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魔王討伐編
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霧がゆっくりと晴れ、黒い石造りの迷宮がその全貌を現した。耳を覆っていた低い唸り声や冷たい風のざわめきも止み、空間には冷たい静寂だけが広がっていた。
グレンは肩で息をつきながら剣を地面に突き刺し、深くうなだれていた。その姿を見て、カイルが静かに近づく。
「グレン、大丈夫か?」
グレンはゆっくりと顔を上げ、深く頷いた。その瞳には疲労の色が浮かんでいたが、どこか晴れやかな光も宿っていた。
「……ああ。迷いは消えた。仲間がいる限り、俺は前に進める。」
その言葉にカイルは微笑みを浮かべた。
「よかった。それが聞けて安心したよ。」
エリスが光の魔法でグレンの傷を癒しながら柔らかく言った。
「さっきは本当に危なかったわね。でも、ちゃんと乗り越えたあなたは立派よ。」
「エリス……ありがとう。」
グレンが短く感謝を述べると、少し離れた場所でルークが小さく手を振りながら言った。
「おいおい、感動の場面だけど、そろそろこれを見たほうがいいんじゃないか?」
ルークが指差した先には、部屋の中心に浮かぶ黒い鍵があった。それは濃密な闇の中に漂いながら、微かに鈍い光を放っている。
「これが……闇の鍵か。」
レイナが一歩前に進み、杖を握り直しながら呟いた。
「でも、この雰囲気……明らかに呪いが込められているわね。」
「近づくと、妙な気配を感じるな。」
グレンが顔をしかめながら鍵を睨む。
エリスが慎重に鍵の魔力を調べるために手をかざした。柔らかな光が鍵を包み込むと、呪いの気配が浮き上がり、その性質が明らかになる。
「……この鍵は、持つ者に過去の失敗や後悔を幻覚として見せる呪いがかけられている。」
その言葉に全員が顔を曇らせた。
「つまり、さっきグレンが体験したような……?」
カイルが確認するように尋ねる。
「ええ。持つ者の心を弱らせ、立ち止まらせようとする力ね。」
エリスが鍵を見つめながら続けた。
「この呪いに耐えられるのは、心の柔軟さとユーモアを持つ人。自分の後悔に囚われない人よ。」
その瞬間、全員の視線が一斉にルークに向けられた。
「……おいおい、まさか俺のことを言ってるんじゃないだろうな?」
ルークが眉を上げて呆れたように言った。
「あなたが一番適任よ。」
レイナが冷静に断言した。
「あなたなら、呪いに飲み込まれずに鍵を管理できるはずよ。普段から軽口を叩いているくせに、実はちゃんと周りを見てるでしょう?」
「そうよ。ルークなら、この呪いの幻覚をユーモアで受け流せるかもしれない。」
エリスも微笑みながら言葉を添えた。
「冗談じゃないぜ……いや、でも確かに、そうかもしれないな。」
ルークはしばらく考えた後、鍵に手を伸ばした。その瞬間、鍵から放たれる黒い光が一瞬だけ彼の手を包んだが、ルークはそれをしっかりと握りしめた。
「ふぅ……これでいいのか?」
彼が鍵を見つめながら言うと、カイルが頷いた。
「ああ、頼むよ。ルーク。」
「へいへい、任せとけって。」
鍵を腰のポーチに収めながら、ルークは軽く肩をすくめた。
迷宮を抜けると、外はすっかり暗くなっていた。遠くで風が木々を揺らし、空には星が瞬いている。
「やっと外に出られたな。霧がないとこんなに広い空があるなんて忘れてたよ。」
ルークが冗談交じりに言いながら、満天の星空を見上げた。
「でも、これで残りはあと一つ……次で最後の試練ね。」
レイナが冷静に言い、杖を軽く突いた。
「ここまでこれたのはみんなのおかげだ。」
カイルが全員を見渡しながら言った。
「これが最後の試練になる。次の準備は万全に整えよう。」
全員が深く頷き、それぞれの思いを胸に次の試練への決意を新たにした。
グレンは肩で息をつきながら剣を地面に突き刺し、深くうなだれていた。その姿を見て、カイルが静かに近づく。
「グレン、大丈夫か?」
グレンはゆっくりと顔を上げ、深く頷いた。その瞳には疲労の色が浮かんでいたが、どこか晴れやかな光も宿っていた。
「……ああ。迷いは消えた。仲間がいる限り、俺は前に進める。」
その言葉にカイルは微笑みを浮かべた。
「よかった。それが聞けて安心したよ。」
エリスが光の魔法でグレンの傷を癒しながら柔らかく言った。
「さっきは本当に危なかったわね。でも、ちゃんと乗り越えたあなたは立派よ。」
「エリス……ありがとう。」
グレンが短く感謝を述べると、少し離れた場所でルークが小さく手を振りながら言った。
「おいおい、感動の場面だけど、そろそろこれを見たほうがいいんじゃないか?」
ルークが指差した先には、部屋の中心に浮かぶ黒い鍵があった。それは濃密な闇の中に漂いながら、微かに鈍い光を放っている。
「これが……闇の鍵か。」
レイナが一歩前に進み、杖を握り直しながら呟いた。
「でも、この雰囲気……明らかに呪いが込められているわね。」
「近づくと、妙な気配を感じるな。」
グレンが顔をしかめながら鍵を睨む。
エリスが慎重に鍵の魔力を調べるために手をかざした。柔らかな光が鍵を包み込むと、呪いの気配が浮き上がり、その性質が明らかになる。
「……この鍵は、持つ者に過去の失敗や後悔を幻覚として見せる呪いがかけられている。」
その言葉に全員が顔を曇らせた。
「つまり、さっきグレンが体験したような……?」
カイルが確認するように尋ねる。
「ええ。持つ者の心を弱らせ、立ち止まらせようとする力ね。」
エリスが鍵を見つめながら続けた。
「この呪いに耐えられるのは、心の柔軟さとユーモアを持つ人。自分の後悔に囚われない人よ。」
その瞬間、全員の視線が一斉にルークに向けられた。
「……おいおい、まさか俺のことを言ってるんじゃないだろうな?」
ルークが眉を上げて呆れたように言った。
「あなたが一番適任よ。」
レイナが冷静に断言した。
「あなたなら、呪いに飲み込まれずに鍵を管理できるはずよ。普段から軽口を叩いているくせに、実はちゃんと周りを見てるでしょう?」
「そうよ。ルークなら、この呪いの幻覚をユーモアで受け流せるかもしれない。」
エリスも微笑みながら言葉を添えた。
「冗談じゃないぜ……いや、でも確かに、そうかもしれないな。」
ルークはしばらく考えた後、鍵に手を伸ばした。その瞬間、鍵から放たれる黒い光が一瞬だけ彼の手を包んだが、ルークはそれをしっかりと握りしめた。
「ふぅ……これでいいのか?」
彼が鍵を見つめながら言うと、カイルが頷いた。
「ああ、頼むよ。ルーク。」
「へいへい、任せとけって。」
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「でも、これで残りはあと一つ……次で最後の試練ね。」
レイナが冷静に言い、杖を軽く突いた。
「ここまでこれたのはみんなのおかげだ。」
カイルが全員を見渡しながら言った。
「これが最後の試練になる。次の準備は万全に整えよう。」
全員が深く頷き、それぞれの思いを胸に次の試練への決意を新たにした。
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