幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第2部

閑話不器用な優しさ

エリオットの呪いが解けてから数日後の穏やかな午後、ミユは城内の庭園の隅で一人座り込み、小さな机を前に何かを書いていた。薄緑色の草の上に広げられた紙には、可愛らしい文字が並んでいる。

「何をしているんだ？」

低く穏やかな声が彼女の背後から響いた。

ミユが振り返ると、真面目な表情のライアンが立っていた。夕方の柔らかな光に照らされ、鎧の光沢が控えめに輝いている。

「あ、ライアンさん……！」

ミユは驚きつつも微笑みを浮かべた。

「エリオットさんにお礼の手紙を書いているんです。」

「お礼の手紙？」

ライアンは眉を少し上げ、近づいて彼女の横に立つ。

「エリオットに？」

「はい。エリオットさんが呪いから解放されたとき、とても感謝してくれたんです。それが嬉しくて、何かお返ししたくなって……」

ミユは照れたように小さく笑いながら、再び手元の紙に目を戻した。

ライアンはしばらく黙ったまま、彼女の手元を見つめていたが、やがて小さく頷いた。

「君らしいな。」

「えっ？」

ミユは手を止め、驚いた表情で顔を上げた。

「君は自分のしたことをそれほど大きなことだと思っていないだろう。だが、君がしたことは確かにエリオットを救ったんだ。その上でお礼を返そうとするなんて、君らしい優しさだと思う。」

ライアンの声はどこか穏やかで、静かな敬意が込められていた。

「そうでしょうか……」

ミユは頬を赤くし、恥ずかしそうに笑った。

「でも、私はただ皆さんに助けてもらってばかりだから……少しでもお返しをしたいだけなんです。」

「君はそう思っているかもしれないが、もう君は守られるだけの存在ではない。」

ライアンは静かに言いながら、彼女を見下ろした。

「むしろ、君は私たちを支えてくれている。」

ミユはその言葉に目を見開き、驚いたようにライアンを見上げた。

「私が……支えている……？」

「ああ。エリオットも、ルイス様も、君がいることでどれだけ救われているか気づいているはずだ。私もそうだ。君がいるだけで、私たちはこれまで以上に前を向ける。」

ライアンは少し視線を逸らし、照れ隠しのように咳払いをした。

ミユはライアンの言葉に戸惑いながらも、小さく微笑んだ。

「ありがとうございます……でも、私にはまだできないことがたくさんあります。」

「それでいい。できることを増やしていけばいいだけの話だ。」

ライアンは真剣な目で彼女を見つめた。

「君はそのために努力を惜しまない人間だ。それが君の一番の強みだと思う。」

その言葉にミユは少し感動し、小さな声で呟いた。

「ライアンさんは……本当に優しいですね。」

ライアンは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの真面目な表情に戻った。

「優しいかどうかは分からない。ただ、私の役目は仲間を支えることだ。それだけのことだよ。」

「でも、その言葉で私も救われました。」

ミユはライアンを見上げ、はにかむように笑った。

ライアンはその笑顔に一瞬戸惑いながらも、静かに微笑んで「そうか。それなら、私も少しは役に立てたということだな」と小さく頷いた。

二人の間に穏やかな沈黙が流れる中、ミユは再び手紙を書き始めた。その小さな姿を見守りながら、ライアンはそっと空を見上げた。

「小さな体で本当にたくさん頑張っているな……」

彼は心の中でそう呟き、彼女に再び目を向けた。

「困ったことがあれば、また声をかけるといい。」

「はい！ありがとうございます、ライアンさん。」

ミユは嬉しそうに返事をし、再び紙に向かう。

ライアンは彼女の小さな背中にそっと視線を向けたまま、静かにその場を後にした。彼の胸には、ミユがたどり着く未来への期待が確かに宿っていた。