幼女となった社畜は異世界の救世主となる

藤原遊

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第2部

4章 秘密の重み

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翌朝、ミユは落ち着かない気持ちのまま、王城の食堂で朝食をとっていた。昨夜のエリオットの様子がどうしても頭から離れない。普段は軽やかで余裕を見せる彼が、あんなにも苦しそうな表情をしていたことに、胸の奥がざわついていた。

ルイスが席に着くなり彼女を見て、すぐに気づいた。

「ミユ、顔色が悪いな。何かあったのか?」

彼女は少し迷いながらも、昨夜中庭で見たことを話そうかどうか考えた。エリオットの様子を誰かに相談したほうがいいのかもしれない、と思いながらも、彼が「俺の問題だ」と言った言葉が引っかかっていた。

「いえ……ちょっと考えごとをしていて……」

ミユは曖昧に答えたが、その顔にはまだ不安の色が残っていた。

ライアンがパンを口に運びながら、冗談めかして言った。

「エリオットに余計なことでも言われたのか? あいつはいつも口が軽いからな」

「そんなんじゃないです……!」

ミユは慌てて否定したが、その反応が余計にライアンの笑いを誘った。

「まあまあ、ライアン」

ルイスが軽く制し、ミユの方に目を戻した。

「無理に話す必要はない。ただ、何かあれば僕たちに相談してほしい」

ミユはその言葉に救われる思いで頷き、静かに朝食を終えた。


一方その頃、エリオットは自室で一人、鏡を見つめていた。彼の目の奥には微かに赤い光が残り、昨夜の呪いの影響がまだ抜けきっていないのが分かる。

「……またかよ……」

呟いた声には諦めと怒りが混じっていた。彼は鏡の中に映る自分に向かって拳を振り上げ、叩きつけようとしたが、寸前で止めた。代わりに手を下ろし、額に当てて深く息を吐いた。

「どこまでやれば……お前は満足するんだ?」

その瞬間、彼の背後に低く冷たい声が響いた。

「満足などない。お前が尽くし続ける限り、この契約は続く。それを忘れるな」

振り返ると、そこには黒い影が揺らめいていた。その姿は具体的な形を持たないが、エリオットの目にはその不気味な存在感が鮮明に映っていた。

「もう限界なんだ……これ以上は……」

彼が声を絞り出すように言うと、影は冷たく笑った。

「限界など許されない。お前が背負うのはその程度の重みではないはずだ」

影が彼の身体に再び触れるように近づくと、エリオットは一歩後ずさった。しかし、影はそれを許さず、彼を取り囲むように広がった。

「……ミユ……」

エリオットは小さく名前を呟きながら目を閉じた。心の中に浮かぶのは、彼女が差し伸べてくれた手の温もりだった。


その日の午後、ミユはエリオットを探して廊下を歩いていた。何かを話さなければならない、そんな衝動に駆られていた。昨夜のことをそのままにしておくのは、彼女にとっても辛いことだった。

エリオットを見つけたのは、中庭への道を進む途中だった。彼は窓辺に立ち、外の景色を見つめている。ミユが近づいて声をかけると、彼は振り返り、少し疲れた笑みを浮かべた。

「どうした、ミユ。そんなに真剣な顔をして」

「エリオット様……昨夜のことが気になって……。本当に何も問題はないんですか?」

彼女は勇気を振り絞って尋ねた。
エリオットは少し目を伏せ、そしてゆっくり首を振った。

「心配かけて悪かったな。でも、大丈夫だよ。俺はこう見えても結構タフなんだ」

「でも……」ミユは食い下がるように言った。「何か苦しそうに見えました。私でよければ、話してほしいです」

その言葉にエリオットは微かに目を見開いたが、すぐに笑顔に戻った。

「ミユ、優しいな。でも、これは俺の問題だ。君を巻き込むわけにはいかない」

彼の言葉に、ミユはそれ以上何も言えなくなった。ただ、その背中がどこか孤独に見え、胸が締め付けられるような思いを抱えたまま、その場を離れた。
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