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第1部
閑話 真面目な騎士と幼い少女
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エルフィナスに来て間もない頃、ミユは城内を歩き回るのがささやかな楽しみだった。広い廊下や緑豊かな庭園、新しい景色に心を躍らせる反面、その広大さにたびたび迷子になっていた。
その日も、彼女は知らない廊下で足を止め、あたりをきょろきょろと見渡していた。ここがどこなのか分からず、どう戻ればいいのか検討もつかない。やがて疲れ果てて床にしゃがみ込んでしまう。
「こんなところで何をしているんだ?」
突然の声にミユが顔を上げると、そこには騎士の鎧を纏ったライアンが立っていた。彼は片眉を上げながらも、どこか優しい表情で彼女を見下ろしている。
「あの……迷子になっちゃって……」
ミユは小さな声で答え、恥ずかしそうに視線を落とした。
ライアンはため息をつきながら膝を折り、彼女と視線を合わせた。
「それは困ったな。城の中は広いから迷うのも無理はない。私でよければ案内しようか?」
「えっ、いいんですか?」
ミユの瞳が驚きと嬉しさで輝いた。
「もちろんだ。騎士として、困っている子どもを放っておくわけにはいかないからな。」
ライアンは口元を少し緩めると、彼女に手を差し出した。
「さあ、立てるか?」
ミユは彼の手を小さな両手で掴み、立ち上がると、少し気を遣うように尋ねた。
「でも、ライアンさんはお忙しいんじゃないですか?」
「まあ、忙しいといえば忙しいが……」
ライアンは静かに笑って首を振った。
「私の役目は人を守ることだ。それに、君のように小さい子を困らせたままにしておくのは、騎士として恥ずべきことだからな。」
「小さい子……」
ミユは思わず口をつぐみ、ほんのり頬を赤らめた。
「それで、どこへ行こうとしていたんだ?」
ライアンは体を軽く前に傾け、彼女を見つめた。
「えっと……お庭を見に行こうと思っていたんですけど、途中で分からなくなっちゃって……」
ミユは申し訳なさそうに答えた。
「なるほどな。庭か。では、まず庭への道を教えるところから始めよう。」
ライアンは立ち上がると、ゆっくりと手招きをした。
「ついてきなさい。」
ミユは小さく頷き、彼の後ろをついていく。少し速いライアンの歩調に合わせるように小さな足を急がせた。
「エルフィナスの城は迷いやすいからな。」
歩きながら、ライアンは肩越しに振り返った。
「実を言うと、私も初めて来たときは迷ったことがあるんだ。」
「ライアンさんも迷ったんですか?」
ミユは目を丸くした。
「ああ、最初はどこを歩いているのかさっぱりだったよ。」
ライアンは少し苦笑しながら答えた。
「でも、何度も歩いているうちにだんだん慣れるものだ。それに、この城は迷うだけの価値がある。見どころがたくさんあるからな。」
「見どころ……」
ミユはその言葉に反応し、目を輝かせた。
「例えば、どんなところですか?」
ライアンは一瞬考え込むようにし、指で顎をなでながら言った。
「そうだな……庭園にある噴水や、図書室の大きな本棚。それから、北の塔から見る景色も素晴らしい。あの場所から見る星空は格別だ。」
「星空……素敵そうですね!」
ミユは目を輝かせたまま、少し夢見るような表情を浮かべた。
「いつか見に行くといい。だが、そのためにはまず迷子にならないようにしないとな。」
ライアンは冗談めかして言い、ミユは少し頬を膨らませた。
「努力します……」
その素直な返事に、ライアンは再び柔らかな笑みを浮かべた。
「それでいい。君は頑張り屋だからな。迷ったときは、こうやって誰かに頼るのも大切だ。」
「……ありがとうございます。」
ミユは少しはにかみながら答えた。
やがて庭園が見えてくると、ライアンは手を広げて示した。
「さあ、ここが庭だ。どうだ?探していた場所にたどり着けたな。」
「はい!ありがとうございます!」
ミユは満面の笑みで彼にお礼を言った。
「これからも何か困ったことがあったら、私に声をかけるといい。」
ライアンは軽く手を挙げ、去ろうとしたが、ミユが小さな声で呼び止めた。
「あの……ライアンさんって、とても優しいですね。」
彼は少し驚いたように振り返ったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「優しいかどうかは分からないが、君がそう思ってくれるなら嬉しい」
彼の言葉にミユは微笑み、再び庭の方へと歩き始めた。ライアンはその小さな背中を見つめ、少しだけ目を細めた。
