13 / 81
魔王討伐編
12.5
しおりを挟む
夜の森は静寂に包まれていた。焚き火の小さな炎が揺らぎ、カイルたちの寝息が微かに聞こえる中、レイナは一人テントを抜け出した。月明かりに照らされる森の奥へ足を運び、誰にも見られないことを確認すると、懐から小さな魔道具を取り出した。それは王から託された通信用の魔道具だった。
そっと手のひらで光を灯し、魔道具に魔力を注ぎ込む。すると、淡い青い光が揺らめき、王国の紋章が浮かび上がる。それと同時に、冷たい声が響いた。
「レイナか。状況を報告せよ。」
レイナは一瞬ためらったが、すぐに平静を装って答えた。
「はい。二つ目の鍵を手に入れる準備が整いつつあります。カイル様たちの信頼も、徐々に得られているはずです。」
「そうか。それで良い。鍵が揃うまでは信頼を得るよう動け。お前の役割を忘れるな。」
その短い言葉に、レイナは喉が詰まるような感覚を覚えた。役割を忘れるな――その一言が彼女の心に重くのしかかる。自分が彼らを裏切るために送り込まれた存在であることを改めて実感させられた。
「かしこまりました……。」
低く応じた声は、いつもよりかすれていた。それを察したのか、王は少し間を置いて、次の言葉を投げかけた。
「妹のことが気になるのか?」
レイナは思わず息を飲んだ。顔を上げ、魔道具の光に向かって言葉を紡ぐ。
「……妹は、元気にしていますか?」
一瞬の沈黙の後、王の冷たい声が返ってきた。
「変わりない。それ以上の情報は必要ないだろう。」
それは突き放すような答えだった。具体的な状況を尋ねる間もなく、通信は切られそうになる。慌てて声を張り上げそうになるのを、レイナは必死にこらえた。
「……ありがとうございます。」
魔道具の光が消え、辺りに再び静寂が戻る。レイナはその場に膝をつき、小さな息をついた。冷たい地面の感触が彼女の迷いを鮮明にする。妹が無事であるという言葉だけでは、もはや安心できなかった。自分が旅を続けている間、妹がどんな思いで過ごしているのか知るすべもない。その思いが胸を締め付ける。
(私は……本当にこれでいいの?)
カイルの誠実さ、グレンの実直さ、エリスの優しさ――彼らと旅を続ける中で、レイナは少しずつ自分の役割に疑問を抱き始めていた。しかし、妹を救うためには王の命令に従うしかない。自分の意思はどうあれ、この旅を続けなければならないのだ。
拳を握りしめ、レイナは顔を上げた。揺らめく月明かりを見つめながら、心に強く言い聞かせる。
(妹のために、私は……進むしかない。)
その決意を胸に抱き、レイナはそっと立ち上がった。そして、再び焚き火が灯るキャンプへと静かに戻っていった。
焚き火の炎が彼女の影を長く伸ばし、その影はテントの中で眠る仲間たちの方へとゆっくりと重なっていった。
そっと手のひらで光を灯し、魔道具に魔力を注ぎ込む。すると、淡い青い光が揺らめき、王国の紋章が浮かび上がる。それと同時に、冷たい声が響いた。
「レイナか。状況を報告せよ。」
レイナは一瞬ためらったが、すぐに平静を装って答えた。
「はい。二つ目の鍵を手に入れる準備が整いつつあります。カイル様たちの信頼も、徐々に得られているはずです。」
「そうか。それで良い。鍵が揃うまでは信頼を得るよう動け。お前の役割を忘れるな。」
その短い言葉に、レイナは喉が詰まるような感覚を覚えた。役割を忘れるな――その一言が彼女の心に重くのしかかる。自分が彼らを裏切るために送り込まれた存在であることを改めて実感させられた。
「かしこまりました……。」
低く応じた声は、いつもよりかすれていた。それを察したのか、王は少し間を置いて、次の言葉を投げかけた。
「妹のことが気になるのか?」
レイナは思わず息を飲んだ。顔を上げ、魔道具の光に向かって言葉を紡ぐ。
「……妹は、元気にしていますか?」
一瞬の沈黙の後、王の冷たい声が返ってきた。
「変わりない。それ以上の情報は必要ないだろう。」
それは突き放すような答えだった。具体的な状況を尋ねる間もなく、通信は切られそうになる。慌てて声を張り上げそうになるのを、レイナは必死にこらえた。
「……ありがとうございます。」
魔道具の光が消え、辺りに再び静寂が戻る。レイナはその場に膝をつき、小さな息をついた。冷たい地面の感触が彼女の迷いを鮮明にする。妹が無事であるという言葉だけでは、もはや安心できなかった。自分が旅を続けている間、妹がどんな思いで過ごしているのか知るすべもない。その思いが胸を締め付ける。
(私は……本当にこれでいいの?)
カイルの誠実さ、グレンの実直さ、エリスの優しさ――彼らと旅を続ける中で、レイナは少しずつ自分の役割に疑問を抱き始めていた。しかし、妹を救うためには王の命令に従うしかない。自分の意思はどうあれ、この旅を続けなければならないのだ。
拳を握りしめ、レイナは顔を上げた。揺らめく月明かりを見つめながら、心に強く言い聞かせる。
(妹のために、私は……進むしかない。)
その決意を胸に抱き、レイナはそっと立ち上がった。そして、再び焚き火が灯るキャンプへと静かに戻っていった。
焚き火の炎が彼女の影を長く伸ばし、その影はテントの中で眠る仲間たちの方へとゆっくりと重なっていった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……



【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる