誓いの嘘と永遠の光

魔王討伐編

7

ローデリア帝国の大都市カザール。その街並みは、パーティがこれまでに訪れた小さな村々とは比べ物にならないほど賑やかだった。石畳の通りには商人たちが立ち並び、活気ある掛け声が響いている。風に乗ってパン屋や果物屋から香ばしい匂いが漂い、耳には楽器を奏でる音が微かに届いてくる。

「……人が多いな。」

グレンが周囲を見回しながら低く呟いた。その表情には警戒心が滲んでいる。

「そりゃそうだろ、これだけの商人と冒険者が集まるんだからな。」

ルークが荷物を片手に軽口を叩く。

「まあ、あんまり財布を見せびらかすなよ？　この辺りはスリも多いらしいからな。」

「スリなんて、気をつけてれば問題ないわ。」

レイナが冷静に言い放つ。その目は市場の人混みを鋭く観察していた。

「それにしても、カザールに来たのは正解だったね。」

カイルが笑顔で言いながら街を見渡した。

「ここなら紅蓮の砦に向かうための準備も十分整えられそうだ。」

「砦に行く前に、何を揃えるの？」

エリスが少し首をかしげる。

「まずは高温対策の装備だよ。あの砦は灼熱の環境らしいからね。普通の防具じゃ耐えられない。」

カイルの言葉に全員が頷いた。紅蓮の砦は、次なる目的地としてすでに決まっていた。魔王討伐に必要な「魔王城の鍵」の一つがそこに隠されているという情報を手に入れてから、全員が覚悟を決めていた。

「それじゃあ、手分けして必要なものを集めようか。」

カイルの提案で、パーティはそれぞれ役割を決めて行動を開始した。

カイルとエリスは鍛冶屋へ向かい、高温に耐えられる防具の調達を担当した。鍛冶屋の店主とのやり取りの中で、火山地域で特に効果を発揮する防具を見つけることができた。

「このマント、軽いのに熱を遮断してくれるなんて便利ね。」

エリスが満足そうに言うと、カイルも頷いた。

「これで少しは安全に近づけるね。」

一方、ルークとグレンは食糧や水などの消耗品をまとめて購入した。道中での生存を考える上で、水分の確保は最重要課題だった。

「さすが大都市、品揃えが良いな。」

ルークが買い物袋を持ちながら嬉しそうに言うと、グレンは無言で頷きながら袋を肩に担いだ。

「重いものは任せろ。」

「いやいや、それはありがたいけどさ。ちょっとは楽しそうにしてくれよ？」

グレンは軽く肩をすくめただけだった。

そして、レイナは単独で薬屋を訪れていた。火山地域に向かう以上、熱中症や火傷に備える薬は欠かせない。薬屋の老女から特製の冷却薬を受け取ると、レイナは静かに礼を言った。

「これで足りるわね……」

彼女は購入した薬草と小瓶をバッグに収めながら街の中心に戻る。その目は人混みを観察しているようでいて、どこか遠くを見つめていた。

全員が再び集合したのは、冒険者ギルドの前だった。広い建物の中では、冒険者たちが賑やかに情報を交換している。

「準備も終わったし、砦に向かう準備は万端だね。」

カイルが笑顔で言うが、すぐにギルドの掲示板に目を向けた。

「……ただ、この辺りに火山地帯に関する情報があるかもしれない。」

彼はそう言いながら、掲示板の情報を確認し始めた。その中に、「紅蓮の砦周辺で行方不明者が続出している」という内容の依頼が目に留まる。

「この依頼……紅蓮の砦に向かうついでに確認できるかもしれない。」

「行方不明者って、また面倒なことに巻き込まれるんじゃないのか？」

ルークが渋い顔をする。

「でも、砦周辺で起きているなら無視できないわ。」

エリスが落ち着いた声で答える。

「それに、紅蓮の砦についての新しい情報が手に入るかもしれない。」

カイルが決意を込めた声で言うと、全員が黙って頷いた。

「わかったよ。ついでに解決しちゃおうぜ。」

ルークが肩をすくめてそう言い、パーティは新たな目的を胸に旅立つ準備を整えた。