幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第3部

29章聖域の光

聖域への入口を越えた瞬間、ミユとルイスの周囲は柔らかな光に包まれた。空には六つの星が瞬き、道は大理石のように輝いている。花々は風に揺れ、どこか懐かしい温もりを感じさせた。

「ここが……聖域……」

ミユは息を呑み、ルイスに向けて小さく呟いた。

ルイスもまた、その壮大な光景に圧倒されていた。

「王家に伝わる伝承通りだ。ここが女神たちの意志が宿る場所……」

二人はお互いに目を合わせると、小さく頷き合い、光の道を慎重に進み始めた。歩くたびに足元に咲く花々が揺れる様子は、まるで道そのものが二人を歓迎しているようだった。

道の終わりにたどり着くと、広場の中央に神秘的な祭壇がそびえていた。その祭壇の上で、六つの星がさらに輝きを増し、光が次第に人の形を取っていく。

「ようこそ、ミユ。そしてルイス。」

柔らかな声が空間に響き渡り、光の中から現れたのは六柱の女神たちだった。それぞれの姿は優雅で神々しく、調和の女神と呼ばれる存在が中央に立ち、二人を見下ろして微笑んでいた。

「あなたがミユ。この世界に新たな光をもたらした者。」

調和の女神が穏やかな声で語りかける。

「そして、ルイス。あなたはその光を支える者。」

二人はその神々しい声に圧倒され、無意識のうちに深く頭を下げた。

「ミユ、あなたに問います。あなたはなぜこの世界に来たのか、自分の答えを見つけましたか？」

ミユは驚きながらも視線を上げ、女神に問い返した。

「私は……私がこの世界に呼ばれた理由をずっと考えていました。でも、正直に言うと、まだはっきり分かりません。」

「それでいいのです。」

調和の女神は微笑みながら、彼女に近づいた。

「あなたは今、その答えを探している最中。それ自体が、あなたがここに呼ばれた理由でもあります。」

調和の女神がミユの前に立ち、手を差し伸べる。

「しかし、あなたにはもう一つ、乗り越えるべきことがありました。」

「それは……？」

ミユは戸惑いながら尋ねた。

「あなた自身の成長です。」

女神は彼女の目を優しく見つめて語り続けた。

「あなたはこの世界に来た時、幼い姿になりました。それはあなた自身が自分の力や価値を信じきれなかったからです。」

ミユは息を呑み、思わず視線を伏せた。自分がずっと感じていた不安や、仲間たちに迷惑をかけたのではないかという恐れが胸の奥で蘇る。

「ですが、あなたはその期待に応えました。」

調和の女神はさらに微笑みを深めた。

「あなたは数々の試練を乗り越え、仲間と共に成長し、自分自身の力を信じることを学びました。」

ミユの瞳に涙が浮かぶ。

「私が……期待に応えた……？」

「はい、あなたは見事にそれを成し遂げたのです。」

女神が手を翳すと、ミユの身体が光に包まれ始めた。

「今こそ、あなた自身に相応しい姿を授けましょう。」

柔らかな光が彼女を包み、ミユの身体は徐々に変化していった。幼さの残る姿が成長し、彼女の内面の強さを映し出すような美しさを宿した女性の姿へと変わっていく。

光が収まると、ミユは驚きながら自分の手を見つめた。

「これが……私……？」

調和の女神がもう一度手を翳し、ミユの目の前に美しい衣装を生み出した。それは動きやすさと優雅さを兼ね備えたデザインで、どこか神聖な雰囲気を漂わせていた。

「これは、あなたへの贈り物です。この衣装は、あなたの新たな力を支えるものとなるでしょう。」

女神は微笑みながらそれを差し出した。

ミユは震える手でその衣装を受け取り、深く頭を下げた。

「ありがとうございます……私、これからも頑張ります。」

「そうです。これからもあなた自身の力を信じ、この世界を導いていくのです。」

女神の言葉に、ミユは胸を張って頷いた。

衣装を纏い、振り返ったミユを見て、ルイスは一瞬言葉を失った。目の前に立つ彼女は、幼さを脱ぎ捨て、自信と強さを宿した美しい女性となっていた。

「ミユ……君なのか？」

彼の声には驚きと感動が滲んでいた。

「はい、私です。」

ミユは恥ずかしそうに微笑み、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

ルイスはしばらく彼女を見つめた後、ふっと優しい笑みを浮かべた。

「本当に強くなったな。僕が支えなければと思っていたけれど、いつの間にか、僕の方が支えられていたのかもしれない。」

「そんなことはありません。ルイス様がいてくれたから、私はここまで来られました。」

ミユの言葉に、ルイスは目を細めながら微笑んだ。

女神たちは静かに微笑みながら語りかける。

「結晶は本来の場所へと戻りました。しかし、これからの世界を守るのは、私たちではなく、あなたたち人間の役目です。」

ミユは深く頭を下げ、女神たちに感謝を伝えた。

「ありがとうございました。私たちが、この世界を良くしていきます。」

女神たちは穏やかに微笑みながら光と共に消えていった。

ルイスがそっとミユに手を差し出す。

「さあ、帰ろう。僕たちの国に。」

ミユはその手を取りながら、大きく頷いた。

「はい。これからもルイス様と一緒に、頑張ります。」

二人は輝く光に包まれた聖域を後にし、新たな未来へと歩み始めた。