68 / 74
第3部
26章新たな使命
しおりを挟む
セシル王子との激闘を終え、砦の残骸には冷たい風が吹き抜けていた。ミユは光の力で暴走する結晶を沈めることに成功したが、手の中の破片から微かに残る不穏な感覚を覚えながら、無言でそれを見つめていた。
「これで本当に終わったのか?」
ライアンが剣を収めながら、まだ周囲を警戒する。
「終わりではない。」
ルイスの声は冷静だった。
「結晶の力を封じるだけでは十分ではない。これを聖域に返さなければならない。」
その言葉にミユが顔を上げると、彼の瞳は遠くを見据えていた。彼の決意を感じ取った彼女は、小さく頷いた。
王宮に戻った一行は、戦いで疲労した身体を癒す間もなく、結晶の行く末について話し合っていた。ルイスの提案を聞いた仲間たちは、一様に驚きを隠せない様子だった。
「聖域へ返す、か……。確かにその方が安全だが、あの場所の存在を知っている者などごく僅かだ。」
セドリック卿が重々しく口を開く。
「王家の記録によると、聖域は選ばれた者しか入れない特別な場所だ。」
ルイスは広げた古い地図を指しながら説明を続けた。
「そして、その場所に辿り着くためには六つの星の伝承に従う必要がある。」
エリオットが興味深そうに地図を覗き込んだ。
「六つの星の伝承……それが道しるべというわけか。」
ミユはルイスの説明を聞きながら、胸の奥で静かな決意を固めていた。彼女はそっと結晶の破片を手に取り、静かに口を開いた。
「私が行きます。この結晶を、女神様の元にお返ししなければ。」
その言葉にルイスが少し驚いたように彼女を見つめたが、すぐに優しい微笑みを浮かべた。
「その役目なら、君が最適だ。」
「でも、ミユ一人では危険すぎる!」
ライアンが思わず声を荒げた。
「もちろん、一人では行かせない。」
ルイスが静かに答える。
「僕も一緒に行く。王家の者として、この旅を見届ける責任がある。」
セドリック卿とエリオットは一瞬視線を交わした後、軽く頷いた。ライアンは不満げだったが、ルイスの目を見てそれ以上反論するのを諦めた。
旅立ちの日、朝の光が静かに城を照らしていた。門の前で集まった仲間たちは、それぞれの思いを胸にルイスとミユを見送っていた。
「必ず無事に帰ってきてください。」
セドリック卿は彼らの肩に手を置き、力強く言葉を送る。
「楽しい旅になるといいね!」
エリオットはいつものように軽口を叩くが、その笑みの裏にはどこか寂しさが滲んでいた。
「気をつけてください。僕たちはここで待っています。」
ライアンは真剣な表情で二人を見つめ、深く頭を下げた。
ミユはその一人ひとりに感謝の言葉を伝えながら、最後にルイスの方を向いた。
「準備は整いましたか?」
「もちろんだ。」
ルイスが頷くと、二人は馬車に乗り込み、門が静かに開いた。
彼らの姿が城の外へと消えていく中、仲間たちはその背中を見送りながら、それぞれの心に祈りを抱いていた。
馬車が揺れる中、ミユは窓から外の景色を眺めていた。広がる草原、風に揺れる木々、そして遠くに見える山々。そのすべてが彼女にとってはまだ馴染みのない光景だった。
「どうした、ミユ?」
隣に座るルイスが声をかける。
「なんだか、不思議な気分です。この世界に来たばかりの頃は、何もかも怖かったのに……今は、この景色が少しだけ安心感をくれる気がします。」
ミユは小さく微笑んだ。
「それは君が強くなった証拠だよ。」
ルイスは彼女を優しく見つめた。
ミユは少し驚いたように彼を見上げた。
「私、強くなれたんでしょうか……?」
「もちろんだ。」
ルイスは自信に満ちた声で答えた。
「君はもう、一人で抱え込む必要はない。僕たちがいる。僕がいる。」
その言葉に、ミユは少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
「これで本当に終わったのか?」
ライアンが剣を収めながら、まだ周囲を警戒する。
「終わりではない。」
ルイスの声は冷静だった。
「結晶の力を封じるだけでは十分ではない。これを聖域に返さなければならない。」
その言葉にミユが顔を上げると、彼の瞳は遠くを見据えていた。彼の決意を感じ取った彼女は、小さく頷いた。
王宮に戻った一行は、戦いで疲労した身体を癒す間もなく、結晶の行く末について話し合っていた。ルイスの提案を聞いた仲間たちは、一様に驚きを隠せない様子だった。
「聖域へ返す、か……。確かにその方が安全だが、あの場所の存在を知っている者などごく僅かだ。」
セドリック卿が重々しく口を開く。
「王家の記録によると、聖域は選ばれた者しか入れない特別な場所だ。」
ルイスは広げた古い地図を指しながら説明を続けた。
