幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第3部

3章剣技大会と分隊長たちの実力

剣技大会が始まり、広場には騎士たちが整然と並んでいた。貴族出身の騎士たちは自らの誇りを示すように胸を張り、庶民出身の分隊長たちはその実力を示すべく、静かに剣を構えている。

ライアンは少し離れた位置でその様子を見つめていた。彼の表情はどこか暗く、重いものを背負っているように見える。

「緊張しているのか？」セドリック卿が彼の隣に立ちながら声をかけた。

「いえ……」ライアンは少し迷った後、苦笑いを浮かべた。「正直に言うと、少しだけ不安です。この大会が本当にうまくいくのか、反発している連中が納得するのか……」

セドリック卿は優しく笑いながら彼の肩を軽く叩いた。「大丈夫だ。腕前を見れば、誰が真にこの国を守るにふさわしいかは明らかになる。血筋ではなく、実力で示す。それが我々騎士の務めだ。」

その言葉に、ライアンは少し救われたような気がしたが、心の中のわだかまりは消えなかった。


剣技大会が進む中、ライアンは観客席の貴族たちの表情を観察していた。彼らの目には、分隊長たちへの敬意よりも、どこか冷たい視線が混じっているように見えた。

「血筋、ね……」

ライアンは小さく呟いた。

彼自身もかつてはそれを誇りにしていた。そこそこ名のある爵位の三男として生まれ、幼い頃は貴族としての誇りを教え込まれてきた。しかし、領地経営が上手くいかず家は没落。貴族としての地位を失い、ライアンは騎士として生きる道を選んだ。

それでも、彼の誇りはまだ残っていた。それがセドリック卿との出会いによってさらに強くなった。一代で叩き上げた実力で地位を築き、周囲から尊敬を集めるセドリック卿――彼の存在は、血筋ではなく努力と実力こそが真の価値を持つと信じさせてくれた。

「血筋で人を測るなんて……ナンセンスだ」

ライアンは小さく息を吐いた。

しかし、貴族たちの視線や言葉が彼を苛む。

「あの分隊長も素晴らしい剣技ですが、庶民出身という点がどうしても……」
「結局、育ちというのは隠せないものですわね。」

そんな囁きを耳にするたび、ライアンは心の中で煮え立つような怒りを感じた。

休憩時間、ライアンは剣の手入れをしているセドリック卿を見つけた。

「卿……少しよろしいですか？」

ライアンは緊張しながら声をかけた。

「もちろんだ、ライアン。どうした？」

セドリック卿は穏やかに答えた。

ライアンは少し迷いながらも、自分の胸に抱えている思いを打ち明けた。

「なぜ血筋がそこまで重要視されるのか、私には分かりません。実力で示せばそれで十分だと思うのに、どうして……。」

セドリック卿はしばらく考え込むように沈黙した後、静かに言った。

「血筋というのは、過去から引き継がれる責任の証でもある。だが、それがすべてではない。私たちのように、自らの力で役割を勝ち取る者もいる。ライアン、お前もその一人だ。」

「ですが……それでも、貴族たちは分隊長たちを認めようとしません。私が庶民出身である彼らを尊敬すると言えば、それだけで軽蔑されるような目を向けられることもあります。」

ライアンの声は苦しげだった。

セドリック卿は静かに彼の肩に手を置いた。

「どんな目を向けられようとも、お前が信じるものを守れ。それが貴族であろうと庶民であろうと、変わらない。騎士の本質は、誰かを守る力にあるのだから。」

その言葉に、ライアンは心を打たれた。

「……卿、ありがとうございます。私はこれからも、自分が正しいと思う道を信じます。」

セドリック卿は微笑みながら頷いた。

「それでいい。」