誓いの嘘と永遠の光

藤原遊

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魔王討伐編

12.5

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夜の森は静寂に包まれていた。焚き火の小さな炎が揺らぎ、カイルたちの寝息が微かに聞こえる中、レイナは一人テントを抜け出した。月明かりに照らされる森の奥へ足を運び、誰にも見られないことを確認すると、懐から小さな魔道具を取り出した。それは王から託された通信用の魔道具だった。

そっと手のひらで光を灯し、魔道具に魔力を注ぎ込む。すると、淡い青い光が揺らめき、王国の紋章が浮かび上がる。それと同時に、冷たい声が響いた。

「レイナか。状況を報告せよ。」

レイナは一瞬ためらったが、すぐに平静を装って答えた。

「はい。二つ目の鍵を手に入れる準備が整いつつあります。カイル様たちの信頼も、徐々に得られているはずです。」

「そうか。それで良い。鍵が揃うまでは信頼を得るよう動け。お前の役割を忘れるな。」

その短い言葉に、レイナは喉が詰まるような感覚を覚えた。役割を忘れるな――その一言が彼女の心に重くのしかかる。自分が彼らを裏切るために送り込まれた存在であることを改めて実感させられた。

「かしこまりました……。」

低く応じた声は、いつもよりかすれていた。それを察したのか、王は少し間を置いて、次の言葉を投げかけた。

「妹のことが気になるのか?」

レイナは思わず息を飲んだ。顔を上げ、魔道具の光に向かって言葉を紡ぐ。

「……妹は、元気にしていますか?」

一瞬の沈黙の後、王の冷たい声が返ってきた。

「変わりない。それ以上の情報は必要ないだろう。」

それは突き放すような答えだった。具体的な状況を尋ねる間もなく、通信は切られそうになる。慌てて声を張り上げそうになるのを、レイナは必死にこらえた。

「……ありがとうございます。」

魔道具の光が消え、辺りに再び静寂が戻る。レイナはその場に膝をつき、小さな息をついた。冷たい地面の感触が彼女の迷いを鮮明にする。妹が無事であるという言葉だけでは、もはや安心できなかった。自分が旅を続けている間、妹がどんな思いで過ごしているのか知るすべもない。その思いが胸を締め付ける。

(私は……本当にこれでいいの?)

カイルの誠実さ、グレンの実直さ、エリスの優しさ――彼らと旅を続ける中で、レイナは少しずつ自分の役割に疑問を抱き始めていた。しかし、妹を救うためには王の命令に従うしかない。自分の意思はどうあれ、この旅を続けなければならないのだ。

拳を握りしめ、レイナは顔を上げた。揺らめく月明かりを見つめながら、心に強く言い聞かせる。

(妹のために、私は……進むしかない。)

その決意を胸に抱き、レイナはそっと立ち上がった。そして、再び焚き火が灯るキャンプへと静かに戻っていった。

焚き火の炎が彼女の影を長く伸ばし、その影はテントの中で眠る仲間たちの方へとゆっくりと重なっていった。
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