強力な攻撃。
水帝アルケミス
宝剣 水龍剣トコシエノイズミの所有者。
裁きの浄化は聖属性と水属性をあわれる事で荒れ狂う水と光の聖属性でアンデットに絶対的ダメージを与える。
「サストン。幹部を招集して。」
「わかりました。」
「会ってみたくなったわ。
この3人に。」
報告書を手に持つと、珠洲音は立ち上がる。
幹部招集とは、国益に関する時、国難に対する時、遠征に関する時、魔王に関する時が招集する時と決まっている。
「それで、招集はどの様な内容で?」
「国益よ。」
王宮の謁見の間がある四階の一番奥に幹部だけが入る事を許された招集の間がある。
外部には絶対漏れない様に壁やドアには消音の結界が張られ、部屋全体に外部からの暗視などのスキルが出来ない様に何重にも結界が施されている。
この日に集められたのは、
王国騎士団長ブラト。
王国警備隊隊長シセリ。
国境警備隊隊長バルト。
王国施政官僚長マグベル。
ギルド統括管理官長オリバート。
宮廷執務官長バスク。
王国警察長ロト。
諜報局長オトリアス。
女王直属統括将軍ガルドゥール。
現在の王国を守る錚々たるメンバーが集まった。
テーブルは円形でドーナツ型、中央部には女性秘書官が議事録を作成している。
それぞれ決められた席に着くと、今回の招集についての各々の憶測が考査して、部屋はざわついていた。
「久々の招集だな。」
いろいろな憶測が会話されていたが、その中でも冷静なガルドゥールが張った声で発言をすると今までの雑談が止み静かになった。
「ガルドゥール殿、陛下から何か聞いているのか?」
次に声を挙げたのはブラトだった。
「いや、何も聞いていない。魔王に動きがある様子はない、今身近な国難も有るとは思えん。
今回国益に関する招集と言う事は、何らかの相談でも有るのだろう。」
そうしていると、サストンがドアを開けて入ってきた。
「陛下がいらっしゃいました。」
その瞬間、座っていた全員が立ち上がった。
「おはよう。来てくれてありがとう。」
ドアの向こうから珠洲音が入って来ると笑顔を見せながら自分の席に向かった。
「皆んな座って。」
珠洲音は直ぐには座らず全員の顔を見渡して座る事を促すと椅子に座った。
それに倣う様に全員が椅子に腰掛けた。
「陛下。
話し合う前に少し宜しいでしょうか?
陛下は最近冒険者として各地に赴いておられる様ですが。
これからは少しお控えください。
もうお一人の御身では無いのです。
この国の希望なのですから、もしもの事が有っては一大事。
よろしくお願いいたします。」
珠洲音が座るなりガルドゥールが口を開いた。
この中では最も発言力を持つ幹部だ。
「ガルドゥール。
心配は有難いけど、これも魔王の状況や各地の様子を知るには出向くのが一番わかりやすいの。」
「勿論、立派な事では有ると思いますし、言いたい事もわかります。
陛下で有ればどんな敵にも臆する事は無いでしょう。
ですが、陛下の身を心配する者が多く居ります。
各地の調査は諜報部、国境警備隊、国軍の任務です。
それらを任せるのもまた大事な事です。
それに、陛下が強いが故に油断して何かあるとも限りません。
その事肝に銘じて下さい。」
「わかりました。
これからは少し控える事にします。」
ガルドゥールの言葉は厳しい口調であったが、自分の事を案じている事もあって、神妙に聞き入っていた。
統括将軍とは王国軍の最高司令官に当たる。
国軍は今、4つの大隊に編成されていて、それぞれに将軍を立てるべきなのだろうが、その人材は正直不足していた。
その中でもガルドゥールはこの一年で急成長した1人だ。
