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魔王討伐編
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魔王城の奥へと進むカイルたちは、次の試練を越えるための通路を探しながら慎重に足を進めていた。これまでの戦いで得た疲労がじわじわと体に重くのしかかっているが、全員が黙々と歩き続けていた。
「少しずつ気配が変わってきたな。何かいる……。」
グレンが低い声で呟き、大剣を構えた。
「四天王が次の部屋にいるのかもしれないわ。」
レイナが杖を握りながら言う。彼女の瞳には、既に覚悟の光が宿っている。
「でも、その前に……何か聞こえないか?」
カイルが歩みを止め、耳を澄ませた。その声に全員が足を止め、微かな音に耳を傾ける。
遠くから響く、金属がぶつかり合う音。そして、誰かの叫び声。
「戦闘だ……!」
ルークが短剣を握りしめ、一行はその音の方へ駆け出した。
音のする部屋にたどり着いた一行が目にしたのは、別の勇者パーティーが巨大な魔物と戦っている姿だった。しかし、彼らの動きは乱れており、魔物に圧倒されている。
「別のパーティーか……。」
エリスが驚いた声を漏らす。
「この魔王城に入れてるってことは、試練をクリアしてる……のか?」
ルークが不思議そうに呟くと、カイルが険しい顔で首を振った。
「いや……多分、僕たちが鍵を開けたことで侵入できたんだろう。けど、この様子じゃ……力が足りない。」
別パーティーは、一人が盾を構えて必死に防御し、もう一人が後方から矢を放っている。だが、魔物の攻撃は苛烈で、すでに全員が疲弊していた。
「このままだと……。」
カイルが剣を握りしめ、静かに言った。
「支援するぞ。全員、僕についてきて!」
カイルたちは戦場に飛び込み、魔物の攻撃を受け止めた。
「お前たち、下がれ! ここは僕たちが引き受ける!」
カイルが叫ぶと、別パーティーのメンバーは驚いた顔で彼を見つめた。
「お、お前たちは……?」
「話は後だ! 今はお前たちがやられる前に、立て直すんだ!」
グレンが大剣を振り上げ、魔物の一撃を受け止めた。その隙にルークが魔物の横へ回り込み、素早い動きで短剣を突き刺す。
「影縛り!」
レイナが魔法を放ち、魔物の動きを一瞬止める。その間にカイルが剣を振り下ろし、魔物の急所を狙った。
戦闘は激化したが、カイルたちの連携によって魔物は次第に追い詰められ、ついに大きな咆哮と共に倒れた。部屋に静寂が戻る。
「終わった……。」
ルークが短剣を鞘に収めながら息をついた。
「大丈夫か?」
カイルが別パーティーのメンバーに声をかける。彼らは疲れ切った様子で地面に座り込んでいた。
「助かった……。正直、ここまで追い詰められるとは思わなかった。」
別パーティーのリーダーらしき男が、苦笑いを浮かべながら答えた。
「どうしてこんな危険な状況になったんだ? 試練をクリアしてないんだろう?」
カイルの問いに、男は視線を逸らしながら答えた。
「……お前たちが鍵を開けた時、魔王城に入れるって分かったんだ。力は足りないかもしれないけど、ここで引き返すわけにはいかなかった。」
「それで、無理に進んでこんな状況になったのか。」
カイルが呟きながら視線を伏せた。その顔には苦悩が浮かんでいる。
「僕たちが鍵を開けたせいで……お前たちを危険にさらしたのか。」
「……そうかもしれない。でも、俺たちだって覚悟の上でここに来たんだ。お前たちを責めるつもりはない。」
男の言葉に、カイルは静かに首を振った。
「それでも、無理に進むべきじゃない。今の状態じゃ、この先に進めば全滅するだけだ。」
「でも、ここで引き返せっていうのか?」
男が悔しそうに言い返す。
「そうだ。ここで無理をして死ぬくらいなら、一度引いて力を蓄えろ。それができないなら、僕たちがここで助けた意味がない。」
カイルの静かな言葉に、男は言葉を失った。
「お前たちをここから安全な場所まで送る。それで、撤退するかどうかをもう一度考えてくれ。」
カイルがそう告げると、別パーティーのメンバーは互いに顔を見合わせ、小さく頷いた。
「……分かった。助けてもらった恩に応えるためにも、一度引くよ。」
一行は別パーティーを安全な部屋まで送り届けると、再び先へと歩き出した。後ろを振り返ると、彼らは静かに感謝の意を示すように頭を下げていた。
「カイル、本当にこれで良かったのか?」
グレンが低い声で問いかける。
「ああ。僕たちの責任でもあるからな。彼らが無事に撤退できるなら、それでいい。」
カイルは静かに前を向き、歩みを止めなかった。
