誓いの嘘と永遠の光

魔王討伐編

47

焚き火が静かに燃え尽きていく頃、一行の間には穏やかな沈黙が訪れていた。それぞれがこれからの道について語り合い、心にわずかな不安と期待を抱えている。

カイルはそっとレイナを横目で見た。彼女が優しい笑みを浮かべながら空を見上げている姿は、これまでのどの瞬間よりも穏やかに見えた。

（彼女の祖国が再建に向かう。その手助けができた。それでいいんだ。）

そう自分に言い聞かせるように考えながら、カイルは視線をそらした。

しかし、その心の奥底では別の感情が燻っている。旅を通じて彼女と過ごした時間、彼女の強さと優しさ、そのすべてがカイルの中で大きな存在になっていた。

（これが彼女の望む道なら、僕はそれを応援するしかない。）

彼は剣の柄を握りしめ、何も言わずに焚き火を見つめた。

一方、ルークはそんなカイルの様子を静かに観察していた。

（あいつも分かりやすいよな。まあ、こっちは余裕ないんだけどさ。）

ルークの視線も自然とレイナへ向かう。彼女の微笑み、その穏やかな表情が、彼の胸に小さな痛みを与えていた。

（レイナはカイルに惹かれてる……俺にはわかる。）

そう気づきながらも、ルークはその感情を押し殺した。彼の性格では、勝負に挑む前に諦めることなどできない。

（まだ勝負はついてない。そう思わせてくれよ。）

短剣を握りしめ、軽く息を吐いた彼は、隣のレイナに軽口を叩いた。

「レイナ、カイルには気をつけろよ。真面目すぎると疲れるぞ？」

不意を突かれたレイナは、目を丸くしてルークを見た。

「何よそれ……。」

「いや、冗談だよ。大丈夫、お前ならうまくやれるさ。」

ルークは軽く笑いながら立ち上がった。けれど、その瞳には微かな切なさが漂っていることに気づいたのは、彼女ではなくエリスだった。

「ルーク……。」

エリスが小さな声で名前を呼んだが、彼はそれ以上言わせないように軽く手を振った。

「じゃあな、またどこかで会おうぜ。」

そう言って、ルークは夜の闇に溶け込むように歩き出した。その背中は軽やかに見えたが、どこか影を落としているようでもあった。

焚き火がほとんど消えた頃、カイルが静かに立ち上がった。

「そろそろ休もう。明日にはそれぞれの道に進む準備が必要だ。」

グレンが立ち上がり、エリスもそれに続いた。

「そうね……旅立ちの朝は早いものだもの。」

エリスが微笑みながらレイナに手を差し伸べる。彼女はその手を取りながら、カイルにちらりと視線を向けた。

カイルは微笑みを返したが、何かを言いたそうな表情を見せるだけで、結局その言葉を飲み込んだ。

その様子を見ていたエリスがそっとルークの言葉を思い出す。

（カイルの気持ち……レイナは気づいていないのね。でも、ルークにはわかるのか。）

エリスは自分の心の中に浮かんだ言葉を飲み込み、ただ静かに二人のやりとりを見守った。

翌朝、陽が昇る頃、一行はそれぞれの道へと歩き出していた。

グレンは王都の城門へと向かい、騎士団の仲間と合流するための準備を始めていた。

エリスは笑顔で一行を見送り、街の外れにある村へと向かう道を選んだ。彼女の足元には、癒やしを待つ人々の元へと続く未来が広がっている。

ルークは誰にも見送られることなく、いつもの軽い足取りで旅立った。

しかし、その胸にはレイナへの未練と、それでも再び会えると信じる希望があった。

最後に残ったのは、カイルとレイナだった。

「僕はここで。君も準備があるだろう？」

カイルが優しい声で言うと、レイナは少しだけ寂しげな顔で微笑んだ。

「はい……カイル、ありがとうございました。本当に、すべてに。」

「お礼なんていらないよ。君が自分の道を歩くことが、僕にとっての一番の喜びだから。」

その言葉に、レイナの瞳が潤んだように見えたが、彼女はそれ以上何も言わなかった。

二人は別れ際に静かに視線を交わし、それぞれの道へと歩き出した。

その背中が見えなくなった頃、レイナは小さく息をつき、胸元に手を当てた。

（ありがとう……カイル。あなたのおかげで私は……前を向いていける。）

そして、新たな一歩を踏み出した。