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魔王討伐編
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冒険者たちで賑わう町の中央広場に、一行が集まっていた。魔王討伐に向けて、装備や情報を揃えたものの、エリスが提案した最後の準備がまだ残っていた。
「魔王城での戦いに備えて、全員の体力を補えるエリクサーを作りたいの。」
エリスが慎重な声で言う。
「それは頼もしいな。でも、材料は揃ってるのか?」
カイルが尋ねると、エリスは少し困った表情を浮かべた。
「ほとんどは用意できたけど、あと一つ……どうしても手に入らない花があるの。それがないと完成しないわ。」
「その花って、どこにあるんだ?」
グレンが問いかける。
「この町の外れに住む薬師のところで聞いたけど、『星涙の花』という特殊な花が必要らしいの。それが山の奥深くにしか咲かないって……。」
「山の奥深く、か。ちょっとした寄り道になるな。」
ルークが短剣を弄びながら言う。
「でも、その花があればエリクサーが完成するんでしょ? 行くしかないわね。」
レイナが冷静に話をまとめた。
「よし、じゃあ準備が整い次第、その花を取りに行こう。」
カイルが仲間たちを見渡して言った。
一行は町を出発し、薬師が教えてくれた山の奥深くを目指した。道中は険しいが、森の緑と小鳥のさえずりがどこか心を落ち着かせた。
「星涙の花って、どんな花なんだ?」
ルークが肩越しにエリスに尋ねる。
「夜になると青白く光る花よ。満天の星が輝く場所でしか咲かないって聞いたわ。」
「ロマンチックな話だな。でも、それを取りに行くのに命がけってのが現実だ。」
ルークの冗談に、エリスはクスリと笑った。
険しい山道を登り、ようやく星涙の花が咲くという場所にたどり着いた。一行が足を踏み入れると、そこは開けた高台で、夜空が一望できる場所だった。
「綺麗……」
エリスが思わず呟いた。満天の星が空を覆い、静かな風が花々を揺らしている。その中に、青白い輝きを放つ花が点在していた。
「これが星涙の花……本当に光ってる。」
カイルが花に近づきながら感嘆の声を漏らす。
「見とれてる場合じゃないぞ。これを持ち帰らなきゃ。」
ルークが笑いながら花を摘み取ろうとしたその瞬間、草むらから鋭い音が響いた。
「待て、何かいる!」
グレンが大剣を構え、一行が緊張する。次の瞬間、花を守るように出現したのは、巨大な獣の姿だった。黒い体毛が夜空に溶け込み、鋭い爪と牙が光っている。
「こいつが星涙の花を守る番人ってわけか!」
ルークが短剣を構え、素早く間合いを詰める。
「全員、気をつけて! 花を傷つけないように!」
カイルが指示を出し、戦闘が始まった。
番人は素早い動きで全員を翻弄したが、一行の連携がそれを上回った。レイナの魔法が番人の動きを封じ、グレンがその隙を突いて攻撃を加える。
「影縛り!」
「今だ、グレン!」
カイルが剣を振り下ろし、番人を撃退した。静寂が戻り、再び夜空の下に光る花が現れる。
「よし、これで花を持ち帰れる。」
エリスが丁寧に星涙の花を摘み取り、大事そうに袋に入れた。
「じゃあ、急いで町に戻ろう。時間が惜しい。」
カイルが言い、一行は山を下り始めた。
町に戻る途中、一行は道端で別の冒険者パーティとすれ違った。装備を整えた彼らは、やや険しい表情をしている。
「すまない。」
すれ違いざま、冒険者の一人がレイナの肩にぶつかった。その手が自然な動きで、何かを彼女のカバンに滑り込ませるのをルークだけが目にした。
「大丈夫か?」
カイルが気遣うように声をかけるが、レイナは平然と頷いた。
「ええ、問題ないわ。」
しかし、ルークの目は鋭く、レイナのカバンに突っ込まれた小さな紙片を捉えていた。
その夜、宿に戻った一行が休息を取る中、レイナは部屋で一人、カバンに入った紙片を開いた。
『命令を遂行する時が来た。魔王城で鍵を使い、任務を完遂せよ。』
その簡潔な文字が、彼女の心を締め付けた。
(ついに……来た。)
彼女の手は微かに震えていたが、表情には出さない。
一方、廊下に座るルークは、彼女の部屋を無言で見つめていた。その顔にはいつもの軽い笑みはなく、静かな思索が浮かんでいる。
(やっぱり何かあるな、レイナ。さて、どう出るか……。)
「魔王城での戦いに備えて、全員の体力を補えるエリクサーを作りたいの。」
エリスが慎重な声で言う。
「それは頼もしいな。でも、材料は揃ってるのか?」
カイルが尋ねると、エリスは少し困った表情を浮かべた。
「ほとんどは用意できたけど、あと一つ……どうしても手に入らない花があるの。それがないと完成しないわ。」
「その花って、どこにあるんだ?」
グレンが問いかける。
「この町の外れに住む薬師のところで聞いたけど、『星涙の花』という特殊な花が必要らしいの。それが山の奥深くにしか咲かないって……。」
「山の奥深く、か。ちょっとした寄り道になるな。」
ルークが短剣を弄びながら言う。
「でも、その花があればエリクサーが完成するんでしょ? 行くしかないわね。」
レイナが冷静に話をまとめた。
「よし、じゃあ準備が整い次第、その花を取りに行こう。」
カイルが仲間たちを見渡して言った。
一行は町を出発し、薬師が教えてくれた山の奥深くを目指した。道中は険しいが、森の緑と小鳥のさえずりがどこか心を落ち着かせた。
「星涙の花って、どんな花なんだ?」
ルークが肩越しにエリスに尋ねる。
「夜になると青白く光る花よ。満天の星が輝く場所でしか咲かないって聞いたわ。」
「ロマンチックな話だな。でも、それを取りに行くのに命がけってのが現実だ。」
ルークの冗談に、エリスはクスリと笑った。
険しい山道を登り、ようやく星涙の花が咲くという場所にたどり着いた。一行が足を踏み入れると、そこは開けた高台で、夜空が一望できる場所だった。
「綺麗……」
エリスが思わず呟いた。満天の星が空を覆い、静かな風が花々を揺らしている。その中に、青白い輝きを放つ花が点在していた。
「これが星涙の花……本当に光ってる。」
カイルが花に近づきながら感嘆の声を漏らす。
「見とれてる場合じゃないぞ。これを持ち帰らなきゃ。」
ルークが笑いながら花を摘み取ろうとしたその瞬間、草むらから鋭い音が響いた。
「待て、何かいる!」
グレンが大剣を構え、一行が緊張する。次の瞬間、花を守るように出現したのは、巨大な獣の姿だった。黒い体毛が夜空に溶け込み、鋭い爪と牙が光っている。
「こいつが星涙の花を守る番人ってわけか!」
ルークが短剣を構え、素早く間合いを詰める。
「全員、気をつけて! 花を傷つけないように!」
カイルが指示を出し、戦闘が始まった。
番人は素早い動きで全員を翻弄したが、一行の連携がそれを上回った。レイナの魔法が番人の動きを封じ、グレンがその隙を突いて攻撃を加える。
「影縛り!」
「今だ、グレン!」
カイルが剣を振り下ろし、番人を撃退した。静寂が戻り、再び夜空の下に光る花が現れる。
「よし、これで花を持ち帰れる。」
エリスが丁寧に星涙の花を摘み取り、大事そうに袋に入れた。
「じゃあ、急いで町に戻ろう。時間が惜しい。」
カイルが言い、一行は山を下り始めた。
町に戻る途中、一行は道端で別の冒険者パーティとすれ違った。装備を整えた彼らは、やや険しい表情をしている。
「すまない。」
すれ違いざま、冒険者の一人がレイナの肩にぶつかった。その手が自然な動きで、何かを彼女のカバンに滑り込ませるのをルークだけが目にした。
「大丈夫か?」
カイルが気遣うように声をかけるが、レイナは平然と頷いた。
「ええ、問題ないわ。」
しかし、ルークの目は鋭く、レイナのカバンに突っ込まれた小さな紙片を捉えていた。
その夜、宿に戻った一行が休息を取る中、レイナは部屋で一人、カバンに入った紙片を開いた。
『命令を遂行する時が来た。魔王城で鍵を使い、任務を完遂せよ。』
その簡潔な文字が、彼女の心を締め付けた。
(ついに……来た。)
彼女の手は微かに震えていたが、表情には出さない。
一方、廊下に座るルークは、彼女の部屋を無言で見つめていた。その顔にはいつもの軽い笑みはなく、静かな思索が浮かんでいる。
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