珠洲音と2人で数ヶ月鍛錬を積んだ事も、ガルドゥールの急成長に貢献していた。
「それじゃぁ、今回の招集についてなんだけど、今から資料を配るから見て感想を聞かせて。」
中央で議事録を取っていた秘書官が全員に資料を配った。
「帝国の3人の元将軍に関してですか。」
資料を見るなり、オリバートは機嫌そうな顔を見せた。
「そう、私はこの3人を将軍としてこの国に迎えたいと考えています。」
「………。」
珠洲音の発言に直ぐにいい反応を示す者は居なかった。
特に目立った発言も無く、むしろ全員が慎重な判断を下したと言える。
「何故この3人を?」
誰も発言しない中、ブラトが沈黙を破り発言した。
「国軍の3人の将軍席か空いたままになっています。
それを埋められる人材だから。
それについて、オトリアス、調査報告を。」
「わかりました。
今現在、元帝国国民を含めて皇帝の血縁者達は帝都アストロイカで暮らしております。
ですが、帝国の崩壊後、魔物の凶暴化も見られています。
3人の元将軍達が身体を張って人々を守っている様です。
魔王の影響もこの地域には大きく作用している様で、危険地域となっています。」
"なるほど"
ガルドゥールは珠洲音のその心の内が手にとる様にわかる。
「陛下は、3人の将軍だけで無く。帝国国民や皇帝の血縁者達も助けたいとお考えか?」
「そうです。」
神妙な面持ちで珠洲音は答えた。
だが、数人の幹部から騒めきが起こった。
「帝国国民も含めてお救いになりたいですと?
帝国国民は何人くらい居るのですか?」
立ち上がって発言したのは施政官僚長のマグベルだった。
「おおよそ、1000人程かと。」
オトリアスは手持ちの資料を見ながら即答した。
「そんなに大勢を受け入れる余裕は我が国には無いですよ。
それに1000人も危険な地域からどうやって移動すると言うのです。」
血相を変えているのはマグベルだ。
マグベルは王都および国の施設及び条例などの制定管理を一手に任されている
最近何とか食料の確保も安定してきている。
今の段階で大幅に人口を増やす余裕は無いと考えているのだ。
「それでも、私は助けたい。無理だから出来ないと諦めたく無い。」
無理は承知で言っている。
決して自分一人でなし得るものではない。
珠洲音は真っ直ぐな瞳で訴えた。
「陛下。
救いたいと思う心持ちは良いと思います。
ですが、マグベル殿の心配も納得が行く物です。
決して楽では無いと言う事です。」
「分かっています。
私1人で出来るとも思っていない。
皆んなの力を貸して欲しいのです。」
「………。なるほど。
陛下には我らを救ってくれたあの日から、我らは御身について行くと決めた。
ならば、遜った事を言わずとも、我らに命ずれば良いのです。
彼者達を救えと。
陛下の意思はこの国の意思。
皆が力を合わせれば出来ぬことなどない。
そうであろう、マグベル殿。」
「ん~、当たり前だ。
この私を誰だと思っている。
陛下のわがままなど今に始まった事では無いわ。」
「……。ガルドゥール……、マグベル……、ありがとう。」
珠洲音の澄んだ瞳からは涙が溢れていた。
こんなに良い仲間に恵まれたことに感謝しかなかった。
「さて、やると決めた以上、先ずはどうしますか?
我々警備隊としては、軍を派遣されるのでしたら王都の警備も今より警戒度を上げる必要があります。」
剣の腕もさることながらシセリはいつも冷静に判断する。
そういう事も認められて隊長を任されていた。
「シセリの警備隊には……。」
話は進んでいく。
珠洲音が救いたいと思う事に対して皆真剣に議論されている。
どうすれば、1000人の移動が出来るのか?
