幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

文字の大きさ
上 下
36 / 74
第2部

13章暗部の影

しおりを挟む
ミユたちは導きの魔力が指し示す次の場所への準備を進めていた。一行はそれぞれの役割を確認し合いながら、敵の罠や黒幕の動きに備えていたが、その中でエリオットは、自分が呪われた過去に思いを巡らせていた。

彼が呪いを受けたのは、魔法使いの交換留学で隣国ヴェルザリアを訪れたときのことだった。当時、魔術学院に滞在していたエリオットは、その知識や能力を高く評価されていたが、その裏では彼の家系が密かに注目されていた。彼の家系は、古く隣国ヴェルザリアの王族の血筋を受け継いでおり、それが黒幕にとって脅威と見なされていたのだ。

エリオットの回想を断ち切るように、ルイスの声が響いた。「全員、準備は整ったか?」

ライアンが即座に応じる。「いつでも動ける」

ミユも、エリオットの隣で強く頷いた。「私も準備できています!」

「その意気だ」とエリオットは笑いながら応じた。ミユの努力を見守る中で、彼は彼女の力がどこまで伸びるのかに期待を抱いていた。

ルイスは彼らを見渡しながら指示を出した。「次の場所では、罠が待っている可能性が高い。各自、警戒を怠らないように」

ヴェルザリア宮殿の奥深くでは、カスパール卿が冷たい眼差しで手元の文書を見つめていた。文書にはエリオットの家系図と、その中に記された隣国の王族の名前が記されている。「奴らがこちらに迫っているか」と、彼は呟いた。

「はい、結晶の力を追い、その動きに近づいています」と、彼の側に控える黒いフードを被った魔術師が答えた。

「愚かなことだ。だが、予定は変わらん。アレクシス王子を操り、この国の王家を一掃する。それが先代より受け継いだ使命だ」とカスパール卿は冷酷に語った。その背後には、結晶が不気味な光を放ちながら浮かんでいた。

彼の計画の背景には、ヴェルザリア王家の正当性に対する疑念があった。アレクシスの母がかつて不倫をしていたという噂は、王族としての権威を揺るがすには十分だった。「アレクシスの存在は不安定な秩序そのものだ。この国に未来はない」と彼は呟き、闇の中に消えた。

一行が目的地へと向かう道中、周囲には次第に不穏な気配が漂い始めた。導きの魔力が示した廃墟にたどり着いた彼らは、さらに奥深く進んでいく。その道中で、エリオットが異変に気づいた。

「周囲の魔力が歪んでいる。これは罠だ」と彼が低い声で警告を発する。

「全員、注意しろ」とルイスが言い、ライアンは剣を構えた。

やがて、廃墟の中心にたどり着くと、そこには黒い結晶が浮かび上がっていた。不気味に脈動するそれを見つめ、エリオットが息を呑んだ。「ただの結晶じゃない……!」

その言葉が終わる前に、結晶が激しい光を放ち、彼らの周囲に魔法陣が展開された。四方八方に広がる黒い霧が一行を包み込み、視界を奪っていく。

「罠だ!」ルイスの叫びが響くが、その声すら霧にかき消されそうになる。

エリオットは杖を握りしめ、魔法陣を分析しながら叫んだ。「時間稼ぎのための陣だ。奴らがここに来るまで、僕たちを封じ込めようとしている!」

ライアンが剣を振りかざし、霧の中で動こうとするが、魔法陣の力が彼を押さえ込む。「どうすれば抜けられる!?」

エリオットが冷静な声で答える。「僕がこの陣を破る。その間、全員、霧に飲まれないようにしろ!」

彼が魔法を放つと、魔法陣が僅かに揺らぎ、その隙を突いてルイスとライアンが剣で霧を切り裂く。ミユも、必死に祈るように手を組み、その力で霧を弾き返した。やがて、エリオットが魔法陣を完全に解除し、一行は脱出の機会を得た。

霧が晴れた瞬間、遠くに人影が見えた。黒いフードを被り、不気味に立ち尽くすその姿は、一行を冷たく見下ろしていた。ルイスが剣を構えながら睨みつける。「貴様が黒幕か!」

しかし、その声に答えることなく、男は静かに手を上げ、黒い霧を再び操り始めた。エリオットが杖を振り上げ、魔法で霧を切り裂こうとするが、男の姿は霧の中に消え去った。

「今の奴が黒幕かどうかは分からないが、確実に敵の一員だ」とライアンが息を整えながら言う。

「結晶を操っていた……あれが奴らの力の鍵だろう」とエリオットは険しい表情を崩さなかった。

ルイスは深く息を吐き、一行を見渡した。「全員、無事か? 今回は抜け出せたが、次はさらに危険な罠が待っているだろう。準備を整えて、次の行動に備える」

ミユは静かに拳を握りしめ、「私ももっと力をつけます。皆さんと一緒に戦えるように」と決意を新たにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

傷心令嬢と氷の魔術師のスパイス食堂

ゆちば
恋愛
【スパイスオタク令嬢×傲慢魔術師×歪んだ純愛】 王国の男爵令嬢フィーナは、薬師業の傍ら、大好きなスパイス料理の研究をしているスパイスオタク。 ところが、戦地に遠征中の婚約者の帰りをひたすら待つ彼女を家族は疎み、勝手に縁談を結ぼうとしていた。 そのことを知ったフィーナは家出を計画し、トドメに「婚約者は死んだのよ!」という暴言を吐く義妹をビンタ!! そして実家を飛び出し、婚約者がいるらしい帝国を目指すが、道中の森で迷ってしまう。 そこで出会ったのは、行き倒れの魔術師の青年だった。 青年を救うため、偶然見つけた民家に彼を運び込み、フィーナは自慢のスパイス料理を振る舞う。 料理を食べた青年魔術師は元気を取り戻し、フィーナにある提案をする。 「君にスパイス料理の店を持たせてあげようってコトさ。光栄だろ?」 アッシュと名乗る彼は、店を構えれば結婚資金を稼ぎながら、行方知れずの婚約者の情報を集めることができるはずだと言う。 甘い言葉に釣られたフィーナは、魔術師アッシュと共に深夜限定営業の【スパイス食堂】をオープンさせることに。 じんわりと奥深いスパイス料理、婚約者の行方、そして不遜で傲慢で嫌味でイケメンなアッシュの秘密とは――? ★全63話完結済み

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

一日5秒を私にください

蒼緋 玲
恋愛
1.2.3.4.5… 一日5秒だけで良いから この胸の高鳴りと心が満たされる理由を知りたい 長い不遇の扱いを受け、更に不治の病に冒されてしまった少女が、 初めて芽生える感情と人との繋がりを経て、 最期まで前を向いて精一杯生きていこうと邁進するお話。 その他外部サイトにも投稿しています

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...