幼女となった社畜は異世界の救世主となる

第2部

9章隣国ヴェルザリアへの旅立ち

オーウェンの解析の結果、黒幕の手掛かりがヴェルザリア帝国の首都近郊にある可能性が高いことが判明した。その情報を受けたルイスは、使節団として正式にヴェルザリアを訪問することを決意する。

「エルフィナス王国の王子として表敬訪問の形を取れば、彼らも正規の対応をせざるを得ないだろう」とルイスは静かに語った。

「ヴェルザリアは友好的とは言えない国です」とライアンが低い声で補足する。「特に近年、帝国内部での権力争いが激化しており、対外的な態度も安定していない。慎重に動く必要があります」

「それでも、黒幕を追うためには訪問するしかない」とルイスがきっぱりと言った。「今回は表向きは外交だが、実際には黒幕の居場所を探るのが目的だ。全員で準備を整え、出発する」


ヴェルザリア帝国へ向かう道中、一行は徐々にその雰囲気の違いを感じ始めていた。エルフィナスの緑豊かな景色とは対照的に、ヴェルザリアは険しい山々と乾いた平原が広がり、空気にはどこか重苦しいものが漂っていた。

ミユは馬車の窓からその景色を眺めながら、そっと呟いた。「ヴェルザリア……すごく荒々しい土地ですね」

「自然環境だけじゃなく、人々の気質も違う」とライアンが言った。「この国では力が正義だ。魔術の才能がある者が出世し、弱い者は淘汰される風潮がある」

「それだけに警戒しろということだな」とエリオットが軽い調子で言いながらも、その目は真剣だった。


首都ヴァイゼルトに到着すると、一行はヴェルザリアの宮殿へ案内された。重厚な石造りの建物は威圧的であり、その中で待っていたのは、ヴェルザリアの若き王子であるアレクシスだった。

「エルフィナス王国のルイス殿下、一行を心より歓迎します」アレクシスは微笑を浮かべながらも、その目には冷静な観察の色が浮かんでいた。

「アレクシス殿下、このような機会をいただき感謝申し上げます。両国の友好を深めるため、誠心誠意努める所存です」ルイスは堂々とした態度で応じた。

ミユはそのやり取りを静かに見守りながら、アレクシスの言葉や態度の裏に何か隠されているのではないかと感じていた。

「友好的に見えて……でも、何かが違う気がします」ミユがルイスに小声で伝えると、彼は頷きながら答えた。

「僕もそう感じる。ただ、相手の態度をすぐには疑わない。まずは状況を把握することが大事だ」


夜、ミユとエリオットは隙を見て宮殿内の図書室に忍び込んだ。オーウェンが残した魔力の解析結果を元に、契約に関わる痕跡が記されている可能性のある古い文献を探していた。

「ここに何か残されているはずだ……」エリオットは焦るようにページをめくり続ける。

その時、ミユは一冊の本に記された奇妙な印章に目を留めた。「エリオット様、これ……見てください。この印章、オーウェン様が言っていた契約魔術の紋様に似ています！」

エリオットがその本を覗き込み、目を細めた。「確かに……これだ。この印章の持ち主が、契約を施した人物に違いない」

しかしその瞬間、背後から低い声が響いた。「君たち、何をしている？」

振り向くと、そこにはアレクシスが立っていた。彼の表情には笑みが浮かんでいるが、その瞳には冷たい光が宿っていた。