幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

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第2部

10章黒幕の疑念

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「君たち、何をしている?」

低く響く声に、ミユとエリオットは反射的に振り向いた。そこには、ヴェルザリアの王子アレクシスが立っていた。彼の微笑みは柔らかいが、その目は二人を鋭く観察している。

「アレクシス殿下……夜遅くにお目にかかるとは思いませんでした」

エリオットが冷静を装って答える。

「私もだ。エルフィナスの客人が図書室にいるとは予想外だったよ」

アレクシスの視線が、エリオットが持っている本へと向けられた。

「その本、興味深い内容でもあったのか?」

ミユは咄嗟に言葉を探しながら答えた。

「ええ、少しでも隣国の歴史や文化を学びたくて……」

「そうか。感心だね」

アレクシスは柔らかく笑った。

「だが、これほど遅い時間では、学びも限られるだろう。どうだろう、私の案内で日中に改めて探索しては?」

エリオットはその提案に対して薄い笑みを浮かべながら言った。

「ぜひお願いしたいですね。殿下のご案内なら、きっと貴重な体験になるでしょう」

「それは良かった」とアレクシスは言い、視線を一度ミユに戻してから本棚を指した。

「ただ、こちらの書物の多くは、学ぶ者の意図を試すものだ。どうか気をつけて」

その言葉にはどこか含みがあったが、ミユとエリオットは表情を崩さず、その場を後にした。

翌朝、ミユとエリオットは昨夜の出来事をルイスに報告した。彼は眉をひそめながら真剣に聞き入った。

「アレクシス殿下が図書室に現れたタイミングは偶然とは思えないな。彼がこちらを監視している可能性が高い」ルイスの声には冷静な分析が感じられた。

ライアンが腕を組みながら付け加えた。「しかも、本に気づいていたとすれば、こちらが何かを探っていると感づかれているかもしれない」

「それでも、得られた手掛かりは貴重です。この紋章は契約魔術に関係しているとオーウェン様もおっしゃっていました」ミユが本の印章を指し示しながら言った。

ルイスは頷きながら答えた。

「そうだな。この紋章を手掛かりに、さらに追跡を進めるしかない」

「ただし、ヴェルザリア内部の状況も慎重に探る必要がある」とライアンが続けた。

「アレクシス殿下が協力者なのか、それとも黒幕と関係があるのかを見極めるべきだ」

「そうだな。彼を直接疑うのはまだ早いが、監視の目は避けられない。全員、警戒を怠らないように」

ルイスは一同に指示を出し、次の行動を決めた。

その日、ミユたちは表敬訪問の一環として、ヴェルザリア宮殿の周辺を案内されていた。案内役にはアレクシスが付き、親切で礼儀正しい態度を崩さなかったが、どこか腑に落ちない感覚が付きまとっていた。

宮殿内を回る中で、ミユはある一枚の古い絵画に目を留めた。そこには、契約魔術の紋章と同じ模様が小さく描かれていた。

「ミユ、どうした?」

ライアンが気づいて声をかける。

「この絵……昨夜見つけた紋章と似ています」ミユは指差しながら言った。

「確かに似ているな」とエリオットが近づいて絵を眺める。

「これは何を描いているんだ?」

アレクシスが静かに答えた。

「それは、古代ヴェルザリアの魔術師たちが行った“結界儀式”を描いたものだ。この紋章は、強力な魔術を発動する際に用いられたという」

「結界儀式……」

ミユはその言葉に引っかかりを覚えた。

アレクシスは微笑を浮かべながら続けた。

「残念ながら、詳細は失われているが、その力は現在の我々の魔術の基礎となっている。それ以上は、私の口からは何とも言えないな」

その言葉の裏に何か隠されているように感じたミユだったが、それ以上突っ込むことはできなかった。

その夜、一行は宿舎に集まり、昼間の発見について話し合った。

「結界儀式……それが呪いの契約と関係している可能性が高い」

エリオットが口火を切った。

「ただ、あのアレクシス殿下の態度が気になります」とミユが続けた。

「何かを隠しているような気がしました」

「それは間違いないな」とライアンが冷静に言った。

「だが、アレクシス自身が黒幕とは限らない。彼も何らかの事情で動かされている可能性がある」

「そうだな。だが、彼を避けて動くのは難しい。明日はさらに宮殿内を探索するが、監視の目をどうかわすかが鍵になる」

そう、ルイスが結論づけた。
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