幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第2部

14章成長の光と影

翌朝、ミユは力を鍛えるために訓練場に立っていた。これまで仲間たちに守られてきた自分を少しでも変えるため、魔法や護身術を身に付ける必要があると感じていたのだ。

エリオットが指導役を買って出ており、ミユの魔力を引き出す訓練を進めていた。訓練場の隅では、ライアンがその様子を静かに見守っている。

「もう一度、杖を構えて。今度は魔力を安定させることを意識してみろ」

エリオットが優しく声をかける。

「はい、エリオット様！」

ミユは汗をぬぐいながら頷き、再び杖を構えた。

彼女の魔力が杖を通じて放たれると、淡い光が訓練場を照らす。その光は不安定ながらも徐々に形を成していき、エリオットは微かに笑みを浮かべた。

「そうだ。その調子だぞ。焦らず、ゆっくりだ」


訓練の合間、ミユが少し休憩を取ると、ライアンがエリオットに声をかけた。「随分と優しく指導するんだな。お前らしくもない」

エリオットは肩をすくめながら答える。

「お前も分かってるだろ。あの子は努力家だ。ちゃんと導いてやれば、すぐに伸びる」

「それだけか？」

ライアンが少しからかうように言う。

エリオットは一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに笑い飛ばすように答えた。

「何を言ってるんだよ。俺とあの子じゃ、年齢も立場も違いすぎる。俺にとってはただの仲間、それだけだ」

「そうか？」

ライアンは目を細めながら、訓練場で必死に魔法を練習するミユを見つめた。

「お前はそう思い込んでいるだけじゃないのか？」

「……ライアン、お前は黙って見てればいいんだよ」

エリオットは少し苛立ったように答えたが、その視線はどこか揺れていた。

ライアンは微かに笑いながら言った。

「まあいい。俺も子どもに本気で恋愛感情を持つような男じゃないと思いたいが……あの子には特別な何かがある。お前だけじゃなく、俺たち全員を動かす力がな」

「それは否定しない」

エリオットは静かに言葉を返した。

「あの子は、俺たちが守りたくなる何かを持ってる。それだけだよ。それ以上の感情なんて、俺には不相応だ」

「不相応か……」

ライアンは短く笑い、エリオットを横目で見た。

「その気持ちを振り払えるうちはいいが、そう簡単に割り切れるものでもないと思うがな」

「黙れ、ライアン」

エリオットはわざとらしく溜息をつきながら答えた。しかし、その瞳の奥に一瞬浮かんだ迷いを、ライアンは見逃さなかった。


「エリオット様、もう一度やってみてもいいですか？」

ミユが立ち上がり、真剣な眼差しを向ける。

エリオットは少し驚いたが、すぐに笑みを浮かべて答えた。

「もちろんだ。その意気だよ、ミユ」

再び杖を構えたミユの魔力は、今度はさらに安定し、小さな光の球体を形成した。それはしばらく空中に留まった後、静かに消えていった。

「すごいぞ、ミユ！ もう形になり始めている！」

エリオットが称賛すると、ミユは顔を赤らめながらも嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます！ これもエリオット様のおかげです！」

その言葉に、エリオットは短く笑っただけだったが、ライアンはその横顔を見て小さく頷いた。

「やっぱり、割り切れてないようだな」とライアンが小声で呟いたが、それにエリオットは気づかなかった。