だが、その前に大きな問題にぶち当たった。
それは、3人の将軍に誰が会うか。
それに関しては珠洲音が発言した。
「私が行きます。」
「陛下が直接?」
珠洲音を最も身近で守る役目のブラトにとって未曾有の危険も考えられる地域への派遣は即答で良いとは言い難かった。
「礼を尽かさないと相手の心は動かないと思うの。」
「なるほど、確かに陛下が直接来たとなれば、相手も無下には出来まい。」
腕組みをして、ガルドゥールは頷いている。
「では、交渉に当たる編成チームを結成しましょう。」
真っ先に声を挙げたのはギルド統括管理官長オリバートだった。
「ギルドとして、冒険者にもクエストという形で協力を要請しましょう。
正直、国の外の状況や道案内は冒険者が優秀ですから。」
「陛下が行くのであれば、俺ガルドゥールとブラト、それにシセリあたりが護衛として行くのが良かろう。」
交渉の為のチーム編成、その間の国の防衛に関する編成。
諸々準備期間に3ヶ月を持つ事になった。
準備が出来次第交渉に出発する。
幹部による話し合いも終わり、珠洲音は自室に戻っていた。
正直、3人には会ってみないと何も分からないし、こちらに好意を持ってくれるかも未知の領域だ。
そんな事を考えながら、報告書を見返していた。
明日は特に予定も無いので、久々に学校に行く事が出来そうである。
勉強に行くと言うよりは、珠洲音の場合皆んなに会いたいのだ。
毎日忙しくしているのだが、この時だけは普通の女の子として過ごすことが出来る。
友人達も対等な立場で何でも話せる。
この日は護衛もつかない自由日だ。
明日を楽しみにしつつ、残りの業務をこなすと、夜は早めに就寝する事にした。
そして、次の日。
王宮の自室で制服に着替えた。
制服を着て出るのは何週間ぶりだろうか。
学校設立にあたり、制服を作るか私服にするか迷ったが、制服の方がいいと言う意見も多く、作る事にした。
因みに制服は珠洲音がデザインした。
以前の修徳高校の制服には似せて居ない。
ブレザータイプの制服だったが、珠洲音はセーラー服が着てみたかったので、アレンジして作った。
珠洲音は赤色が好きなので赤を基調にしたデザインにした。
皆んなからの要望も少し入れつつ、全員が満足できる仕上がりとなった。
学校の場所は王都の真ん中あたりに有る。
歩いて護衛無して街中を歩くなんて、珠洲音は開放的な気分だった。
学校には貴族の子供も通っている。
それ以外にも分け隔てなく学びたい者は入学出来る。
歩いて学校に向かっていると、沢山の制服を着た男女がいるのが、目に入って来た。
その中に、美里と愛花を見つけた。
「お~い!美里~、愛花~!」
走って二人に追いつくと笑顔で迎えられた。
「珠洲音~、久しぶりだね。」
「今日はさ、楽しみだったんだ。皆んなに会えるし。」
3人は仲良く話しながらくっ付いたり笑ったりをしながら学校に向かった。
教室は2階のフロアで転生組は3年1組となっている。
あとは、この世界の貴族も一般市民も同じ教室で学んでいる。
主に国語、数学、生物、社会、魔法と剣術は必須項目となっている。
魔法と剣術に関しては、どちらか選択制で、どちらも学びたい場合も可能である。
それ以外には体育、芸術、音楽がある。
この項目に関しては選択学科でどれかを選ぶ形だ。
途中での変更もできる。
教師は王国から免許を発行している。
厳選な試験を行い相応しいと判断された者が成れる憧れの職業でもあった。
「珠洲音は選択学科何にしてるの?」
「私は音楽よ。」
「美里は?芸術何だけど、珠洲音が音楽なら私も音楽にしようかな~。」
「愛花は?」
「私は珠洲音と同じ音楽よ。
今度、珠洲音とコンビを組んで楽曲を発表するの。」
「え~、良いなぁ~。」
「美里はなんで芸術なの?」
「あ~、実は2組のクルフォード君とお付き合いしてて。
彼が芸術を選んでるから私も合わせてみたの。」
照れながら美里は顔も赤らめている。
「へぇ~、クルフォード君って、確か伯爵家の次男だよね。」
「そうそう、マックス家の次男。」
心の中で珠洲音は知らない間に彼氏のできている美里が羨ましく感じていた。
「愛花も彼氏居るよ。
この前4人でカフェに行ったの。」
「え?そうなの?良いなぁ~。」
素直な発言となった。
珠洲音にはそんな事を考えている余裕はこの一年無かった。
「珠洲音は可愛いからなぁ~、いつでも彼氏くらい作れるよ。」
「ん~、慰めになってない!」
「珠洲音の何処にモチない要素がある?」
愛花と美里は珠洲音をじっと見つめていた。
「可愛い。
声も可愛い。
髪はサラサラで綺麗。
肌も綺麗だし、
スタイル抜群で足が細くて長い。
そして、私たちより胸が大きい!」
指を刺しながら珠洲音の事を確認し出した。
「もう!恥ずかしいからやめてよ!