「そして、その場所に辿り着くためには六つの星の伝承に従う必要がある。」
エリオットが興味深そうに地図を覗き込んだ。
「六つの星の伝承……それが道しるべというわけか。」
ミユはルイスの説明を聞きながら、胸の奥で静かな決意を固めていた。彼女はそっと結晶の破片を手に取り、静かに口を開いた。
「私が行きます。この結晶を、女神様の元にお返ししなければ。」
その言葉にルイスが少し驚いたように彼女を見つめたが、すぐに優しい微笑みを浮かべた。
「その役目なら、君が最適だ。」
「でも、ミユ一人では危険すぎる!」
ライアンが思わず声を荒げた。
「もちろん、一人では行かせない。」
ルイスが静かに答える。
「僕も一緒に行く。王家の者として、この旅を見届ける責任がある。」
セドリック卿とエリオットは一瞬視線を交わした後、軽く頷いた。ライアンは不満げだったが、ルイスの目を見てそれ以上反論するのを諦めた。
旅立ちの日、朝の光が静かに城を照らしていた。門の前で集まった仲間たちは、それぞれの思いを胸にルイスとミユを見送っていた。
「必ず無事に帰ってきてください。」
セドリック卿は彼らの肩に手を置き、力強く言葉を送る。
「楽しい旅になるといいね!」
エリオットはいつものように軽口を叩くが、その笑みの裏にはどこか寂しさが滲んでいた。
「気をつけてください。僕たちはここで待っています。」
ライアンは真剣な表情で二人を見つめ、深く頭を下げた。
ミユはその一人ひとりに感謝の言葉を伝えながら、最後にルイスの方を向いた。
「準備は整いましたか?」
「もちろんだ。」
ルイスが頷くと、二人は馬車に乗り込み、門が静かに開いた。
彼らの姿が城の外へと消えていく中、仲間たちはその背中を見送りながら、それぞれの心に祈りを抱いていた。
馬車が揺れる中、ミユは窓から外の景色を眺めていた。広がる草原、風に揺れる木々、そして遠くに見える山々。そのすべてが彼女にとってはまだ馴染みのない光景だった。
「どうした、ミユ?」
隣に座るルイスが声をかける。
「なんだか、不思議な気分です。この世界に来たばかりの頃は、何もかも怖かったのに……今は、この景色が少しだけ安心感をくれる気がします。」
ミユは小さく微笑んだ。
「それは君が強くなった証拠だよ。」
ルイスは彼女を優しく見つめた。
ミユは少し驚いたように彼を見上げた。
「私、強くなれたんでしょうか……?」
「もちろんだ。」
ルイスは自信に満ちた声で答えた。
「君はもう、一人で抱え込む必要はない。僕たちがいる。僕がいる。」
その言葉に、ミユは少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

傷心令嬢と氷の魔術師のスパイス食堂
ゆちば
恋愛
【スパイスオタク令嬢×傲慢魔術師×歪んだ純愛】
王国の男爵令嬢フィーナは、薬師業の傍ら、大好きなスパイス料理の研究をしているスパイスオタク。
ところが、戦地に遠征中の婚約者の帰りをひたすら待つ彼女を家族は疎み、勝手に縁談を結ぼうとしていた。
そのことを知ったフィーナは家出を計画し、トドメに「婚約者は死んだのよ!」という暴言を吐く義妹をビンタ!!
そして実家を飛び出し、婚約者がいるらしい帝国を目指すが、道中の森で迷ってしまう。
そこで出会ったのは、行き倒れの魔術師の青年だった。
青年を救うため、偶然見つけた民家に彼を運び込み、フィーナは自慢のスパイス料理を振る舞う。
料理を食べた青年魔術師は元気を取り戻し、フィーナにある提案をする。
「君にスパイス料理の店を持たせてあげようってコトさ。光栄だろ?」
アッシュと名乗る彼は、店を構えれば結婚資金を稼ぎながら、行方知れずの婚約者の情報を集めることができるはずだと言う。
甘い言葉に釣られたフィーナは、魔術師アッシュと共に深夜限定営業の【スパイス食堂】をオープンさせることに。
じんわりと奥深いスパイス料理、婚約者の行方、そして不遜で傲慢で嫌味でイケメンなアッシュの秘密とは――?
★全63話完結済み
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

一日5秒を私にください
蒼緋 玲
恋愛
1.2.3.4.5…
一日5秒だけで良いから
この胸の高鳴りと心が満たされる理由を知りたい
長い不遇の扱いを受け、更に不治の病に冒されてしまった少女が、
初めて芽生える感情と人との繋がりを経て、
最期まで前を向いて精一杯生きていこうと邁進するお話。
その他外部サイトにも投稿しています
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる