誓いの嘘と永遠の光

魔王討伐編

28

雷光の神殿から地上に戻った一行は、冒険者たちで賑わう中継地点の町にたどり着いていた。ここは魔王討伐を目指す者たちが最後に装備を整えたり情報を集めたりする場所で、町全体が冒険の熱気に包まれている。

「ここで装備を整えたり、魔王城に関する情報を集めるべきだな。」

カイルが地図を確認しながら全員に声をかけた。

「それに、少し休まないと体力が持たないわ。」

エリスが柔らかく微笑みながら言う。

「そうだな。今のうちに準備を万全にしよう。」

グレンが大剣を肩に担ぎ直した。

「まあ、最後の息抜きってやつだな。」

ルークが冗談めかして笑い、全員がそれぞれ行動を開始した。

カイルはギルドに向かい、魔王城に関する情報を集めていた。魔王城は広大で、強力な魔物が巣食う危険な場所だという。

「魔王討伐を目指す勇者パーティは他にも何組かいるみたいだな。でも、城に入って生きて戻った者はいない……。」

彼の言葉に、ギルドの案内係は険しい表情を浮かべた。

「ええ。魔王の側近たちが各地で待ち構えていて、それを突破するだけでも至難の業です。」

カイルはその情報を胸に刻み、仲間たちに伝えるためにギルドを後にした。

一方、レイナは町の露店街を歩きながら、自分の中で渦巻く思いに飲み込まれそうになっていた。

（最後の鍵を手にした私……このまま、国の命令に従うべきなの？）

国のため、妹のために裏切る決意をしていたはずだった。しかし、旅の中で芽生えた仲間たちへの信頼と絆が、彼女の心を揺さぶっていた。

「おい、レイナ。どうした？」

ルークが横から声をかける。いつもの軽い調子だが、その目には彼女を気にかける思いが垣間見えた。

「……何でもないわ。ただ考え事をしていただけ。」

レイナは努めて冷静に答えるが、ルークは肩をすくめた。

「考え事はほどほどにな。頭が固くなると、柔軟な判断ができなくなるぜ。」

彼の軽口に、レイナは思わず小さく笑った。

「……ありがとう、ルーク。」

グレンは鍛冶屋で武器を研ぎ直してもらい、カイルは新しい防具を試していた。一方、エリスは治癒薬や魔法の補助アイテムを購入し、ルークは雷の罠を解除するための特殊な道具を手に入れた。

「これで準備は整ったな。」

カイルが仲間たちを見回し、静かに頷いた。

「いよいよ魔王城に向かうのね。」

エリスが小さく息をつきながら呟いた。

「これが最後の戦いだ。全員で生きて帰るぞ。」

カイルの力強い言葉に、全員が頷いた。

その夜、レイナは一人、窓の外の月を見上げていた。鍵を手にした時から重くのしかかる使命。仲間たちの信頼に応えたい気持ちと、国への義務。その板挟みに苦しむ自分に向き合っていた。

（もし、明日の戦いで裏切ったら……この絆はどうなる？ でも、もし裏切らなかったら……私の国は、妹はどうなる？）

彼女は拳を握りしめ、深く息をついた。

「……私はどうすればいいの？」

その問いは月に向けられたかのようだったが、答えが返ることはなかった。