この感じ誰かにも言われた様な……。」
「でも、胸は大きいよね?」
「美里だって、指が綺麗だし、
声も可愛いじゃん。
目もパッチリで可愛いし、
肌も綺麗。
それに、優しい。」
「ありがとう。珠洲音も優しいじゃん。
愛花も私も、珠洲音もとっても良い子だよね?」
3人はお互いを褒め合っていた。
久々に珠洲音は大笑いした。
こんな贅沢な時間が終わらなければ良いのにっと思うくらいに幸せだった。
「ねぇ?放課後。カフェ行こう。
良いところがあるの。」
「賛成~!」
「いこ行こう。」
3人は大いに話に盛り上がった。
そして、
キンコンカンコン!
この日の授業が始まるチャイムが鳴っると。
教室に桂木が入ってきた。
この世界でも、教師として試験にも合格した。
珠洲音の忖度一切なしで。
「お!永野、久々だな。」
「先生!お久しぶりです。」
「元気そうで、何よりだ。
あまり、無茶はするなよ。」
「はい。」
「先生!珠洲音も来てる事だし、あれ決めちゃおうぜ!」
クラスの男子のムードメーカー的な存在の優斗が手を挙げて発言した。
「あれってなに?」
「そうだな。永野が居ないと決まらないか。
今度、文化祭を開催する事が決まったんだが、クラスでの催し物を決めようと思ってな。
珠洲音が来るのを皆んな待ってたんだ。」
「文化祭~、きた~!」
思わず文化祭というフレーズに喜びを隠せず珠洲音は立ち上がった。
「皆んなありがとう。
文化祭いつなの?」
珠洲音から笑顔が溢れた。
それを見ている全員も笑顔だ。
「2ヶ月後の10月4日だよ。」
後ろの席の美里が珠洲音の背中を突っついて教えてくれた。
「それじゃあ、学級委員頼むぞ。」
「はい。」
学級委員はクラスのリーダー的な存在である治樹とちょっと大人しめであまり目立たない奈瑠美だ。
「それでは、文化祭でどんな事をするか決めたいと思います。意見がある人居ますか?」
治樹が進行役で、奈瑠美は意見を書く役割の様だ。
いろいろな意見が出てくる。
カフェ、メイド喫茶、お化け屋敷、たこ焼き屋、お好み焼き屋、コンサート、ライブ、演劇などなど定番とも言えるものも含めて、多数の意見が出た。
その中でも人気があったのが、ライブとカフェだった。
投票の結果。
カフェのチームとライブのチームに分かれてやる事になった。
珠洲音は音楽を専攻している事もありライブチームに入った。
状況により、お互いのチームを手伝う事も決めて文化祭の出し物は確定したのだ。
「愛花!今回のライブはバンド組むよ。」
2人はお互いに音楽が好きで昔からカラオケも一緒に放課後寄り道している仲良しだ。
「じゃあ、楽器使える人探さないと。」
「大丈夫!ちょっと心当たりがあるから頼んでみるね。」
文化祭まで2ヶ月。
どれくらい準備に参加できるか不安な部分も有るが、珠洲音にとっては数少ない楽しみなイベントだ。
珠洲音が兼ねてから王都警備も含めて、戦力になる人材を探していた。
諜報部の報告によると、帝国には帝霊三大将軍と言う3人の将軍が存在した。
