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1章 修道女を目指します

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翌朝、私は食堂に向かう途中で、普段と違う空気を感じ取った。廊下を行き交う使用人たちの視線が、まるで私に集中しているように思える。

「……お嬢様、大丈夫でしょうか?」

聞こえるか聞こえないかの微かな声。振り返ると、すぐに沈黙が訪れる。

一体どうしたのだろう。

考え込んでいるうちに食堂に到着すると、家族全員がすでに席に着いていた。普段なら、父が新聞を読みながら何気なく話を始めるのが日常だ。しかし、今日の朝食は違っていた。皆が私に注目している。

「おはようございます」

私が椅子に座ると、父が不自然に咳払いをした。

「リリアナ、その……昨日のことだが」

「ええ、修道女になりたいというお話ですか?」

私はにっこりと微笑んだ。それを見た父の顔色がさらに曇る。

「いや、そんな簡単な話ではない。リリアナ、一体どうして急にそんなことを言い出したんだ?」

「急ではありません。わたくしなりに考えた末の結論です」

私は落ち着いた声で答えた。それが家族に安心感を与えるだろうと信じていたからだ。しかし、母は涙を浮かべて声を震わせた。

「そんなことを言うなんて……本当に、何があったの?」

「何もありません。お母様、ご安心ください」

その言葉が完全に逆効果だったのだと気づいたのは、次の瞬間だった。

母は突然席を立ち、私の肩を掴むと真剣な目で問い詰めてきた。

「リリアナ、正直に言いなさい。ルシアン殿下があなたに何か酷いことを言ったのね?それとも、誰かがあなたを傷つけたの?」

「そんなこと、ありません」

私は笑顔を保とうとしたが、母の目は疑念に満ちている。そこに割って入ったのは弟だった。

「姉さん、もし殿下が何かしたなら、俺が絶対に許さないから!」

「本当に、何もされていませんわ!」

声を少し張り上げてしまい、場が静まり返る。

「……なぜ、誰もわたくしの話を信じないの?」

私はため息をついて席を立った。

「少し空気を吸ってきます」

その場を離れることで、何とかこの場の空気を和らげたいという意図だった。けれど、家族が何を思っているのかを考えると、頭が痛くなった。


庭園に向かう途中、使用人の女性たちが話しているのを耳にした。

「お嬢様、最近ずいぶんとお疲れのようね……」

「ええ、何か深刻なことがあったのかしら」

「きっと殿下と何かあったのよ。可哀想に……」

思わず立ち止まる。彼女たちは私に気づいておらず、遠くからひそひそと噂をしている。

「お嬢様は本当にお優しい方だから……きっと、耐えていらっしゃるのよ」

「だから修道女になりたいって?信じられないけど、そう考えると辻褄が合うわね」

「何としても支えなくちゃ……」

私は呆然と立ち尽くした。まさか、こんなにも勝手な憶測が広まっているとは思わなかった。何とか弁明しようと一歩踏み出したところで、今度は正面から声をかけられた。

「リリアナ!」

振り返ると、ルシアンがこちらに向かって歩いてきていた。その顔には、普段見せる冷静さではなく、どこか焦りの色が浮かんでいる。

「……どうして、殿下がここに?」

私が尋ねると、彼は真剣な目で言葉を続けた。

「君が修道女になると聞いて、急いで来た」

「そんなに慌てる必要などありませんわ」

私は手を振り、笑顔を見せる。しかし、彼は眉をひそめて私を見つめた。

「本当に何も問題がないのか?」

「ありません」

きっぱりと言い切ると、ルシアンはため息をついた。

「ならば良い。ただ……修道女になることが君の幸せだとは思えない」

その言葉に、私は少しだけ心が揺らいだ。
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