幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

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第2部

16章 ヴェルザリアの決戦

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数ある小さな痕跡を追って、たどり着いた宮殿地下の古代礼拝堂で、今回の黒幕が待ち構えていた。
先日の表敬訪問歓迎会にも参加していたヴェルザリアの古参貴族カスパールとの対決が始まった。一行は結晶から放たれる強大な魔力に立ち向かいながら、カスパールの目的を阻止しようと奮闘していた。

「ここで何をしているのか、全て話せ!」

ルイスが剣を構えて叫ぶ。

カスパールは冷たい笑みを浮かべながら応じた。

「お前たちには分かるまい。この儀式こそが、この国に真の秩序を取り戻すためのものだ。そして、その中心にいるのは貴様だ――エリオット・グレイアム!」
「俺……?」

エリオットが驚き、眉をひそめる。

「そうだとも。貴様の血が、この儀式の鍵なのだ」

カスパールは結晶に手をかざしながら続けた。

「貴様の家系には、ヴェルザリアの古い王族の血が流れている。その血を引き出し、結晶の力と共に我が儀式に捧げれば、現在の王家を完全に滅ぼし、新たな秩序を築くことができる!」
「俺の血を……?」

エリオットの声には混乱と怒りが交じっていた。

カスパールはさらに続けた。

「アレクシス殿下の存在など、もはや不要だ。正当性のない王家を守る意味はない。だが、貴様の血ならば、古代の契約を破壊し、王家の消滅を確実にできる」

その言葉に、一行の怒りが爆発した。

「そんな馬鹿な話があるか!」

ライアンが剣を構えて叫ぶ。

「エリオットを利用して、国を滅ぼすだと? 許せるわけがない!」
「そうです! そんな計画、絶対に止めます!」

ライアンに続けて、ミユも必死に声を上げた。

「奴が何を言おうと、僕たちはお前を守る。エリオット、今は気にするな!」

ルイスがエリオットに向き直り、剣を構えたまま言った。

一方、エリオットは呆然と立ち尽くしていたが、ミユが彼の手を握りしめた。

「エリオット様、大丈夫です。あなたがどんな血を引いていても、私たちには何も関係ありません。私たちは一緒です!」

その言葉に、エリオットは目を閉じて深呼吸した。そして目を開くと、力強く頷いた。

「そうだな。過去がどうであれ、俺は今ここでお前たちと戦う。それが全てだ!」


カスパールは結晶の力をさらに高め、礼拝堂全体に強大な魔力を放ち始めた。

「あと少しなのだ、私を止められるものは誰もいない!」
「そんなことはさせない!」

ルイスが剣を振りかざし、カスパールに突進する。

ライアンが彼の後ろに続き、連携攻撃でカスパール卿の防御を崩そうとする。一方、ミユは光の力を使い、結晶の不気味な光を抑え込もうと必死だった。

「この力……完全には制御できない!」

エリオットが呟きながら、杖を掲げた。

「でも、全力を尽くすしかない!」

エリオットの魔法が結晶に干渉し始めた瞬間、結晶の光が不規則に揺れた。ミユも全身全霊で祈るように力を放ち、結晶の輝きをさらに弱めていく。

「今だ!」

ルイスが叫び、剣を振り下ろしてカスパール卿の動きを封じる。続けてライアンが剣を突き立て、彼の武器を弾き飛ばした。

「貴様ら……!」

カスパールが苦痛に顔を歪めながらも、なお結晶に力を送り込もうとする。

「これで終わりだ!」

ルイスが最後の一撃を繰り出し、カスパールはその場に崩れ落ちた。

カスパールの敗北と共に、結晶は砕け散った。しかし、その欠片はなおも不気味な光を放っていた。

エリオットがその欠片を拾い上げ、険しい表情で言った。

「俺の血を利用して、こんなことを……。でも、この結晶の力が完全に消えたわけじゃない」
「この欠片はどうなるのでしょう?」

ミユが不安そうに尋ねる。
エリオットは欠片を見つめながら静かに答えた。

「これがどれほど危険なものか、まだ分からない。でも、俺たちが見張り続けるしかないな」
「持って帰って、オーウェン殿に見てもらおう」
「そうしましょう。オーウェン様ならなにか気がつくことがあるかもしれません」

これだけの騒ぎになって、隠し通せる訳もなく、今夜あった出来事はアレクシス殿下の知るところとなった。

アレクシス王子は、結果的に王家と自分自身を守るために戦い抜いたミユたちに深く感謝した。

「あなたたちのおかげで、国と王家の未来が守られました。本当にありがとう。」

「これからは、あなた自身がこの国を支えてください」とルイスが静かに答えた。

ミユも穏やかに微笑んで言った。

「殿下ならきっと大丈夫です。私たちも、これからもっと頑張ります!」

アレクシスは決意を込めて頷いた。

「私は、王家の正当性を疑う者たちに負けません。この国を守り抜く覚悟です。そして、あなたたちとの友好関係を何よりも大切にしていきます。」

一方、礼拝堂に残された結晶の欠片を見つめながら、エリオットは深い息を吐いた。

「俺の血を使おうとするなんて……。こんな魔術がまだ残っているなんてな。」
「それでも、結晶は完全に砕けたんです。もう危険はないですよね?」

ミユが不安げに尋ねる。

エリオットは欠片を手に取りながら慎重に答えた。

「いや、完全に安全とは言えない。この欠片がどれほどの力を持つのか、まだ分からないからな。けど、俺たちが見張っていれば、きっと大丈夫だ。」

ルイスが欠片を見つめながら言った。

「これはエルフィナスに持ち帰り、厳重に管理しよう」


一行はエルフィナスへの帰還の準備を進める中、それぞれの心に新たな決意を抱いていた。

ミユがそっとエリオットに近づき、静かに声をかけた。

「エリオット様、大丈夫ですか?」

エリオットは彼女の顔を見て柔らかく笑った。

「ああ、大丈夫だよ。ありがとう、ミユ。」

ミユは少し考え込むように目を伏せた後、はっきりとした声で言った。

「エリオット様がどんな血筋でも、私たちには関係ありません。エリオット様はエリオット様ですから。」

その言葉にエリオットは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに優しい目で彼女を見つめた。

「ありがとう。その言葉に救われるよ。俺は、これからも君たちと一緒に歩んでいきたい。」
「もちろんです!」

ミユは力強く頷いた。

ライアンとルイスも彼らのやりとりを静かに見守っていたが、ライアンが小声で冗談を言った。

「おい、エリオット。あんまり深刻な顔ばかりしてると、ミユが心配しすぎるぞ。」
「分かってるよ」

エリオットは苦笑いを浮かべながら答えた。

「俺のことなら心配いらない。次はもっと軽やかに動けるようになるさ。」

そう言って、エリオットは片目を瞑って見せた。
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