3人の将軍は帝国の守護者として活躍していたが、魔王の侵攻により帝国と皇帝を守り切る事が出来なかった。
一旦は魔王との戦いで深傷を負って生死を彷徨ったらしいが、現在は回復して廃墟と化した元ミストラン帝国帝都アストロイカで、今も皇帝の血縁者を守る為に暮らしている事がわかった。
3人に関する情報は。
雷帝ルトリア
帝国唯一の女性将軍。
宝剣 雷鳳剣ウタカタノライメイの所有者で神速と強烈ら雷撃を得意としている。
炎帝バギ
宝剣 炎聖剣ホムラノヒジリの所有者。
アマテラス灼怒の宴と言われる剣技は炎属性と聖属性による2属性攻撃を兼ね備えた強力な攻撃。
水帝アルケミス
宝剣 水龍剣トコシエノイズミの所有者。
裁きの浄化は聖属性と水属性をあわれる事で荒れ狂う水と光の聖属性でアンデットに絶対的ダメージを与える。
「サストン。幹部を招集して。」
「わかりました。」
「会ってみたくなったわ。
この3人に。」
報告書を手に持つと、珠洲音は立ち上がる。
幹部招集とは、国益に関する時、国難に対する時、遠征に関する時、魔王に関する時が招集する時と決まっている。
「それで、招集はどの様な内容で?」
「国益よ。」
王宮の謁見の間がある四階の一番奥に幹部だけが入る事を許された招集の間がある。
外部には絶対漏れない様に壁やドアには消音の結界が張られ、部屋全体に外部からの暗視などのスキルが出来ない様に何重にも結界が施されている。
この日に集められたのは、
王国騎士団長ブラト。
王国警備隊隊長シセリ。
国境警備隊隊長バルト。
王国施政官僚長マグベル。
ギルド統括管理官長オリバート。
宮廷執務官長バスク。
王国警察長ロト。
諜報局長オトリアス。
女王直属統括将軍ガルドゥール。
現在の王国を守る錚々たるメンバーが集まった。
テーブルは円形でドーナツ型、中央部には女性秘書官が議事録を作成している。
それぞれ決められた席に着くと、今回の招集についての各々の憶測が考査して、部屋はざわついていた。
「久々の招集だな。」
いろいろな憶測が会話されていたが、その中でも冷静なガルドゥールが張った声で発言をすると今までの雑談が止み静かになった。
「ガルドゥール殿、陛下から何か聞いているのか?」
次に声を挙げたのはブラトだった。
「いや、何も聞いていない。魔王に動きがある様子はない、今身近な国難も有るとは思えん。
今回国益に関する招集と言う事は、何らかの相談でも有るのだろう。」
そうしていると、サストンがドアを開けて入ってきた。
「陛下がいらっしゃいました。」
その瞬間、座っていた全員が立ち上がった。
「おはよう。来てくれてありがとう。」
ドアの向こうから珠洲音が入って来ると笑顔を見せながら自分の席に向かった。
「皆んな座って。」
珠洲音は直ぐには座らず全員の顔を見渡して座る事を促すと椅子に座った。
それに倣う様に全員が椅子に腰掛けた。
「陛下。
話し合う前に少し宜しいでしょうか?
