幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

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第3部

30章森の中の侵入者

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聖域での使命を終え、試練の森を抜けるために歩を進めていたミユとルイスは、木々の間に漂う不穏な気配を感じ取った。足音が微かに近づいてくる。

「誰かいる。」

ルイスが剣に手をかけ、鋭く森の奥を見つめた。

ミユもその気配に気づき、声を潜めながらルイスの後ろに控えた。

「まさか、魔物が……?」

次の瞬間、木々の間から現れたのは一人の男性だった。その姿を見て、ミユは驚きの声を漏らした。

「セシル殿下……!」

セシル殿下はルイスたちに気づくと、すぐさま目を細め、軽蔑の色を浮かべた瞳で二人を見つめた。

「まさかここでお前たちと会うとはな……ルイス王子、そしてその……妙な女。」

その言葉にミユが少し身を竦めると、セシル殿下の視線は鋭くミユを刺した。

「お前……どうしてそんな姿をしている?普通じゃないだろう。気味が悪い。」

彼の言葉には明らかな敵意が込められていた。

ミユは一瞬その言葉に息を詰まらせたが、すぐに表情を引き締め、毅然と彼を見返した。

「私は、自分の力を受け入れた結果、この姿になりました。私にその姿を与えてくださったのは、女神様です。」

「女神だと?」

セシル殿下は嘲るように鼻で笑った。

「そんな力など、所詮は自分を飾り立てるためのものだろう。」

「違います。」

ミユは強い声で答えた。

「この力は、人を傷つけるためではなく、誰かを守り、導くためのものです。」

その言葉にセシル殿下は一瞬だけ動揺したようだったが、すぐに剣を抜き、鋭い目つきで睨みつけた。

「綺麗事を……力がなければ、この国では生き残れない。それを分かっていないのはお前の方だ!」

ルイスが剣を構え、セシル殿下に一歩踏み出そうとした瞬間、ミユが彼の腕を掴んだ。

「ルイス様、待ってください!」

ルイスは彼女を振り返り、眉をひそめた。

「ミユ、彼は……」

「話をさせてください。」

ミユはルイスを制し、セシル殿下の方を向き直った。その瞳には強い意志が宿っていた。

「セシル殿下、なぜそんなに力を求めるのですか?」

ミユの言葉に、セシル殿下は動揺を隠すように嘲笑を浮かべた。

「なぜだと?力がなければ、この国では居場所などないからだ!誰も僕を認めない。兄のアレクシスにすら、僕は疎まれる存在だったんだ!」

その叫びに、ミユは静かに首を振った。

「本当にそうでしょうか。殿下が望んでいるのは力ではなく、誰かと一緒にいたいという気持ちではないですか?」

「何を言っている!」

セシル殿下の声が荒くなる。

「僕はただ、力を手に入れたいだけだ!」

「いいえ。」

ミユはさらに一歩踏み出し、落ち着いた声で続けた。

「力で周りを制することではなく、誰かと共に笑い合い、支え合うことを、本当は求めているのではありませんか?」

ミユはそっと手をかざし、自分の内に宿る光の力を呼び起こした。

「私の力で、あなたが本当に求めているものを思い出させることができるかもしれません。」

柔らかな光がミユの手から広がり、セシル殿下を包み込んだ。その光が彼の心に触れた瞬間、彼の瞳に遠い過去の記憶が映し出された。

そこには幼い頃のセシル殿下とアレクシス殿下の姿があった。二人は庭で笑いながら遊び、アレクシスが弟を守るように手を差し伸べる場面が次々に映る。

「兄さん……」セシル殿下の声が震えた。「僕をこんなにも気にかけてくれていたのか……僕は……」

ミユは光を収め、静かに語りかけた。

「セシル殿下、力ではなく、あなたが大切にしたい人たちとの絆を思い出してください。それが、あなたが本当に求めているものではありませんか?」

セシル殿下は剣を地面に落とし、膝をついた。彼の肩が小さく震えていた。

「僕は……何をしていたんだ。兄さんに認めてもらいたいだけだったのに……それを忘れて、ただ力にすがっていた……」

ルイスが剣を収め、彼の前に歩み寄った。

「セシル殿下、まだ遅くはない。戻りたいと思うなら、やり直す道は必ずある。」

「……戻れるのか、僕に……」

セシル殿下が涙を拭いながら問いかけた。

「君がその意志を示せばな。」

ルイスの言葉に、セシル殿下は小さく頷いた。

立ち上がったセシル殿下は、改めてミユに深く頭を下げた。

「君の力がなければ、僕は堕ちたままだった。本当にありがとう。」

「殿下ならやり直せます。どうか自分を信じてください。」

ミユは穏やかな笑みで応えた。

セシル殿下が森を去った後、ルイスはミユに優しく語りかけた。

「君の光は人を救う力だ。僕も改めてそう思ったよ。」

「私が救ったわけではありません。セシル殿下が自分で決意されたんです。」

ミユはそう答えながらも、心の中で小さな誇りを感じていた。

二人は再び森を抜け、エルフィナスへ向けて歩み始めた。その背中には、確かな希望が宿っていた。
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