(鍵を開けたことで、別の命を危険にさらしてしまった。それでも……僕たちは進むしかない。)
彼の決意を受け、一行は再び魔王城の奥へ進むのだった。
「少しずつ気配が変わってきたな。何かいる……。」
グレンが低い声で呟き、大剣を構えた。
「四天王が次の部屋にいるのかもしれないわ。」
レイナが杖を握りながら言う。彼女の瞳には、既に覚悟の光が宿っている。
「でも、その前に……何か聞こえないか?」
カイルが歩みを止め、耳を澄ませた。その声に全員が足を止め、微かな音に耳を傾ける。
遠くから響く、金属がぶつかり合う音。そして、誰かの叫び声。
「戦闘だ……!」
ルークが短剣を握りしめ、一行はその音の方へ駆け出した。
音のする部屋にたどり着いた一行が目にしたのは、別の勇者パーティーが巨大な魔物と戦っている姿だった。しかし、彼らの動きは乱れており、魔物に圧倒されている。
「別のパーティーか……。」
エリスが驚いた声を漏らす。
「この魔王城に入れてるってことは、試練をクリアしてる……のか?」
ルークが不思議そうに呟くと、カイルが険しい顔で首を振った。
「いや……多分、僕たちが鍵を開けたことで侵入できたんだろう。けど、この様子じゃ……力が足りない。」
別パーティーは、一人が盾を構えて必死に防御し、もう一人が後方から矢を放っている。だが、魔物の攻撃は苛烈で、すでに全員が疲弊していた。
「このままだと……。」
カイルが剣を握りしめ、静かに言った。
「支援するぞ。全員、僕についてきて!」
カイルたちは戦場に飛び込み、魔物の攻撃を受け止めた。
「お前たち、下がれ! ここは僕たちが引き受ける!」
カイルが叫ぶと、別パーティーのメンバーは驚いた顔で彼を見つめた。
「お、お前たちは……?」
「話は後だ! 今はお前たちがやられる前に、立て直すんだ!」
グレンが大剣を振り上げ、魔物の一撃を受け止めた。その隙にルークが魔物の横へ回り込み、素早い動きで短剣を突き刺す。
「影縛り!」
レイナが魔法を放ち、魔物の動きを一瞬止める。その間にカイルが剣を振り下ろし、魔物の急所を狙った。
戦闘は激化したが、カイルたちの連携によって魔物は次第に追い詰められ、ついに大きな咆哮と共に倒れた。部屋に静寂が戻る。
「終わった……。」
ルークが短剣を鞘に収めながら息をついた。
「大丈夫か?」
カイルが別パーティーのメンバーに声をかける。彼らは疲れ切った様子で地面に座り込んでいた。
「助かった……。正直、ここまで追い詰められるとは思わなかった。」
別パーティーのリーダーらしき男が、苦笑いを浮かべながら答えた。
「どうしてこんな危険な状況になったんだ? 試練をクリアしてないんだろう?」
カイルの問いに、男は視線を逸らしながら答えた。
「……お前たちが鍵を開けた時、魔王城に入れるって分かったんだ。力は足りないかもしれないけど、ここで引き返すわけにはいかなかった。」
「それで、無理に進んでこんな状況になったのか。」
カイルが呟きながら視線を伏せた。その顔には苦悩が浮かんでいる。
「僕たちが鍵を開けたせいで……お前たちを危険にさらしたのか。」
「……そうかもしれない。でも、俺たちだって覚悟の上でここに来たんだ。お前たちを責めるつもりはない。」
男の言葉に、カイルは静かに首を振った。
「それでも、無理に進むべきじゃない。今の状態じゃ、この先に進めば全滅するだけだ。」
「でも、ここで引き返せっていうのか?」
男が悔しそうに言い返す。
「そうだ。ここで無理をして死ぬくらいなら、一度引いて力を蓄えろ。それができないなら、僕たちがここで助けた意味がない。」
カイルの静かな言葉に、男は言葉を失った。
「お前たちをここから安全な場所まで送る。それで、撤退するかどうかをもう一度考えてくれ。」
カイルがそう告げると、別パーティーのメンバーは互いに顔を見合わせ、小さく頷いた。
「……分かった。助けてもらった恩に応えるためにも、一度引くよ。」
一行は別パーティーを安全な部屋まで送り届けると、再び先へと歩き出した。後ろを振り返ると、彼らは静かに感謝の意を示すように頭を下げていた。
「カイル、本当にこれで良かったのか?」
グレンが低い声で問いかける。
「ああ。僕たちの責任でもあるからな。彼らが無事に撤退できるなら、それでいい。」
カイルは静かに前を向き、歩みを止めなかった。
(鍵を開けたことで、別の命を危険にさらしてしまった。それでも……僕たちは進むしかない。)
彼の決意を受け、一行は再び魔王城の奥へ進むのだった。
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