幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

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第3部

11章王家に刻まれた影

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記録室の静寂を破る音は、ミユが資料をめくる手の動きだけだった。王家にまつわる謎を追い求め、彼女の目は一つの記録に引き寄せられていた。それは、先々代王とその養子についての詳細が記された古い書物だった。

「先々代の王は、子どもに恵まれず、弟の息子を養子に迎えた……」

ミユはその記述を声に出して読んだ。さらに記録を進めていくうちに、養子に迎えられた先代王が王家の血を引いていなかったことが、慎重に記載されているのに気づく。

「養子となった子どもの母親……王家に嫁いだ人物ではなく、父親の血筋にも疑念が……」

記録の断片を繋ぎ合わせ、ミユの胸はざわつき始めた。

さらに、別の巻物に目を移した彼女は、アンナ王妃に関する記録にたどり着いた。そこには、王が妻を亡くした後、妃を迎えなかった理由について、思いがけない事実が記されていた。

「流行病にかかり……その後遺症として、子どもをもうける力を失う……」

その言葉を目にした瞬間、ミユは資料を握る手が震えるのを止められなかった。

ミユは机に座り、整理するように深呼吸をした。先代王が養子として迎えられたため、王家の血筋はその時点で途絶えていた。そして、ルイスの父である現国王もまた、流行病の後遺症で子どもを作れなくなり、兄弟が生まれる可能性は完全に失われていた。

しかし、矛盾する記録が彼女の胸を突き動かす。

「でも、ルイス様は……王妃が亡くなる前に、もうすでに生まれていた。そうなると、ルイス様は確かに王妃のお子様……」

だが、次の瞬間、彼女は小さく首を振った。

「いいえ、まだ結論を急ぐべきではない。もし記録が正しいなら、ルイス様がエルフィナス王家の血筋を引いている可能性は、どこにあるの?」

彼女はもう一度記録を読み返し、次に調べるべき情報を考え始めた。

その後、ミユは廊下を歩きながら記録室を後にした。心にはまだ重い疑念が渦巻いている。

「私が知ったことを、ルイス様にお伝えするべきなのだろうか。でも、確証がないままでは……」

考え込む彼女に気づいたルイスが、廊下の先で彼女を待っていた。穏やかな表情を浮かべて彼女に声をかける。

「ミユ、また記録室に行っていたのか? 最近は随分と熱心だな。」

彼の声には優しい響きがあった。

「ルイス様……はい、少し気になることがあって……」

ミユは笑顔を作りながら答えたが、その表情に曇りがあることにルイスは気づいていた。

「君が一人で抱え込んでいることがあるのなら、話してくれてもいいんだよ。」

彼は彼女の顔を覗き込むようにして続けた。

「君が何を調べているかは聞かない。でも、無理をしないでほしい。」

その言葉に、ミユは思わず息を飲みそうになった。彼女の心の中で「ルイス様にこの事実を伝えるべきか」という問いが再び浮かび上がる。

「ありがとうございます、ルイス様……でも、もう少しだけ自分で考えてみたいんです。」

彼女はできる限り自然に答えた。

ルイスは少しだけ考え込むような顔をしたが、すぐに微笑んで頷いた。

「分かった。君が話す準備ができた時に聞かせてくれればいい。」
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