陛下は最近冒険者として各地に赴いておられる様ですが。
これからは少しお控えください。
もうお一人の御身では無いのです。
この国の希望なのですから、もしもの事が有っては一大事。
よろしくお願いいたします。」
珠洲音が座るなりガルドゥールが口を開いた。
この中では最も発言力を持つ幹部だ。
「ガルドゥール。
心配は有難いけど、これも魔王の状況や各地の様子を知るには出向くのが一番わかりやすいの。」
「勿論、立派な事では有ると思いますし、言いたい事もわかります。
陛下で有ればどんな敵にも臆する事は無いでしょう。
ですが、陛下の身を心配する者が多く居ります。
各地の調査は諜報部、国境警備隊、国軍の任務です。
それらを任せるのもまた大事な事です。
それに、陛下が強いが故に油断して何かあるとも限りません。
その事肝に銘じて下さい。」
「わかりました。
これからは少し控える事にします。」
ガルドゥールの言葉は厳しい口調であったが、自分の事を案じている事もあって、神妙に聞き入っていた。
統括将軍とは王国軍の最高司令官に当たる。
国軍は今、4つの大隊に編成されていて、それぞれに将軍を立てるべきなのだろうが、その人材は正直不足していた。
その中でもガルドゥールはこの一年で急成長した1人だ。
珠洲音と2人で数ヶ月鍛錬を積んだ事も、ガルドゥールの急成長に貢献していた。
「それじゃぁ、今回の招集についてなんだけど、今から資料を配るから見て感想を聞かせて。」
中央で議事録を取っていた秘書官が全員に資料を配った。
「帝国の3人の元将軍に関してですか。」
資料を見るなり、オリバートは機嫌そうな顔を見せた。
「そう、私はこの3人を将軍としてこの国に迎えたいと考えています。」
「………。」
珠洲音の発言に直ぐにいい反応を示す者は居なかった。
特に目立った発言も無く、むしろ全員が慎重な判断を下したと言える。
「何故この3人を?」
誰も発言しない中、ブラトが沈黙を破り発言した。
「国軍の3人の将軍席か空いたままになっています。
それを埋められる人材だから。
それについて、オトリアス、調査報告を。」
「わかりました。
今現在、元帝国国民を含めて皇帝の血縁者達は帝都アストロイカで暮らしております。
ですが、帝国の崩壊後、魔物の凶暴化も見られています。
3人の元将軍達が身体を張って人々を守っている様です。
魔王の影響もこの地域には大きく作用している様で、危険地域となっています。」
"なるほど"
ガルドゥールは珠洲音のその心の内が手にとる様にわかる。
「陛下は、3人の将軍だけで無く。帝国国民や皇帝の血縁者達も助けたいとお考えか?」
「そうです。」
神妙な面持ちで珠洲音は答えた。
だが、数人の幹部から騒めきが起こった。
「帝国国民も含めてお救いになりたいですと?
帝国国民は何人くらい居るのですか?」
立ち上がって発言したのは施政官僚長のマグベルだった。
「おおよそ、1000人程かと。」
オトリアスは手持ちの資料を見ながら即答した。
「そんなに大勢を受け入れる余裕は我が国には無いですよ。
それに1000人も危険な地域からどうやって移動すると言うのです。」
血相を変えているのはマグベルだ。
マグベルは王都および国の施設及び条例などの制定管理を一手に任されている
最近何とか食料の確保も安定してきている。
今の段階で大幅に人口を増やす余裕は無いと考えているのだ。
「それでも、私は助けたい。無理だから出来ないと諦めたく無い。」
無理は承知で言っている。
決して自分一人でなし得るものではない。
珠洲音は真っ直ぐな瞳で訴えた。
「陛下。
救いたいと思う心持ちは良いと思います。
ですが、マグベル殿の心配も納得が行く物です。
決して楽では無いと言う事です。」
「分かっています。
私1人で出来るとも思っていない。
皆んなの力を貸して欲しいのです。」
「………。なるほど。
陛下には我らを救ってくれたあの日から、我らは御身について行くと決めた。
ならば、遜った事を言わずとも、我らに命ずれば良いのです。
彼者達を救えと。
陛下の意思はこの国の意思。
皆が力を合わせれば出来ぬことなどない。
そうであろう、マグベル殿。」
「ん~、当たり前だ。
この私を誰だと思っている。
陛下のわがままなど今に始まった事では無いわ。」
「……。ガルドゥール……、マグベル……、ありがとう。」
珠洲音の澄んだ瞳からは涙が溢れていた。
こんなに良い仲間に恵まれたことに感謝しかなかった。
「さて、やると決めた以上、先ずはどうしますか?
我々警備隊としては、軍を派遣されるのでしたら王都の警備も今より警戒度を上げる必要があります。」
剣の腕もさることながらシセリはいつも冷静に判断する。
そういう事も認められて隊長を任されていた。
「シセリの警備隊には……。」
話は進んでいく。
珠洲音が救いたいと思う事に対して皆真剣に議論されている。
どうすれば、1000人の移動が出来るのか?
