誓いの嘘と永遠の光

藤原遊

文字の大きさ
上 下
24 / 81
魔王討伐編

23

しおりを挟む
焚き火の炎が静かに揺れている。星空の下、ルークは片膝を立てて座りながら、レイナの横顔をちらりと盗み見た。

いつもの彼女なら、冷静に状況を分析し、的確な助言をくれる。その冷徹さすら頼りになる仲間だと思っていた。しかし、今日はどこか様子が違う。焚き火の光を見つめる彼女の瞳には、いつもの鋭さが欠けていた。

(何を考えてるんだ、レイナ。)

ルークは杖を膝に置いたまま微動だにしない彼女の姿を眺めながら、自分の胸にわき上がる違和感をかみしめた。軽口を叩いて場を和ませるのが自分の役割だと分かっていたが、今はそれがどうにもできなかった。

「レイナ?」

カイルが不意に声をかけた時、ルークは耳をそばだてた。彼女がどんな返事をするのか気になった。

「……何でもないわ。ちょっと考え事をしていただけ。」

その声には確かに揺らぎがあった。いつもの冷静な彼女なら、もう少ししっかりした口調で言い切るはずだ。

(嘘だな。)

ルークは心の中でそう断じた。

カイルとレイナのやり取りが続く間、彼は何も言わずに焚き火をつついていた。しかし、耳はしっかりと二人の会話に集中していた。

会話が終わり、レイナが再び静かになった後、ルークは焚き火を挟んで彼女に視線を向けた。彼女が気づくことはないように、ごく自然に。

(何か抱えてるんだろうな。)

それは間違いないと確信していた。自分も過去に抱えていたことがある。誰にも言えない秘密、心に突き刺さる後悔。それを抱えながら、周囲に気づかれないように振る舞う――それがどれだけ難しいか、ルークには痛いほど分かっていた。

(でも、レイナが抱えてるものは……俺のとは違う気がする。)

ルークは軽くため息をつき、焚き火の炎を見つめた。

(あいつは、俺たちに言えないことがある。何かがあいつを苦しめてる。でも、それを聞く権利なんて俺にはない。)

彼は静かに笑い、膝に乗せた短剣を指で軽く弾いた。

(俺はただの軽口叩きだ。深刻な顔をするのは性に合わない。でも……)

ルークは焚き火越しに、再びレイナを見た。彼女の横顔は月明かりに照らされていたが、その表情はどこか影を帯びていた。

(あいつが何を抱えていようと、俺たちの仲間だ。あいつがどうにかなりそうになったら、俺が何とかする。)

ルークは短剣を握り直し、小さく呟いた。

「……あんまり無理すんなよ、レイナ。」

その夜、ルークは星空を見上げながら横になっていた。レイナが眠れずに空を見ているのを知っていたが、あえて何も声をかけなかった。

(もしあいつが何かしでかしそうになったら、その時は俺が止めてやる。バカなことしないようにな。)

彼は目を閉じながら、微かに笑みを浮かべた。

(ま、こんなこと考えるなんてらしくないけどな。)

それでも、仲間として、彼はその決意を密かに胸に刻んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

王命により泣く泣く婚約させられましたが、婚約破棄されたので喜んで出て行きます。

十条沙良
恋愛
「僕にはお前など必要ない。婚約破棄だ。」と、怒鳴られました。国は滅んだ。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...