誓いの嘘と永遠の光

藤原遊

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魔王討伐編

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朝の光は魔王城には届かない。黒い天井と閉ざされた空間に包まれながら、一行は深く息をついて旅路を再開した。それぞれが武器を手にし、無言のまま歩を進める。空間の不気味な冷たさが、次に訪れる危機を予感させるようだった。

「さっきのヴァルターといい、次も手強い相手が待っているはずだ。」

カイルが剣を握りしめながら言う。

「四天王なんだから、当然だろうな。でも、出てきたところで倒すだけだ。」

グレンが力強く応じた。

「油断しないで。魔王の側近たちが簡単な試練を用意するはずがないわ。」

レイナが杖を握りながら慎重な声で言った。その顔には、昨夜までの迷いは見えない。

「ま、どんな相手だろうが、楽しませてもらうだけさ。」

ルークが軽口を叩きながら、短剣を弄んでいた。

しばらく進むと、巨大な扉が一行の前に現れた。扉には赤い炎のような模様が刻まれ、周囲に漂う熱気が肌を刺すようだった。

「これは……?」

エリスが驚きの声を上げた。

「間違いない。ここだ。次の四天王がいるのは、この先だな。」

カイルが低く呟いた。

「全員、準備を整えろ。ここから先は一歩も間違えられない。」

グレンが言い、全員がそれぞれの武器を構えた。

扉を押し開けると、そこには広大な空間が広がっていた。床には燃え盛る炎が走り、空気全体が熱を帯びている。その中央には、炎の中からゆっくりと一人の人物が現れた。

赤い鎧に身を包み、背には巨大な双剣を背負った男だった。彼の目は燃えるように赤く、見る者すべてを威圧するような力を放っている。

「ようこそ、勇者ども。俺の名はイグニス。四天王の第二席だ。」

その声は低く、部屋全体に響き渡る。

「イグニス……。」

カイルがその名を繰り返しながら、剣を握り直した。

「ヴァルターは俺たちが倒した。次はお前の番だ。」

グレンが大剣を構えながら前に出た。

「そう焦るな。俺はヴァルターとは違う。力と力のぶつかり合い、ただそれだけだ。」

イグニスが双剣を抜き、火花を散らせた。その姿に、空間全体の温度がさらに上がる。

「来るぞ!」

カイルの叫びと同時に、イグニスが一瞬で距離を詰めてきた。その双剣が炎を纏い、一行を襲う。

「早い……!」

グレンが咄嗟に大剣を振りかざし、攻撃を受け止める。しかし、双剣の一撃は重く、グレンの足が床に沈み込む。

「くそっ……!」

「グレン、下がって!」

エリスが治癒魔法を展開し、彼の体力を回復させる。

「影縛り!」

レイナが呪文を放ち、黒い鎖がイグニスの動きを封じる。しかし、彼は力で鎖を引きちぎり、再び攻撃を仕掛けた。

「まともにやり合ったら持たない! 全員で連携するぞ!」

カイルが剣を振りながら指示を出し、ルークが素早くイグニスの背後に回り込む。

「これでどうだ!」

ルークが短剣を振るい、イグニスの隙を狙うが、炎の盾がそれを阻む。

「チッ、防御まで固いのかよ!」

戦闘は激しさを増し、一行はじわじわと追い詰められていった。イグニスの炎は空間全体を覆い、一瞬の油断も許さない。

「みんな、時間を稼いで! 私が魔法で攻撃の隙を作る!」

レイナが叫び、杖を高く掲げた。その瞳には決意が宿っている。

「レイナ、頼んだ!」

カイルがイグニスの注意を引きつけ、彼女に時間を稼ぐ。

「炎よ、静まれ――!」

レイナの呪文が完成すると同時に、炎が一瞬だけ鎮まり、イグニスの動きが鈍る。

「今だ! 全員、攻撃を仕掛けろ!」

カイルの声に呼応し、一行が一斉に攻撃を仕掛けた。

イグニスは膝をつき、双剣を地面に突き刺した。

「ここまでか……。お前たち、なかなかやるな。」

その言葉を残し、彼の体は炎と共に消え去った。

「……終わったか?」

グレンが肩で息をしながら大剣を構え直す。

「ああ。だけど、まだ四天王の半分だ。」

カイルが剣を収め、全員を見渡した。

「少し休んでから進むべきね。このままじゃ次には耐えられないわ。」

エリスが静かに言い、一行はその場で簡単な休憩を取ることにした。

休息を取りながら、ルークはレイナの横顔をちらりと見た。彼女の表情には迷いはなく、清々しい決意が宿っている。

(あいつ、本当に強くなったな。でも、それだけじゃない。俺が気にしてるのは……。)

ルークは短剣を弄びながら、何かを自覚し始めていた。

(……何だよ、これ。)

彼は静かに息を吐き、頭を振って余計な考えを追い払った。

「さて、次に進む準備をしようぜ。」

ルークが立ち上がり、一行は再び歩みを進めた。
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