だが、その前に大きな問題にぶち当たった。
それは、3人の将軍に誰が会うか。
それに関しては珠洲音が発言した。
「私が行きます。」
「陛下が直接?」
珠洲音を最も身近で守る役目のブラトにとって未曾有の危険も考えられる地域への派遣は即答で良いとは言い難かった。
「礼を尽かさないと相手の心は動かないと思うの。」
「なるほど、確かに陛下が直接来たとなれば、相手も無下には出来まい。」
腕組みをして、ガルドゥールは頷いている。
「では、交渉に当たる編成チームを結成しましょう。」
真っ先に声を挙げたのはギルド統括管理官長オリバートだった。
「ギルドとして、冒険者にもクエストという形で協力を要請しましょう。
正直、国の外の状況や道案内は冒険者が優秀ですから。」
「陛下が行くのであれば、俺ガルドゥールとブラト、それにシセリあたりが護衛として行くのが良かろう。」
交渉の為のチーム編成、その間の国の防衛に関する編成。
諸々準備期間に3ヶ月を持つ事になった。
準備が出来次第交渉に出発する。
幹部による話し合いも終わり、珠洲音は自室に戻っていた。
正直、3人には会ってみないと何も分からないし、こちらに好意を持ってくれるかも未知の領域だ。
そんな事を考えながら、報告書を見返していた。
明日は特に予定も無いので、久々に学校に行く事が出来そうである。
勉強に行くと言うよりは、珠洲音の場合皆んなに会いたいのだ。
毎日忙しくしているのだが、この時だけは普通の女の子として過ごすことが出来る。
友人達も対等な立場で何でも話せる。
この日は護衛もつかない自由日だ。
明日を楽しみにしつつ、残りの業務をこなすと、夜は早めに就寝する事にした。
そして、次の日。
王宮の自室で制服に着替えた。
制服を着て出るのは何週間ぶりだろうか。
学校設立にあたり、制服を作るか私服にするか迷ったが、制服の方がいいと言う意見も多く、作る事にした。
因みに制服は珠洲音がデザインした。
以前の修徳高校の制服には似せて居ない。
ブレザータイプの制服だったが、珠洲音はセーラー服が着てみたかったので、アレンジして作った。
珠洲音は赤色が好きなので赤を基調にしたデザインにした。
皆んなからの要望も少し入れつつ、全員が満足できる仕上がりとなった。
学校の場所は王都の真ん中あたりに有る。
歩いて護衛無して街中を歩くなんて、珠洲音は開放的な気分だった。
学校には貴族の子供も通っている。
それ以外にも分け隔てなく学びたい者は入学出来る。
歩いて学校に向かっていると、沢山の制服を着た男女がいるのが、目に入って来た。
その中に、美里と愛花を見つけた。
「お~い!美里~、愛花~!」
走って二人に追いつくと笑顔で迎えられた。
「珠洲音~、久しぶりだね。」
「今日はさ、楽しみだったんだ。皆んなに会えるし。」
3人は仲良く話しながらくっ付いたり笑ったりをしながら学校に向かった。
教室は2階のフロアで転生組は3年1組となっている。
あとは、この世界の貴族も一般市民も同じ教室で学んでいる。
主に国語、数学、生物、社会、魔法と剣術は必須項目となっている。
魔法と剣術に関しては、どちらか選択制で、どちらも学びたい場合も可能である。
それ以外には体育、芸術、音楽がある。
この項目に関しては選択学科でどれかを選ぶ形だ。
途中での変更もできる。
教師は王国から免許を発行している。
厳選な試験を行い相応しいと判断された者が成れる憧れの職業でもあった。
「珠洲音は選択学科何にしてるの?」
「私は音楽よ。」
「美里は?芸術何だけど、珠洲音が音楽なら私も音楽にしようかな~。」
「愛花は?」
「私は珠洲音と同じ音楽よ。
今度、珠洲音とコンビを組んで楽曲を発表するの。」
「え~、良いなぁ~。」
「美里はなんで芸術なの?」
「あ~、実は2組のクルフォード君とお付き合いしてて。
彼が芸術を選んでるから私も合わせてみたの。」
照れながら美里は顔も赤らめている。
「へぇ~、クルフォード君って、確か伯爵家の次男だよね。」
「そうそう、マックス家の次男。」
心の中で珠洲音は知らない間に彼氏のできている美里が羨ましく感じていた。
「愛花も彼氏居るよ。
この前4人でカフェに行ったの。」
「え?そうなの?良いなぁ~。」
素直な発言となった。
珠洲音にはそんな事を考えている余裕はこの一年無かった。
「珠洲音は可愛いからなぁ~、いつでも彼氏くらい作れるよ。」
「ん~、慰めになってない!」
「珠洲音の何処にモチない要素がある?」
愛花と美里は珠洲音をじっと見つめていた。
「可愛い。
声も可愛い。
髪はサラサラで綺麗。
肌も綺麗だし、
スタイル抜群で足が細くて長い。
そして、私たちより胸が大きい!」
指を刺しながら珠洲音の事を確認し出した。
「もう!恥ずかしいからやめてよ!