「小さいけれど、強い子だな……」
真面目な騎士が小さな少女に感じた温かい感情は、その後も彼の胸に残り続けた。
その日も、彼女は知らない廊下で足を止め、あたりをきょろきょろと見渡していた。ここがどこなのか分からず、どう戻ればいいのか検討もつかない。やがて疲れ果てて床にしゃがみ込んでしまう。
「こんなところで何をしているんだ?」
突然の声にミユが顔を上げると、そこには騎士の鎧を纏ったライアンが立っていた。彼は片眉を上げながらも、どこか優しい表情で彼女を見下ろしている。
「あの……迷子になっちゃって……」
ミユは小さな声で答え、恥ずかしそうに視線を落とした。
ライアンはため息をつきながら膝を折り、彼女と視線を合わせた。
「それは困ったな。城の中は広いから迷うのも無理はない。私でよければ案内しようか?」
「えっ、いいんですか?」
ミユの瞳が驚きと嬉しさで輝いた。
「もちろんだ。騎士として、困っている子どもを放っておくわけにはいかないからな。」
ライアンは口元を少し緩めると、彼女に手を差し出した。
「さあ、立てるか?」
ミユは彼の手を小さな両手で掴み、立ち上がると、少し気を遣うように尋ねた。
「でも、ライアンさんはお忙しいんじゃないですか?」
「まあ、忙しいといえば忙しいが……」
ライアンは静かに笑って首を振った。
「私の役目は人を守ることだ。それに、君のように小さい子を困らせたままにしておくのは、騎士として恥ずべきことだからな。」
「小さい子……」
ミユは思わず口をつぐみ、ほんのり頬を赤らめた。
「それで、どこへ行こうとしていたんだ?」
ライアンは体を軽く前に傾け、彼女を見つめた。
「えっと……お庭を見に行こうと思っていたんですけど、途中で分からなくなっちゃって……」
ミユは申し訳なさそうに答えた。
「なるほどな。庭か。では、まず庭への道を教えるところから始めよう。」
ライアンは立ち上がると、ゆっくりと手招きをした。
「ついてきなさい。」
ミユは小さく頷き、彼の後ろをついていく。少し速いライアンの歩調に合わせるように小さな足を急がせた。
「エルフィナスの城は迷いやすいからな。」
歩きながら、ライアンは肩越しに振り返った。
「実を言うと、私も初めて来たときは迷ったことがあるんだ。」
「ライアンさんも迷ったんですか?」
ミユは目を丸くした。
「ああ、最初はどこを歩いているのかさっぱりだったよ。」
ライアンは少し苦笑しながら答えた。
「でも、何度も歩いているうちにだんだん慣れるものだ。それに、この城は迷うだけの価値がある。見どころがたくさんあるからな。」
「見どころ……」
ミユはその言葉に反応し、目を輝かせた。
「例えば、どんなところですか?」
ライアンは一瞬考え込むようにし、指で顎をなでながら言った。
「そうだな……庭園にある噴水や、図書室の大きな本棚。それから、北の塔から見る景色も素晴らしい。あの場所から見る星空は格別だ。」
「星空……素敵そうですね!」
ミユは目を輝かせたまま、少し夢見るような表情を浮かべた。
「いつか見に行くといい。だが、そのためにはまず迷子にならないようにしないとな。」
ライアンは冗談めかして言い、ミユは少し頬を膨らませた。
「努力します……」
その素直な返事に、ライアンは再び柔らかな笑みを浮かべた。
「それでいい。君は頑張り屋だからな。迷ったときは、こうやって誰かに頼るのも大切だ。」
「……ありがとうございます。」
ミユは少しはにかみながら答えた。
やがて庭園が見えてくると、ライアンは手を広げて示した。
「さあ、ここが庭だ。どうだ?探していた場所にたどり着けたな。」
「はい!ありがとうございます!」
ミユは満面の笑みで彼にお礼を言った。
「これからも何か困ったことがあったら、私に声をかけるといい。」
ライアンは軽く手を挙げ、去ろうとしたが、ミユが小さな声で呼び止めた。
「あの……ライアンさんって、とても優しいですね。」
彼は少し驚いたように振り返ったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「優しいかどうかは分からないが、君がそう思ってくれるなら嬉しい」
彼の言葉にミユは微笑み、再び庭の方へと歩き始めた。ライアンはその小さな背中を見つめ、少しだけ目を細めた。
「小さいけれど、強い子だな……」
真面目な騎士が小さな少女に感じた温かい感情は、その後も彼の胸に残り続けた。
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