幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第2部

閑話 童話の王子様

エリオットの呪いが解けてから数日後、彼はすっかり元の快活な姿を取り戻していた。城内の庭でのひととき、ルイスとライアン、ミユとエリオットの4人は並んでベンチに腰を下ろし、穏やかな午後の時間を過ごしていた。

ミユがエリオットに向かってにっこりと微笑む。

「エリオットさんが元気になって、私もほっとしました。」
「おや、ありがとう。」

エリオットは軽く笑って片手を挙げた。

「まったく、君のおかげで助かったよ。ミユの光の力には、さすがの俺も感謝しかない。」

ルイスが頷きながら冗談めかして言った。

「エリオット、お前が真面目に感謝するなんて、珍しいな。」

「まあな、これは本当に一生に一度の恩だ。」

エリオットは芝居がかった口調で、胸に手を当てて深々と頭を下げた。

ミユはそんな彼を見て笑い、「そんな大げさな……私がしたことなんて、小さなことです。」と控えめに言った。

「いやいや、小さくなんかないさ。むしろ君は俺の命の恩人だ。」

エリオットは少し得意げに言いながら、突然ベンチから立ち上がった。そして、庭に咲く花を一輪摘むと、膝をついてミユの前に差し出した。

「だから、俺は感謝の気持ちを込めて、君にこれを贈りたい。そしてついでに……」

彼はわざとらしく咳払いをして、真剣な顔を作る。

「俺は君を命の恩人以上に大切に思うようになった。君がもしよければ、俺の姫になってくれないか？」

その言葉に、ミユは一瞬何が起こったのか分からない様子で目をぱちぱちと瞬かせた。

「えっ……？そ、それは……」

真剣な顔で膝をついているエリオットを見つめ、彼女はますます混乱してしまう。隣でその様子を見ていたルイスが、思わず吹き出してしまった。渋面のライアンが苦言を呈する。

「エリオット、冗談のつもりならほどほどにしろよ。ミユが本気にしたらどうするんだ？」
「いや、ライアン、これは本気だ。」

エリオットは振り返りながら、どこか芝居がかった口調で言い返した。

「俺のような貴族の次男坊でも、王子様役ぐらいは似合うと思わないか？」

その場面にルイスが苦笑を浮かべながら口を挟む。

「エリオット、お前の芝居がかった王子様っぷりが堂に入っているのは認めるが、ミユにそういうのをぶつけるのは刺激が強すぎるぞ。」

「そ、そうです！そんな、急に……！」

ミユは顔を真っ赤にしながら、どう応じていいのか分からず、あたふたとするばかりだった。

その様子を見たエリオットは、すぐに表情を崩して朗らかに笑い出した。

「ああ、ごめんごめん！冗談だよ、ミユ。君が前に話してくれた童話の王子様の真似をしただけさ。」

「そ、そうだったんですか……！」

ミユはようやく安堵の息を吐きながら、エリオットを睨むように見上げた。

「でも、君の反応は本当に可愛らしかったよ。」

エリオットはいたずらっぽく笑いながら、摘んだ花をそっとミユの手に置いた。

「これだけは本気だ。君に似合うと思ったんだ。」

ミユは顔を赤らめながらも、花を手に取って小さく微笑んだ。

「ありがとうございます……でも、驚かせすぎです。」

「それが俺の持ち味だからな！」

エリオットが朗らかに答えると、隣でライアンとルイスもようやく笑みを浮かべた。

「本当に変わらないな、お前は。」

ライアンが肩をすくめると、ルイスも静かに笑いながら頷いた。

「まあ、これがエリオットらしいところだな。」

「だろう？」

エリオットは胸を張りながら再びベンチに腰を下ろした。ミユも照れたように笑い、4人はいつもの和やかな空気に包まれた。

庭に降り注ぐ穏やかな陽射しの下、笑い声がいつまでも響いていた。