この感じ誰かにも言われた様な……。」
「でも、胸は大きいよね?」
「美里だって、指が綺麗だし、
声も可愛いじゃん。
目もパッチリで可愛いし、
肌も綺麗。
それに、優しい。」
「ありがとう。珠洲音も優しいじゃん。
愛花も私も、珠洲音もとっても良い子だよね?」
3人はお互いを褒め合っていた。
久々に珠洲音は大笑いした。
こんな贅沢な時間が終わらなければ良いのにっと思うくらいに幸せだった。
「ねぇ?放課後。カフェ行こう。
良いところがあるの。」
「賛成~!」
「いこ行こう。」
3人は大いに話に盛り上がった。
そして、
キンコンカンコン!
この日の授業が始まるチャイムが鳴っると。
教室に桂木が入ってきた。
この世界でも、教師として試験にも合格した。
珠洲音の忖度一切なしで。
「お!永野、久々だな。」
「先生!お久しぶりです。」
「元気そうで、何よりだ。
あまり、無茶はするなよ。」
「はい。」
「先生!珠洲音も来てる事だし、あれ決めちゃおうぜ!」
クラスの男子のムードメーカー的な存在の優斗が手を挙げて発言した。
「あれってなに?」
「そうだな。永野が居ないと決まらないか。
今度、文化祭を開催する事が決まったんだが、クラスでの催し物を決めようと思ってな。
珠洲音が来るのを皆んな待ってたんだ。」
「文化祭~、きた~!」
思わず文化祭というフレーズに喜びを隠せず珠洲音は立ち上がった。
「皆んなありがとう。
文化祭いつなの?」
珠洲音から笑顔が溢れた。
それを見ている全員も笑顔だ。
「2ヶ月後の10月4日だよ。」
後ろの席の美里が珠洲音の背中を突っついて教えてくれた。
「それじゃあ、学級委員頼むぞ。」
「はい。」
学級委員はクラスのリーダー的な存在である治樹とちょっと大人しめであまり目立たない奈瑠美だ。
「それでは、文化祭でどんな事をするか決めたいと思います。意見がある人居ますか?」
治樹が進行役で、奈瑠美は意見を書く役割の様だ。
いろいろな意見が出てくる。
カフェ、メイド喫茶、お化け屋敷、たこ焼き屋、お好み焼き屋、コンサート、ライブ、演劇などなど定番とも言えるものも含めて、多数の意見が出た。
その中でも人気があったのが、ライブとカフェだった。
投票の結果。
カフェのチームとライブのチームに分かれてやる事になった。
珠洲音は音楽を専攻している事もありライブチームに入った。
状況により、お互いのチームを手伝う事も決めて文化祭の出し物は確定したのだ。
「愛花!今回のライブはバンド組むよ。」
2人はお互いに音楽が好きで昔からカラオケも一緒に放課後寄り道している仲良しだ。
「じゃあ、楽器使える人探さないと。」
「大丈夫!ちょっと心当たりがあるから頼んでみるね。」
文化祭まで2ヶ月。
どれくらい準備に参加できるか不安な部分も有るが、珠洲音にとっては数少ない楽しみなイベントだ。
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